暗殺されていく「ひとりの空間」 開放的すぎる住まいから「孤室」を取り戻せ
「nLDK」という発明
家づくり、特に注文住宅やリノベーションに関する最近の流行(はやり)というか、もうすっかり定着したものの1つに、空間をなるべく仕切らないという考え方があります。
歴史をさかのぼれば戦後の住宅不足の中で、国家プロジェクトとして住宅の標準化がなされ、そこで生み出されたのが2DKといった間取りでした。そこから住宅公団による大量供給を経て、住宅が商品化していくにつれ、いわゆる「nLDK」の間取りが生まれていきます。住宅を売るために、空間をいかに上手に区切って部屋数を増やすかというのが1つのテーマとなったわけです。
今でも、住んでいる部屋を説明するときに「1LDK」「2DK」といった表現を使いますし、「子供のいるファミリーだったら3LDK以上の部屋数は欲しい」などとまことしやかに語られ、新築マンションなんかはその呪縛から未だに逃れられていないように見えます。
開放感・つながりを求める間取り
その一方で、最近の注文住宅やリノベーションといった自由設計の世界では、部屋を細かく区切らないことがむしろスタンダードになっている気配を感じます。
特に、中古マンションの住戸を解体して間取りごと変えてしまうフルリノベーションの場合、その傾向が顕著です。もともと3LDKだった間取りの部屋数を減らして、1LDKあるいは2LDKにするという改修が実に多いのです。逆に3LDKを4LDKにするような事例には、ほとんど出会うことがありません。
では、部屋数を減らしてまで何をやっているのかというと、たいていはリビングダイニング&キッチンをなるべく広くすることに当てているのです。ここでよく出てくるのが、「開放感」「家族の顔が見える・気配を感じる」「みんながつながる」といったキーワードです。個室をまったく無くし、家全体を大きなワンルームとしてとらえる間取りプランも、わりとよく見られるようになりました。
たしかに、ほとんど使われていない和室をなくし開放的なリビングにすることは気持ちがいいですし、まさにリノベーションの醍醐味だと言えます。なにせ絵になるのです。
消失してゆく隠れ家的な空間
しかし、こうした繁栄の陰で、ひそかに「個の空間」が置き去りにされている気がしてなりません。
私は数年前に一戸建てを購入しました。注文住宅ではなかったので間取りの自由度はあまりなかったのですが、造り付けの本棚の位置は入居前に変えてもらうことができました。