個室のない私が「畳半分のワークスペース」を手に入れるまで

(イラスト・古本有美)

私はもともと、家で仕事をするのは気が乗らないタイプで、どうしてもやらないといけないことがあると、近くの公園やカフェに行って仕事をしていた。だが、昨年の春先に、なるべく外出は避けろとのお達しが来て、そうもいかなくなった。

外出できないとなると覚悟を決めるしかない。問題は仕事場の確保である。私には個室がないからだ。

ピアノの上が仕事場になった

リビングにあるダイニングテーブルは、妻が仕事で使うことになった。同じテーブルで向かい合わせになって仕事をするのは何かと不便があるので、私はリビングの奥にあるピアノで仕事をすることにした。

アップライトピアノの鍵盤の蓋の上で、仕事を始めたわけである。奥行きはないものの、ぎりぎりパソコンが置けるし、ノートも何とか置ける。ピアノの上で仕事をするのもなかなかおもしろいと思って、しばらくは続けていた。

しかしこんな生活が続くにつれ、首から肩や背中にかけて凝りがひどくなってきた。どうも高さの問題らしい。ピアノの上は、仕事をするには高すぎるようだ。

イスを高くすればいいのだが、あいにくそこまでの高さのイスはなかった。そこで、ピアノの上はあきらめて、納戸にしまってあった小さな丸テーブルを引っ張り出すことにした。

以前、面積が20㎡あるかないかの狭いワンルームに住んだことがあって、そのときに作業用として購入したものだ。とにかく狭い部屋だったので普通のテーブルは置けず、小さな机を探していたときに、アウトドア用につくられた、このテーブルに出会った。

この小さな丸テーブルを、ピアノの脇の1メートルほどのすき間に置き、仕事場としたのである。ちなみに、ピアノの脇のスペースはもともと猫のトイレの場所だったのだが、勝手ながら移動させてもらった。

丸テーブルは、イスに座って仕事をするのにちょうど良い高さで、首、肩、背中の痛みも和らいできた。これで万事快調かと思った。

ところが、次なる問題が出てきた。机が狭いのである。直径は40センチほどしかない。しかも丸いテーブルなので、パソコンやノートなど四角いものを置くのに苦労する。少し端の方へ動かすとすぐ落ちそうになる。

しばらくはこのテーブルで、だましだまし仕事を続けていたが、在宅勤務が長期化するにあたって、もう少しちゃんとした労働環境をしつらえようという気になってきた。

畳半畳の空間をワークスペースに変えるコツ

とはいえ、さほど恵まれた状況下にはない。私に与えられたのはピアノの脇にある、幅1メートルちょい、奥行き50センチ程度のスペースなのだ。畳半畳ほどしかないこの場所を、極力快適なワークスペースにしなければならない。

そこで、ついに机を買うことにした。このスペースぴったりに収まる机をネットで探したところ、わりと手頃な価格で見た目も悪くないものがすぐに見つかった。

本当はいろいろこだわりたいところではあるが、こだわり出すときりがない。何より、なるべく早く快適な労働環境を手に入れたいという思いが勝って、その日のうちに注文をした。

数日後に届いた机を夜な夜な組み立て設置した。専用の机があるだけでこうも違うものか。いきなり仕事場っぽくなってきた。なにせそれまでがアウトドア用の丸テーブルだったわけなので、ずいぶん進歩した。

イスはもともと愛用しているハンス・J・ウェグナーのものを使うつもりだったが、ここで少し問題が生じた。高さが微妙に合わないのである。ほんの少しだけ、たぶん2センチくらい、調達した机が高い感じなのだ。

少しくらいなら大丈夫かと思ったが、ピアノの上で仕事していたときのあの痛みを思い出すと、もう同じ轍は踏みたくない。かといって、ウェグナーのイス以外を使いたくない。

どうしようかと考えているうちに、あることを思い出した。私は腰を痛めたことがあり、それ以来、会社のイスには腰痛を軽減するクッションを敷いているのだった。これを自宅のイスにも使えば、高さの問題が解消するであろう。

そこでAmazonでクッションを探し、会社で使っているものの新シリーズを購入した。作戦は見事的中した。高さの問題は解消し、かつ、腰にやさしい環境が生まれた。惜しむらくはデザイン的な点で、せっかくのウェグナーが台無しなルックスになってしまったが、泣く泣く妥協することにした。

机とイスがそろえば、もうそれだけで立派なワークスペースである。もちろん欲を言い出せばきりはない。だが、畳半畳あればデスクワークは十分可能だということがわかった。

空間としては狭いが、リビングの奥まったところにあって、間取りの関係でダイニングテーブルからは死角になっているので、落ち着いて仕事ができる。高窓もあるので、適度に光や風も入ってくる。やむを得ず作り出した環境ではあるが、結果的にはそこそこ快適に仕事できる場所となった。

一時しのぎのつもりだったのが、ずいぶん長期化することになってしまったので、自宅での仕事環境をいかに構築するかは今後も重要なテーマであり続けそうだ。

家を新築したり、リフォームしたりできるならもっとやりようがあるかもしれないが、そこまではできない場合、既存の住環境の中で、多くの人が試行錯誤しているのではないだろうか。限られた条件下で、どういった工夫が生み出されているのか、非常に興味のあるところである。

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松本宰 (まつもと・おさむ)

編集者。住まいのマッチングサイト「SUVACO(スバコ)」とリノベーション専門サイト「リノベりす」の編集長。住宅に限らず、己が心地良い居場所を探し求めてさまよう日々。好きなものはお酒と生肉とラーメン。

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