スター・ウォーズに囲まれて暮らす男「ベイダーには過去の自分と重なるところがある」

タツヤンさんの自宅の一室。どの部屋もグッズであふれている。(撮影:中村英史)

「遠い昔、はるかかなたの銀河系で……」。このお決まりのフレーズから始まるのが、映画『スター・ウォーズ』シリーズです。第1作の『エピソード4』の公開から40年以上、正式な続編だけで8作あり、2019年末には第9作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開されることになりました。

この作品にまつわるグッズに囲まれて暮らすコレクターのタツヤンさんは、第1作から登場する敵役「ダース・ベイダー」に「自分と重なるところがある」と、その魅力を語ります。

コレクター歴25年。塗装会社を経営するかたわら、これまで2000万〜3000万円をコレクションに費やしてきたというタツヤンさん。埼玉県にある3LDKの自宅は『スター・ウォーズ』グッズと特撮グッズであふれているため「リビングで寝ている」と言います。そんなタツヤンさんを訪ね、話を聞きました。

リビングにはダース・ベイダーのマスクや胸像が。(撮影:中村英史)

コレクションは「1万点くらい」『3』は「見ていて心が苦しい」

ーーコレクションは全部で何点ぐらいあるのでしょうか?

タツヤン:ちゃんと数えたことがないんですが、1万点くらいあると思います。

ーーリビングには「ダース・ベイダー」のマスクや胸像がありますね。

タツヤン:イベントでダース・ベイダーのコスプレをやることがあるんです。

ーータツヤンさんは背が高いので、身体の大きなダース・ベイダーのコスプレが似合いそうですね。

タツヤン:僕は身長が182㎝なんですけど、ダース・ベイダーは2m2㎝という設定なんです。なので、マスクの大きさと、足下はブーツなのでシークレットインソール、靴のなかでつま先があがるようにして、ぴったり2m2㎝になるようにしています。

イベントで写真を撮ってもらったり握手したりすると、中学生とか高校生から大人まで「デカっ! 本物みたいじゃん」って言ってくれる。そう思ってもらえるように、少しでも近づけるようにしたいんです。だから背が高くてよかったなと。

ーーコレクターになった、そもそものきっかけは何ですか?

タツヤン:1997年に『スター・ウォーズ』の『特別篇』(エピソード4〜6にCG処理を施したバージョン)が公開されたんですけど、それに先駆けて1995年からグッズが発売されたんです。当時僕は中学生で、それほど興味があるわけでもなくて、テレビでなんとなく見たことがあるぐらいだったんですけど、フィギュアを買ってしまったんです。黒くてかっこよかったので、「買うならダース・ベイダーだろう」と1体買ってみたら、そこからコレクターになっちゃったというか。

4歳下の弟がいるんですけど、彼は当時小学生で。「2人で集めよう」ってなって。おこづかいをもらったときに、お互いダブらないようにフィギュアを買って、それを壁に飾って。中学、高校のときはずっとそれをしていましたね。

俳優マーク・ハミルにサインしてもらったフィギュア。(撮影:中村英史)

ーーということは、ちゃんと映画を見たのはコレクションを始めてから?

タツヤン:小学生のときからテレビのロードショーでぼーっと見てはいましたけど、『エピソード4』が公開された年はまだ生まれていませんし、(『5』『6』が公開された)1980年代は小さかったこともあって、映画館に行ってなかった。だから1997年の『特別篇』で初めて映画館で見ることができたんです。

ーーダース・ベイダーの魅力は、どこにあるのでしょうか?

タツヤン:ダース・ベイダーは本当の「悪」ではないんです。弱いところがあって。「してはダメ」ということを隠れてしてしまったり、精神的にも不安定だったり。でも素直な面もあるというか、真っすぐというか……誰にでも起きうるし、自分にも似ているかなって思うところがあるんです。自信過剰なところとか(笑)。

彼の師匠は「お前はまだまだだぞ」って。短気なところがあるのを見ているんですよね。にも関わらず、「俺のことを認めてくれない」とか「なんでわかってくれないんだ」って怒ってるんです。そういうところも自分に似てるかなって。僕も若いころは葛藤がありましたしね。

青いのがR2-D2、オレンジ色のがBB-8。(撮影:中村英史)

ーー『スター・ウォーズ』なぜ、これほど長く愛されていると思いますか?

タツヤン:やっぱりキャラクターですね。ダース・ベイダーのほかにも、C-3PO(シースリーピーオー)だったり、R2-D2(アールツーディーツー)、BB-8(ビービーエイト)、みんなキャラクターが強いじゃないですか。

このあいだ、知り合った人に「『スター・ウォーズ』が好きなんです」って話したら、その人は『スター・ウォーズ』を見たことがないのに、グッズを買ったことがあったり、キーホルダーがかわいいって言ったりしてるんですよ。そういうのを聞くと、やっぱキャラクターがすごいんだなって思いますね。もちろん物語にも魅力的なものがいっぱいありますけど。

ーーシリーズのなかで「特にこれが好き」という作品はありますか?

タツヤン:一番好きなのは『エピソード4』ですね。映画館で最初に見たものですし。(後から公開された前日譚の)『3』も好きなんですけど、シリアスだし、師弟対決の場面があって、イヤなんですよね。『スター・ウォーズ』ファンはみんなそうなんでしょうけど、『3』は見ていて心が苦しいですし、軽い気持ちで見られないんです。

ーー『エピソード3』は「堕ちる」話ですから、少し暗い雰囲気がありますね。

タツヤン:面白いですよ。面白いですけど、終盤に向かっていくにつれて、「ああ……」って毎回思いますから。好きだからこそ、やっぱり(主人公に)感情移入しちゃうんです。

ファンはみんな「ひとり」で『スター・ウォーズ」を楽しんでいた

ーーコレクションのなかで、お気に入りのグッズは?

タツヤン:(初期3作の主人公)「ルーク」のフィギュアです。ルークを演じたマーク・ハミルさんにサインをもらったんです。2年前くらいに来日してレッドカーペットを歩かれたとき、手を伸ばして「サインください」って。けっこう混雑していたんですけど、たまたま手に取っていただいて。だからこれはお気に入り。なくなったら困るものです。

壁を埋めつくすフィギュアの数々。(撮影・中村英史)

ーー買ったときの値段が高いとか、値上がりしているとかっていうのは関係ないんですね。

タツヤン:それは関係ないんです。

ーー大人になってコレクションをやめようと思ったことは?

タツヤン:なかったですね。『スター・ウォーズ』が、『エピソード4』〜『6』とその後に公開された『エピソード1』〜『3』で終わっちゃったというか、それ以降は撮らない感じになったとき、ファンは離れちゃったんですね。その時期を僕は「氷河期時代」と呼んでるんですけど。

だけど、自分としてはずっとグッズを集め続けてたんですよ。あまのじゃくっていうか、流行りだから買うんじゃなくて。人がいいって言わないほうに走ってたっていうのもあるかもしれません。

だから中3から高校に入ったくらいのときには周りに『スター・ウォーズ』が好きな人がいなかったんですよ。全然。僕が「スターウォーズ マニア ファンクラブ」を作ったきっかけっていうのも、そこなんですよね。

「スターウォーズ マニア ファンクラブ」のコスプレイヤーたち(提供:SWMFC)

ーー話せる仲間がほしかった。

タツヤン:僕が若いときはSNSとか普及してなくて、『スター・ウォーズ』が好きな人とあまり出会えなかったんです。弟くらいしかいなかった(笑)イベントもあまりなくて、あっても、ひとりで行ったりとか、当時の彼女を無理やり連れて行ったみたいなところがあったんです。

今はFacebookもTwitterもやっていると。「じゃあ、ちょっとグループを作ってみようかな」って、『エピソード7』が公開されたタイミング(2015年)で作ってみたんです。ひとりでイベントに行きにくいなっていう人が、誰でも集まれるような場所を作りたいっていうのがあって。今年で4年目で、グループには9000人以上が入ってくれていて、リアルイベントを開いたときには、無料開放ということもあって200人くらいの動員がありました。

『スター・ウォーズ』グッズで「足の踏み場もない」状態。(撮影・中村英史)

ーーファンクラブの集まりの写真を見ると、みなさんコスプレのクオリティが高いですね。

タツヤン:みんな手作りなんですよ。売ってないんで。マスクとか全部100円ショップの紙粘土で作っている人もいます。フィギュアを見ながら。その人は造形の世界に行きたかったらしくて、ずっとひとりで作ってたんです。たまにイベントに行っても、なかなか友達ができなかったらしいんですけど、うちがオフ会をやったときに来てくれて。「こういうのを作ってるんです」って。それでみんな「スゲー!」ってなって、すぐ友達になったんです。

ーーそれまでは誰に見せるでもなく、自分のためだけにやっていた。

タツヤン:そういう人が多いですね。ふつうはフィギュアをパッケージのままとっておくんですが、あえて開封しちゃって、映画のシーンを再現している人もいます。会社の人とか周りの人にわかってもらえないから、自宅のロフトみたいなところでずっとひとりで楽しんでたんですね。その人もファンクラブに入ったら、結局、みんなと仲良くなれた。そういう人たちの集まりなんですよ。

『スター・ウォーズ』のプラモデルを作ってる人も、昔からやってたらしいんですけど、やっぱり「誰にも見てもらえなかった」って言ってたんで。そういうことができる場を作れてよかったなっていうのは思います。

ーー『エピソード9』が公開されますが、近年公開された『エピソード7』や『8』には賛否両論あるようです。タツヤンさんはどうみていますか?

タツヤン:『スター・ウォーズ』は『エピソード4』~『6』(旧三部作)と『1』~『3』(新三部作)で終わっちゃったっていう考えだったんで、また見られるっていうだけでうれしいんです。『エピソード7』を見て、「こんな展開かよ。マジかよ!」って絶望だったけど、やっぱり『スター・ウォーズ』がリアルタイムで公開されるっていうこと自体が、新作をリアルタイムで見られてるっていうのが、めっちゃくちゃ嬉しいんですよ。だからそれだけでいいかなって。

だから今回の『9』でまた終わっちゃうっていうのが寂しくもあるんですけど。まあしょうがないかなって。期待するっていうか、見られればいいかなって。否定はしないし、『スター・ウォーズ』は『スター・ウォーズ』だし。

やっぱり、いるんですよ。「こんなの『スター・ウォーズ』じゃない!」っていう人も。「『4』『5』『6』しか認めない」とか。ものすごくいますよ。でも、僕は「認めない」って言っても仕方ないと思っていて。自分は『スター・ウォーズ』だったら受け入れて。「これが『スター・ウォーズ』の『7』だ、『8』だ、『9』だ」って。そこはちゃんと楽しんでいます。

実は特撮グッズのコレクターでもあるタツヤンさん。いつまでも眺めていられる。(撮影・中村英史)

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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