猫が家族、恋も結婚も必要ないと語る52歳女性の「充実の理由」

52歳独身の春菜さん

結婚しない、子どもを持たないという選択をする人が増えてきた昨今。「人生の正午」といわれる40歳を大きく超えても、その生き方に間違いはなかったと語る女性がいます。

春菜さん(仮名)は52歳。子どもはおらず、独身です。ひとり暮らしで、お付き合いをしている人もいませんが「人生、今が一番充実している」というほど幸せを感じているのだそうです。

会社を退職して大学院へ進学

春菜さんは、マスコミ業界で22年務め続けてきた会社を、50歳の時に退職します。理由は大学院への進学。

「以前に務めていた会社も入れると、同じ業界に28年いたことになります。変化の激しい世の中で、もし私が100年生きるのだとしたら、少なくとも70歳くらいまでは現役で働きたい。そう思ったときに、ひとつのキャリアしか持っていないことに気がついて、ゾッとしたのがきっかけです」

自分のキャリアを解体して再構築しよう。そう決めて、修士学生の2年間は仕事をせず、研究に打ち込むと決めました。そこで気がついたのは、世の中にはまだ多くの選択肢があるということ。年齢も職業も生き方も違う学友たちとの出会いには、大きな影響を受けたといいます。

「結婚している人もしていない人もいたし、仕事の仕方もさまざまで、ああ、自由に生きていいんだ、と思いました。私は多分、この後もひとりで生きていくのだろうなあと漠然と感じていたので、自分の食いぶちはなんとしても自分で稼ぎ続けなければ、そのために学問もがんばらなくてはという思いが強くなりましたね」

大学院キャンパスの銀杏並木

就職活動ののちフリーランスの道へ

「でもそれからが茨の道でした」と、春菜さんは語ります。

高い大学院の学費を取り戻そうと再就職のための活動を初めてみましたが、どこも門前払い。

「私が最後に転職をしたのは20代の後半。50代になったら、こんなにも就職が狭き門なのだということを改めて思い知り、打ちのめされました」

自暴自棄になりそうな日々をなんとか過ごすうちに、春菜さんに転機が訪れます。

「知り合いに仕事を手伝ってと頼まれたり、こんな人を探しているという話が持ち込まれてくるようになって。自覚のないままフリーランスとして仕事をするようになり、ついには個人事業主として届け出を出しました、収入も、今では会社員時代を超えるようになりました」

フリーランスとして充実の日々を送る

ひとりで生きていくという覚悟を自然にもっているように見える春菜さん。結婚について考えたことはなかったのでしょうか。

「実は、32歳の時に一度、結婚したことがあるんです。けれど、芸術家だった夫から『人と暮らすことが苦手だと気づいた』と言われ、話し合ったうえで円満離婚。3年間の結婚生活のうちに、夫がストレスでどんどん髪が薄くなっていくのに気がついてはいました」

結婚で子どもには恵まれなかったけれど、30代のうちはずっと自分の身体の中から「声」が聞こえるようだったといいます。

「子どもを産め、というような声がどこからかわき上がってくるような気がしていたんですよ。けれど、その後、恋人もできなかったし、そのうちにその『声』は聞こえなくなったんですけれどね」

今でも、種としての義務を果たさなかったと自責の念に駆られることがあると言います。

「その分、しっかり働いて税金を納めたり、人の役に立つ仕事をすることで義務を果たそうとは思っているのですけれど、子どもがいないと風当たりが強いなと感じることもあります」

2匹の猫との運命的な出合い

離婚をしたときは35歳。なんとなく、いつかまた恋人ができて結婚するかもしれないという思いを持っていた春菜さんですが、結局、それから恋愛には恵まれませんでした。

「あれ? おかしいな。友人達は『離婚してもすぐに恋人ができるよ』と言っていたのに、うそじゃん? と悩んでいました」

私はこうやって生きていっていいんだろうか、と、かすかな不安と迷いを抱えて忙しく過ごすうち40代になり、ひとり暮らしの日々が続けば続くほど、だんだんと自分の変化に気がつきます。

「とにかく楽だなと思ったんですよ。恋人のためにやきもきして心を削ることもないし、結婚してまた『自分は結婚に向いていなかった』と急にハシゴを外される心配もないし」

そのうち、決定的な出来事が起きます。2匹の猫との出合いです。

「ペットショップで売れ残っていた猫を買いました。たまたまですが、2匹とも雄猫です。毎日、家に帰ると彼らが喜んで駆け寄り、私に愛を求めてくる。そして、恋人や元夫のように、理由なく急にいなくなったりもしない。そう思うと、なんだかすっかり気持ちが落ち着いてしまったんですよね」

春菜さんの愛猫たち

それまでペットを飼ったことはなかったという春菜さん。手間のかかる猫の世話も大きな喜びだと語ります。

将来についてはどう考えているのでしょう。

「60歳までに臨床心理士の資格を取って、迷ったり悩んだりしている女性たちの力になりたいんです。そのためにはまだまだ大学で取らなくちゃいけない単位もあるし、大学院にも行かなくちゃならない。恋愛や結婚をしている時間も欲望もありませんね」

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池田美樹 (いけだ・みき)

エディター。マガジンハウスにて『Olive』『an・an』『Hanako』『クロワッサン』等の女性誌の編集を経験した後、2017年に独立。シャンパーニュ騎士団(Ordre Des Coteaux De Champagne)シュヴァリエ。猫5匹とともにひとり暮らし。著書『父がひとりで死んでいた』(日経BP、如月サラ名義)等。

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