フィンランド人は「ひとり時間」に慣れているので、コロナ禍でもストレスを感じにくい

自然豊かなフィンランドの海岸

国連が発表する「世界幸福度ランキング」で、2018年から2020年まで3年連続首位のフィンランド。そんな幸せそうなフィンランドの人々ですが、「孤独」を感じることはあるのでしょうか。フィンランドの国営放送局 Yleが発表した統計によると、フィンランド人の10人に1人が慢性的な孤独を経験したことがあるとのこと。フィンランドに移住して2年目の私が、現地フィンランド人に孤独について聞いてみました。

フィンランド人にとって「ひとり時間」は自然なこと

コロナ禍で人がいないフィンランドの観光地・ラウマ(撮影・稲垣香織)

フィンランド人は、他の国に比べて内向的な人が多い、とよく言われます。実際、スペインからフィンランドに移住した私も、ラテン系のスペイン人と比べて、フィンランド人はシャイな人が多く、すぐには心を開かないという印象を持っています。

フィンランド人の友人によると、フィンランド人はよく知らない人とは付き合わないそう。学校や仕事、趣味を通じて出会った人でも、何度も会う機会があって、さらに話や性格が合うことがわかってから、やっと友人になると言います。

何人かのフィンランド人に聞きましたが、表面的に多くの友達を持ちたいタイプの人より、少人数とじっくり付き合いたいタイプの人の方が多くいました。そんな性格の人が多いためか、「ひとりの時間」ができることもよくあることだとか。

また、フィンランド人が口を揃えて言っていたのが「ひとりで時間を過ごすというだけでは、フィンランド人は孤独だと思わない」ということ。もちろん、個人差はあるものの、内向的な人が多いフィンランド人は「ひとりで過ごすことは自然だ」と考えるそうです。

その証拠の一つと言えるのが、コロナ禍の現在の状況です。

フィンランド政府も他国同様、複数人で集まることを自粛するよう国民に要請しています。そんな中、ヘルシンキの首都圏でリモートワークをしている20代女性のエヴェさんは「コロナ禍以前からリモートワークはある程度行われていましたし、もともとひとり時間に慣れていたので、ストレスはそこまで大きく感じません」と言います。

フィンランド人は、ひとり時間に慣れているため、自粛生活での精神的な影響はあまりなかった、と言えるでしょう。

孤独を感じて、精神を病んでしまうフィンランド人もいる

天気が良い5月から8月は、散歩に出ないともったいない(撮影・稲垣香織)

しかし、そんなフィンランド人でも、あまりにもひとり時間が長くなると、孤独を感じて、「どうしたらいいかわからない」と思う人が多いということが、フィンランド人に話を聞く中でわかりました。

孤独を感じることが長期化したり、精神的に問題が出る状況になった場合、残念ながらアルコール依存症といった道を辿ってしまう人もいます。しかし、社会福祉が充実しているフィンランドでは、孤独が問題となっている人へのサービスもアクセスしやすいようになっています。

例えば、学生を対象にした、孤独などの精神的な問題に関するサポート機関があったり、一般の人が社会保険を利用してカウンセリングを受けられるサービスがあったりします。社会福祉サービスは、様々な面で日本よりもはるかに充実していて、税金が市民に還元されている実感があります。

また、日本では会社や家庭などの「集団の和」を保つことが重視されますが、フィンランドは「個人が第一」というところがあります。そのため、各自が常に自分と向き合っていて、「孤独が辛い」と感じたときに解決しようと動き出すのが早いのではないか。あるフィンランド人はそんな意見を口にしていました。

確かに日本では、仕事や家庭を中心に考え、無意識に自分のことを後回しに考えてしまったり、多少辛くても我慢してしまったりする傾向があるように思います。一方、フィンランド人は真っ先に自分のことを考えるため、自分の中の「孤独」や「孤独に対する気持ちの変化」をすぐに認識できるのかもしれません。

フィンランド人の国民性をあらわす「シスの精神」

午後3時には暗くなるフィンランドの冬(撮影・稲垣香織)

フィンランド人と孤独について話す中で、「シスの精神」というキーワードが出てきました。フィンランド人の国民性を表す言葉です。

「シス」というのは概念的な言葉なので、日本人にはわかりづらいのですが、困難に直面してもくじけない強い心や、逆境から立ち直るレジリエンス(回復力)という意味で使われます。

基本的にはポジティブな意味で使われる「シス」という言葉。「シス」は、難しい状況で自分に何ができるのかと問いかけたり、あきらめないで挑戦したり、心身ともに健康に生きるように行動したり、などを表す際に使われます。

フィンランドは、天候が常に心地がいいわけではありませんし、歴史的にソビエト連邦やスウェーデンといった強国に存在を脅かされてきた国です。そんな中で、自分には何ができるのかを考え、心身ともに健康でいることを心がけてきたフィンランドの人々。

たとえ孤独であっても、ひとりで過ごす時間が長くても、この「シスの精神」が根底にあるからこそ、フィンランド人は長い冬を粘り強く乗り越え、孤独にも立ち向かっているのだろうと思います。

寂しいと感じたときはそれぞれのやり方で対処

11月〜4月くらいまで太陽の出ないフィンランド(撮影・稲垣香織)

孤独が自分の問題となったときに向き合うのが早く、充実した社会福祉制度が受けられるフィンランド。日本ではまだ少しハードルが高い、カウンセリングサービスが一般的に受けられるのは心強いですよね。

ちなみに、私のひとり時間と言えば、散歩とジムで運動不足を解消しています。

東京ではほとんど散歩をすることがなかったのですが、フィンランドの空気はひんやりと冷たく、人や騒音も少ないので、気持ちのいい時間を過ごすことができます。また、ジムに行くこともフィンランドでは一般的で、月3000〜6000円程度で通うことができます。

皆が思い思いのひとり時間を、心身ともに健康な状態で過ごせるといいですね。

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稲垣香織 (いながき・かおり)

オーストラリアのジェームスクック大学院観光学科(エコツーリズム)卒業。政府観光局のヨーロッパ赴任を経て、現在はフィンランドでエコツーリズムを世界に広めるオンライン事業を展開。ヨーロッパ、中南米などを中心に海外旅行は47カ国、うち17カ国でひとり旅を経験。海外ひとり旅では、ジャングルなど壮大な自然に触れる旅、身体の芯までリラックスするSPA旅、海外の旅人たちとワイワイする旅、その都市ならではのモノ・コトに触れる旅が多い。

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