猫が頑張ったから、次は乳がんのわたし(未婚ひとりと一匹 2)
乳がん克服の旅に出発したばかりのコヤナギユウと、猫のくるみです。
今回は猫の話をさせてください。
※私と乳がんの関わりを記した前回(#1)のお話はこちら
わたしは隅田川のほとりでひとりと一匹暮らしをしているのですが、この猫(メス)と出会ったのは2018年の12月で、我が家に彼女がやって来たのは19年の1月下旬です。
ひとり暮らしと「相性が良い」といわれる猫。わたしはそう考えていませんでした。
だって、いい歳してひとり暮らしを続けている人は、だいたいやりたいことが溢れるほど多く、約束したり、縛られたりするのが苦手ではないですか?
わたしも、そうです。だから、配偶者を持って家族を作ることはもちろん、ペットを飼うことも難しいと考えていました。
それなのに猫と暮らすことにした、身勝手なわたしの告白を聞いてください。
まだ、自分の身体の中に乳がんがあると分かる前の話です。
猫生のどん底にいたスコティッシュフォールド
いつものようにTwitterを眺めていたら、友人の投稿に、目つきの鋭いぼさぼさの三毛猫が載っていました。
友人は保護猫ボランティアをしており、冬の公園に捨てられていた猫を保護したとのこと。捨て猫は一度警察に届けられ、遺失物として登録されたあと、自宅で預かって里親を募集するそうです。
猫の顔は平たく、毛は長めだけれどゴージャス感に欠け、耳がクシュッとなった不思議なフォルムです。犬ではないけれど、これで猫なのか、と思いました。絵に描いた三白眼のような目つきは印象的で、この子は唯一無二だなぁと思いました。
続報によると、その奇妙な猫はスコティッシュフォールド種でおよそ7、8歳くらい。体重はわずか2kgで、背中の毛は団子状にこんがらがっており、爪は伸びて肉球に刺さっていたとのこと。それは飼育放棄の形跡といえそうでした。かなり怒りっぽいらしいけど、それだけ不遇なら無理もありません。
スコティッシュフォールドといえば日本で一番人気のブランド猫です。なんでそんな目に遭っているのだろうと調べたところ、この種の特徴であるクシュッとつぶれた耳は劣性遺伝らしいとわかりました。生まれつき身体が弱くて小柄な個体が多く、寿命も10年程度とのこと。
いまもスコティッシュフォールドは普通に販売されています。すべてが悲劇の元に生まれた被害猫ではなく、きちんと交配すれば遺伝疾患の影響を小さくできるそうです。
だけど、この猫に関しては、病気がちな老猫を煩わしく思うような非道な人間のもとにいたのでしょう。
正直に書くと、彼女に不幸な背景があり、それなりに大人で、寿命が短い種であることは、わたしにとって好材料でした。
浮き草暮らしのわたしは、あと5年くらいは借金の返済のために暮らしを変えられません。20歳近く生きる最近の猫の一生は背負えそうもないけれど、5年後に12、13歳になるスコティッシュフォールドならなんとか飼えそうです。
これ以上ないほど不幸な猫の一生くらいならば、保証してあげたいと思いました。
なにより、この個性的な猫の代わりとなるような生き物に、もう二度と出会えない気がしました。いま一緒に暮らさなければ、きっと後悔する。そう確信できるくらい、猫との出会いに運命的なものを感じたのです。
関節炎で足を引きずり、ほとんど寝ているだけの猫
無事、猫が我が家にやって来たのは2019年の1月21日。
名前は保護先の友人宅で付けられた「くるみ」を引き継ぎました。由来の説明が一切不要なところが気に入っています。
猫を引き受けて一週間。関節炎でよたよたとびっこを引いて歩き、ほとんど寝ています。依然として人をこわがり、手が近づくとシャーッと怒ります。
とても爪切りなどできないので、獣医さんに連れて行きました。初診だったので関節のレントゲンを撮ったり、血液を検査したり。口の中に巨大な歯石がいくつもあり、歯槽膿漏が悪化しているとのこと。調べれば調べるほど、具合の悪いところばかり見つかって、ずいぶん難儀な猫さんです。
初診は検査だけで終了。その後、爪を切ってもらい、おしりと肉球の間の毛をカットしてもらって返ってきました。お土産は、関節炎を緩和するサプリメントです。
診察が終わって家に戻ったら、くるみはピューッとベッドの下に隠れました。本当に怖くて、痛かったんだろうと思います。まぁ、治療はしていないので、痛いのは、関節やら歯槽膿漏やら、いろいろ継続中ですけど。この猫は本当に息をしているだけでも頑張っているなぁと思いました。
午後はわたしも病院の予定がありました。といっても、区で実施された健康診断の結果を聞きに行くだけです。健康診断自体は秋に受けたのですが、面倒くさがって結果を聞きに行ってなかったのです。
「身体が資本」のひとり暮らしなので、健康管理には気をつけており、3年に1度は人間ドックへ行くし、B型肝炎のキャリアなので血液検査も欠かしません。きちんとチェックしている自負があるので、健康には自信はあったのですが、無料だから受けてみた、といったところです。
やがて順番が回ってきました。個室に呼ばれ医師から結果を聞きます。どの結果も良好、猫に比べたら本当に健康です。
「ただ、ひとつだけ気になることがあるんですよ」と、若い医師がいいました。
左胸のエコーを見ると、固まっているところが見えるとのこと。それは、20代の頃から「乳腺症」といわれていたものでした。乳腺症とは、出産をしていればお乳が通るはずの管が密集し、使わないため石灰化したもの。実害はなく、経過観察が一般的です。
「乳腺症だとは思うんですけど、乳がんの可能性もゼロじゃないので、生体検査してみませんか。自費になりますけど」
はっは〜ん、とわたしは思いました。区の無料診断だから来院したのに、こうやって小銭を稼ぐのですか、なるほどなるほど、と。
ところで「生体検査」とはなんですか?
「直径1mm程度の針を刺し、自家組織を採取します。費用は1万円ほどです」
めっちゃ痛そうじゃん。
1万円出して、調べるだけ。治るとか良くなるとかプラスのことがひとつもありません。痛くもないのに痛い思いをする上、自費で検査するのでは引き受けかねます。
実は、この生体検査、健康診断のときにも勧められました。そのときは断ったのです。上記の理由から、必要ないと思って。でも、今回はちょっと気持ちが違いました。
調べてみて、何でもなければそれでいいか。
猫の姿に勇気をもらって、生体検査を受けることにしたのです。
それから一週間後。
「残念ですが、悪性でした」
おっと! 今回は文字数が多くなってしまったので、ここまで。
リアルのわたしは、来週には管も抜けて退院できてるかなぁ。