超有名なのになぜか急行が止まらない「厚木」降りてわかった衝撃の事実(地味町ひとり散歩 4)

今回の散歩は、神奈川県の厚木です。

「えっ、厚木基地の厚木?超有名じゃん」「都内近郊に住んでる人なら、誰でも聞いたことある町だと思いますよ」

と、こんな声が聞こえて来る気がします。いや、僕もそう思っていました。

神奈川県の中部の中核都市という認識。調べてみると、隣接する海老名市、座間市、伊勢原市などと比べて人口も多いです。「そんな町を歩くなんて、この『地味町散歩』も早速ひよったの?」とか言われそうですが、違うんです。

僕も最初そう思って候補にしてなかったのですが、この厚木駅、そんな中核都市であり、なおかつ、小田急線とJR線が交差する乗り換え駅でもあるにもかかわらず、路線図を見てみると小田急線の急行が停まらない各駅停車だけの駅なのです。

「ん、おかしいな。なんでこんな大事な駅に急行が停まらないのだ?」

僕はちょっと潰れかけたハンチング帽を被った刑事の気分になって、この町を散歩することに決めました。

想像と全く違っていた駅前の風景

実はその前日は妻と熱海に行っていました。ほとんどどこにも出かけていなかった今年ですが、GoToキャンペーンで安くなっていたので、一泊だけでもと温泉旅行をしてきたのです。

しかしそこは夫婦ともども根っからのひとり好き。一晩泊まったら、翌日は各自バラバラ行動。妻はどこそこのパフェを食べて、その後どこそこのケーキを買いに行くとか言っていますが、僕は甘いものに興味がありません。

ひとり、このコラムのために帰り道の小田急線を調べていたら、この疑問にぶち当たったのです。

熱海から小田原まではJR。そこから小田急線に乗り換え、途中まで急行に乗ります。最後に各駅停車に乗り換えて、厚木の駅に降り立ちました。すると、思っていた駅前とは全く違いました。

想像では駅前にそこそこ大きなショッピングセンターがあり、その近くにチェーン店の居酒屋なども並んでいるはずでした。古くからある町なので、昭和テイストの商店街が口を開けていて、もしかしたら厚木基地関係の米軍さん相手のちょっとアメリカンな感じの店などもあるかもしれない。そして、そういう軍人さん目当ての美女が道端で色っぽい格好をして、アンニュイにタバコを吹かしている。そんな姿まで想像していたことを白状します。

ところが予想と全く異なって、数軒の商店はあるものの、とても商店街と言えるほどのものはなく、一般の民家や低層階のアパートが立ち並ぶ、これと言って特徴のない住宅街だったのです。

「これはどういうことだ?」と思いながらも、散歩することにします。

歩き出してすぐ、ほぼ駅前という立地に「海老名幼稚園」「海老名コーポ」など「海老名」と名のつく建物を発見しました。

例のごとくジュースの自販機を探っていても、そこに海老名市のキャラクターでしょうか「えび~にゃ」がいたりします。

僕は「おいおい、ここは厚木の駅前だよ。海老名は隣の市だよ。千葉県にあるのに東京ナントカランドって言ってるんじゃないんだから~」とひとり笑いながらツッコンでしまいました。

しかし何とも言えぬ不穏な空気を感じたのも確かです。

「まさか・・・いやいやそんな馬鹿な」僕は自分の妙な空想に首を横に振り、また歩き出しました。

「あるか動物病院」

これは前々回の枇杷島散歩で発見された「まんまる動物病院」に匹敵する、いやそれ以上の不可思議な動物病院です。

枇杷島の動物病院は「まんまるな形の動物しか診察しない可能性がある」という不思議さがありましたが、ここでは動物病院が「あるか?」と聞いているのです。

そこに病院が建っているにもかかわらず「あるのだろうか?」と自ら聞いているとは、何という動物病院でしょうか。もしそこで「無い」と答えたら、この動物病院の存在は一体どういうことになってしまうのでしょうか。

こんなにも深遠な哲学的命題を叩きつけられたら、なかなか気安く病院に動物を連れて来られないのではないでしょうか。

少し不気味な会社もありました。「人の森」という会社です。これはどういうことでしょうか。

山奥に行ったら、木の代わりに人間が男も女もギュウギュウに立ち尽くしている森があるのでしょうか。そしてその森に迷い込んだら、自分もまたその森の一部になってしまうのでしょうか。

一生外に出ることのできない「人の森」。考えるだに怖ろしいですが、そもそも人道的、いや法律的に大丈夫な会社なのでしょうか。ちょっと心配になりました。

「精力 太いうんちがドカーンと出る!」

そうか、最近少し細くなっていたのは、年とともに精力が弱まっていたからなのか。それには気づきませんでした。またあの立派な太いブツをドカーンという激しい破裂音とともに出すには、精力をつけなければいけないのですね。がんばります。

「フタの閉まらないからあげ弁当。」

あまり自社の失敗を堂々と大きく掲げない方がいいですよ。お客さんに言われたのなら「すみません!」と謝って、早急に新しい大きなフタを用意し、変更するだけで十分です。

正直なお店ということは認めますが、それほど大々的に謝罪しなくても、そんなに怒る人はいませんから、安心して新しいフタをお探しください。

「アイドリング禁止」

どこにもアンチという人はいるものです。たいていはヤッカミですから、朝日奈央さんたち、気にせず活動を続けてください。

きっと「AKB48禁止」「モーニング娘。禁止」などもどこかにありますから、安心してください。

そんなこんなで歩いていると、ここが「おあしす通り」だということに気づきました。

みなさんはオアシス運動というのをご存知でしょうか。最近ではあまり聞かれなくなりましたが、昭和の時代はこの「オアシスを大事に」とよく言われておりましたね。一種の挨拶運動ですね。

ちなみに僕が今やっているホルモン鉄道というユニットで、僕が作詞作曲した「エチケット番長」という歌があります。その中にもこの「オアシス運動」は出てきます。

大変エチケットのある番長が主人公の歌です。歌詞を一部抜粋してみましょう。

オ・・・おはようございます。本日は、喧嘩の方、よろしくお願い致します。

ア・・・ありがとうございます。交通費の方は、後日精算させていただきます。

シ・・・失礼します。殴らさせていただきます。

ス・・・すみません。お怪我の際は絆創膏等のご用意がございます。

時代が変わっても、オアシス運動は大事ですね。

散歩していて見つけた「意外な事実」

そんなこんなで歩いてきましたが、ここで衝撃の事実がわかりました。写真をご覧ください。

駅のすぐ近くのマンションの名前は「レジデンス厚木」ですが、なんと横の住所表示を見てみると、海老名市になっているではありませんか!

そう、厚木駅は「海老名市」だったのです。

そういえば、川の向こうに大きな町が見えます。その駅名は「本厚木」。つまり川の向こうが本当の厚木で、ここは本当の厚木ではない、海老名の「偽厚木」だったのです。

小田急もさすがに「偽の町」に急行を止めることには抵抗があったのでしょう。

少々しょんぼりしながらも、偽厚木の駅前にあった大和屋さんでお昼を食べることにしました。さて、メニューは…。

もちろん名物の「海老菜丼」を食べました。なにせここは厚木ではなくて、海老名なんですからね。

普通なら海老天丼とするところを、ほうれん草という「菜」を加えることでダジャレ丼となっております。

トボトボと駅に戻ります。そしてひょいと駅名表示板を見てみると…。

なんと、看板に「海老名市」と、ハッキリと初めから書いてありました。

決して僕らを騙すつもりではなく、オトナの事情ということなのでしょう。

偽厚木なんて言ってすみませんでした。ここは海老名にあるのに、川の向こうの厚木を思って駅名がついた、ちょっと不思議な町でした。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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