「ソロ死」の恐怖を感じた瞬間 「顔を洗っただけなのに・・・」

「泡モコモコ洗顔」をしていたら、突然悲劇が・・・・

ある程度年齢を重ねて「ひとり暮らし」をしている人ならば、誰しも一度は頭によぎる「孤独死」。わたしも、インフルエンザで40度の高熱が出た夜や、胃腸炎で数日飲まず食わずでのたうちまわったときなど、衰弱のあまり「このままひとりで死ぬかも」と思ったことがあります。

フリーランスライターで「自宅=事務所」のわたしは、毎日どこかに出勤しているわけではないので、病に倒れても「無断欠勤」を不審に思う人がいません。連絡がとれなくても「忙しいのだろう」と思われてしまうため、万が一ひっそりと死んでしまっても、数日いや数週間は、発見されない可能性が大いにあります。

「孤独死」への恐怖は薄かった

しかし、わたしはあまり孤独死自体を特別なものとして感じていませんでした。

「死ぬときに誰かに見とられなくても別によい。その後、発見してくれた人に迷惑をかけるかもしれないけど『うっかり死んでしまいました。すみません』とあの世で思うしかないよなあ」と思うぐらいです。「誰かに迷惑をかけてしまうことへの申し訳なさ」が薄いタイプとでもいいましょうか。

しかし、ある日を境に、がらりと考えが変わりました。「孤独死、まじ怖い」と。ただし、それは「孤独に死ぬこと」が怖いのではありません。

「病気でもなく、死にたいわけでもないのに、うっかり死にそうになった」という恐怖を体験したからです。

数秒前までは健康だったのに、予期せぬ事件が起きました。「死ぬほどの苦しみを味わうも、誰の助けもない」という恐怖が、日常に潜んでいたのです。自業自得で“うっかり”死の淵を覗いたわたしは、それを「孤独死」と表現するには重すぎると感じ、勝手に「ソロ死」と名付けました。

死へ通じる穴はどこに開いているか分からない

わたしが「ソロ死」をしそうになったのは、ある夏の蒸し暑い夜のことです。

締め切りを目前にして、なかなか埋まらぬワードの画面を前に悶々としていました。「よし、いったん気分を切り替えるか」と、顔を洗うために洗面台へ向かいました。

その当時は、エステティシャンから教えてもらった「泡モコモコ洗顔」にハマっていました。泡だて専用ネットで丁寧に濃厚な泡を作り、その泡を肌にのせ、手のひらで優しく泡を転がし洗顔する……という方法です。

イメージは、大量のホイップクリームを顔に乗せた状態。または罰ゲームで「パイ投げ」された人の顔が「泡モコモコ洗顔中の顔」だと思ってください。

写真を見るとわかるように、濃密な泡で顔全体が覆われるため、呼吸がしにくい状態になります。そのため、泡を顔にのせたら「ふん!」と鼻息をだし、鼻のところだけ通気をよくします。

日常に潜んでいた「死の恐怖」

しかし、問題のこの日は、ふと魔が差してしまいました。

普段は泡が垂れてこないように、顔を上げず、シンクを覗き込むような前屈みの姿勢で洗います。ところがこの日に限って、泡が顔にまんべんなく広がっているかどうかを確認するために、鏡を見ようと上半身を起こして洗っていました。

手でモコモコの泡を作って、顔にのせる

そして泡だらけの自分の顔を見た瞬間、ふと、ある友人の話を思い出してしまったのです。

「洗顔中に泡が気道に入って、死ぬかと思った!」

彼女は、洗顔中に泡を吸い込んでしまい、呼吸ができなくなって「死ぬ思いをした」というのです。ちなみに彼女もひとり暮らし。「孤独死する寸前だった」と語りました。

その話を聞いたとき、わたしは「ないない! だって顔洗ってるときって、そんなに激しく呼吸してないじゃん」と笑ってしまいました。友人は真剣な表情で「死ぬよ、まじで」と答えたのですが・・・

そのときの会話と彼女の深刻な顔が脳裏に浮かんだ瞬間、妙におかしくなって、つい「ふっ」と泡まみれの顔で思い出し笑いをしてしまったのです。

わたしはちょうど鏡を覗いている状態だったので、モコモコの泡が重力に負けて溶けたソフトクリームのようになって、口の周りに垂れていました。

ここまでお読みになった方は容易に想像ができるかと思います。そう。わたしは、その「思い出し笑い」の勢いで、唇に垂れてきた洗顔料の泡を思い切り、吸い込んでしまったのです。

繰り返しますが、飲み込んだのではなく、「吸い込んで」しまったのです。しかも大量に。

こんなケミカルな物質が体内に入ったら、拒絶反応が起きるのも当たり前

食事をしているとき、うっかり汁物が気道に入ってしまい、むせることがたまにありますが、それとはまったく別物の類……と断言します。ケミカルなものが気道に入るとどうなるか。息がまったくできなくなります。

食事の誤嚥は何度か激しい咳をすると落ち着くことが多いのですが(お年寄りは別)、ケミカルなものは、体が「これ以上、奴らを入れてはならない!」とギュッと気道をしめてしまう。そんなイメージです。

「死」を覚悟した数分間

わたしは、激しく咳き込むも、空気を吸い込むことがまったくできなくなったのです。

「ゲホゲホ! キューーーー、ゲホゲホ! キューーーー」

咳をした分、酸素を取り入れなくてはいけないのに、まったく吸い込めない。洗面所から出て、リビングの床でのたうちまわり、「もう肺に酸素がない。死ぬかも」と本気で思いました。

携帯電話を手にとり119をコールしようかと思いましたが、まず喋ることができません。当時ひとり暮らしだったので、当然誰も助けてくれないし、救急車を呼んでくれる人もいません。血圧が急上昇したのか、頭の血管が切れそうなくらいに脈を打っています。

「ダメだ、これは本当に死ぬな」と思いました。その瞬間、喉が割れるかと思うくらい激しく大きな咳が出たあと、すーーーっとごく細い空気を吸い込むことができました。

その時間、わずか1、2分だと思います。床に四つん這いになったわたしは、ありえないほどの汗を全身にかき、顔は真っ赤。涙と鼻水で、モコモコの泡は消えておりました。なんとか呼吸ができるようになったけれど、喉は焼けているような痛みが残っています。

「これは……死ぬね、まじで」

友人のエピソードを笑った自分を殴りたい。そう心の底から思いました。顔を洗っただけなのに、まさか死ぬ目にあうなんて。

口を覆う「モコモコの泡」を一気に吸い込んでしまった・・・

そんな状態にありながら、救急車を呼んでくれる人が誰もいないという恐怖。もしもうっかり死んでしまったとして、その後はどうなるのだろう。窒息死と判明するだろうけど、「洗顔の事故によるもの」とわかってくれるだろうか。

「事件性はないから!」と説明する機会さえない。それが、ソロ死なのです。

落ち着いた後、ネットで「洗顔 泡 吸い込んだ」と検索してみました。すると、まあ、わたしと同じ体験をした人たちが出てくる、出てくる。

「先ほど洗顔中に泡を吸い込んだようです。むせは治まりましたが、喉がひりひりします。どう対処したらいいですか?」

「洗顔の泡を吸い込んだのですが、気管まで入り込んだのか呼吸困難に。空気が吸えずに死ぬかと思いました」

などなど、『Yahoo!知恵袋』で対処法を尋ねている人の多さにびっくり。そのアンサーとして、

「石鹸は膜を張るので本当に気管に入ったのなら、呼吸困難に陥り最悪の場合、死亡します」

と書いてあるものもありました。自分は本当に死の淵にいたのだなと背筋が凍りました。

以来、洗顔中は、うっかり死なないように口をかたく閉ざし、口周りに泡が垂れてこないよう必ず下を向くようにしています。口で呼吸はせず、鼻の穴だけで慎重に細く呼吸をしながら、洗っています。

ひとり暮らしの女性のみなさん、「咳をしても一人」をあなどってはなりません。どうか洗顔中は、お気をつけくださいませ。

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福島はるみ (ふくしま・はるみ)

熊本在住のライター。熊本と東京の出版社を経てフリーランスに。雑誌、書籍、WEBで幅広いジャンルを執筆。ペーパードライバー歴30年で「非モータリゼーション」な生活・仕事スタイルを実践中。タロット占いライターとして『誕生月の本』(自由国民社)を共著。

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