「ひとりには悲しいイメージがある」スペイン人は「ひとり時間」をどうみている?

太陽とビーチの国、スペイン(撮影・稲垣香織)

フィンランド人は「ひとり時間」を大切にする人が多い。先日、DANROでそんな記事を書きました。私が現在暮らすフィンランドで感じたことをまとめたのですが、その対極といえるのが、スペイン人です。

人と一緒にいることを好み、お喋りやパーティが大好きな国民。もちろん、なかにはシャイな人もいますが、他の国に比べると非常に少ないように感じます。人との触れ合いを大事にする文化があるため、スペイン人は「ひとり」になることを好まない、という印象があります。

私はスペインにも住んでいたことがありますが、スペイン人はいつも友人や家族と集まって賑やかに過ごしているイメージを持っています。実際のところ、スペイン人は「ひとり時間」を好まないのでしょうか。

ひとりでのんびりするのにぴったりなビーチも(撮影・稲垣香織)

「ひとり」はネガティブなイメージ

知り合いのスペイン人に聞いてみたところ、「ひとり=ネガティブなイメージ」と感じる人が多くいました。日本が大好きなホルヘさん(30代、大使館職員)は、「スペインでは『ひとりでいる』ということは、社会的には悲しいイメージがある」と言います。

ひとりで旅行をすると「なんでひとりでするの?」「友達を作れないからひとりなのかな?」と思われてしまうそうです。日本を含めた他の国ではひとり旅をする人も多いですが、スペインでは悲しいイメージを持たれてしまいます。

ホルヘさんによると、スペインでは外食もひとりですることはないそうで、「食事を一緒に取る人数は多ければ多いほうが良い」とのこと。確かに、私の友人のスペイン人たちからも「ひとりでレストランに行った」という話は聞いたことがありません。

また、スペインでは映画館で映画を観ることも人気ですが「ひとりだったら楽しくない」というのがスペイン人の考え方。ホルヘさんに理由を聞くと、「映画を観た後にコメントできない、感想をシェアできないからだよ」。やはり、社交的な国民性のようです。

マドリードにあるレティーロ公園は市民の憩いの場(撮影・稲垣香織)

ひとりで過ごすよりも、みんながいる場所へ

しかしスペイン人も、学校を卒業したり、他の街に引っ越したりといった環境の変化により、今まで一緒にいた友人と疎遠になって、ひとりになってしまうことはあります。そんなとき、スペイン人はどうするのでしょうか。

そんなときは、積極的に人が集まる場所へ行ったり、友達を作れそうなアクティビティをしたりするのだそうです。

例えば、スポーツ観戦。スペイン人はサッカー好きな人が多いですが、家で観戦するくらいなら、スポーツバル(バー)に行って、その場にいる人たちみんなと応援するほうがいいと考えます。

「サッカーの試合は絶対ひとりで見たくないね。友達を家に呼ぶか、スポーツバルに行くよ」。こう語るのは、サッカー好きで社交的なミゲルさん(30代、銀行員)です。バルはその場にいる人たちと一緒に盛り上がれるため、家でひとりで観戦するより楽しいのだそう。

スポーツを観戦できるバルは日本と比べて非常に多く、大きな試合の日は大賑わい。私も訪れたことがありますが、その場で出会った人たちはまるで旧知の仲であるかのように、親しげに話を弾ませていました。少し前まで他人同士だったスペイン人が、いつの間にか親しげに語り合っている場面を何度も目撃しました。

さらに、ソーシャルメディアやスマホアプリを使って人を集めるイベントも種類が豊富。開催する人も、参加する人もたくさんいます。

私もスペインにいたときは、現地の友人を作るために、ローカルレストランを開拓する集まりや、語学交流、フォトセッション、占いなどいろいろなイベントにひとりで参加しました。他のスペイン人参加者もひとりで参加する人が多く、友人を作るために来ている人がほとんどでした。

シングルマザーのイサベルさん(40代、求職中)は、「ひとり親が集まるイベントに出かけて、情報交換したりするわ。あと、ひとりだとレストランに入りにくいけど、グルメ系のイベントは参加しやすいからよく行くわ」とのこと。アクティブですね。

最近はネット社会になり、オンライン娯楽やネットフリックスのようなテレビ番組配信サービスがあるため、ひとり自宅で週末を過ごすのも選択肢の一つになっているものの、スペイン人は基本的に人と一緒にいたい人たちのようです。

夏の夜はテラス席でお喋りするのが定番(撮影・稲垣香織)

スペイン人にとって「孤独」は大きな課題

このように、「ひとり=ネガティブ」と捉えているスペイン人。ひとりにならないように工夫していますが、みんなハッピーなのかというと、そうでもないようです。「ひとりで寂しい」つまり「孤独」を感じているという人もいるのです。

ある調査では、6割の人が「人生のある時点で孤独を感じたことがある」と答えたそうです。孤独を感じるのは、高齢者よりも若年層のほうが多く、人口が5000人未満の小さな町に住む人のほうが孤独をより感じている、という結果が出ているとのことです。

ひとりを否定的に受け止めるスペイン人にとって、今後「孤独」は大きな課題となっていくかもしれません。

ひとりゆったりと時間を過ごせそうなアラビア風パティオ(撮影・稲垣香織)

今回、実際にスペイン人に聞いてみましたが、ひとり旅やひとりカラオケを楽しむ人が大勢いる日本と比べると、ひとりを楽しんでいる人はとても少なかったです。

ひとりで過ごすよりも、ひとり同士が集まって「みんな」で過ごすほうを選ぶ。そのほうが楽しいに決まっているじゃないか、というスペイン人の考え方がよくわかりました。

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稲垣香織 (いながき・かおり)

オーストラリアのジェームスクック大学院観光学科(エコツーリズム)卒業。政府観光局のヨーロッパ赴任を経て、現在はフィンランドでエコツーリズムを世界に広めるオンライン事業を展開。ヨーロッパ、中南米などを中心に海外旅行は47カ国、うち17カ国でひとり旅を経験。海外ひとり旅では、ジャングルなど壮大な自然に触れる旅、身体の芯までリラックスするSPA旅、海外の旅人たちとワイワイする旅、その都市ならではのモノ・コトに触れる旅が多い。

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