「みんな」という言葉に惑わされるなーー森の生活者ソローに「孤独の愉しみ方」を学ぶ

「孤独は、多くのことを私たちに教えてくれます。一人の時間は、自分自身を熟考し、人生を深めるのに最適の時間です」
アメリカの思想家ヘンリー・ディヴィッド・ソローの名言を集めた書籍『孤独の愉しみ方』はそんな書き出しで始まります。
「森の生活者ソローの叡智」という副題がついたこの本には、森の中でひとり自給自足の生活を送りながら思索を深めていったソローの思想のエッセンスが詰まっています。
湖畔の小屋で「ひとり暮らし」を送った思想家
19世紀のアメリカに多大な影響を及ぼした思想家ソロー。彼は「市民不服従」の思想を広め、キング牧師の公民権運動にも大きな影響を与えたとされていますが、作家としても数多くの著作を残しています。
この『孤独の楽しみ方』は、『森の生活』や『市民の反抗』などのソローの著作をわかりやすく現代に生きる人にも役立つように、155の名言集として編集・再構成した本です。見開き2ページずつ、ソローの名言とその説明が簡潔に紹介されていて、とても読みやすくまとまっています
ソローは、ボストン近郊のウォールデン湖のほとりに小屋を建てて、ひとりで住み、自給自足の暮らしを営みました。そんな彼が愛したのが「孤独」です。孤独な時間の中で「本当の幸せとは何か」について徹底的に考えました。
「孤独」を愛したソローの名言集
ソローが残した「孤独を愉しむ」ためのヒントとなる言葉をいくつか紹介しましょう。
とびきり上等な孤独になれる時間を一日一回持つ
「列車がせかせかした世の中をすべて一緒に運び去ってしまい、湖の魚たちももはや轟音を感じなくなると、僕はいっそう孤独になる。これからの長い午後の時間、僕の瞑想を邪魔するものは、おそらく遠くの街道を通る馬車か荷馬車の、かすかな響きぐらいのものだ」
ソローは、静かな自然の中に身をおいて「孤独な時間」を持つことの大切さを語ります。瞑想を通して、孤独をじっくりと愉しむ時間を作り出していました。
孤独は、最もつきあいやすい友達である
「僕は一人でいるのが好きだ。孤独ほど気の合う友人には会ったことがない。僕たちは、部屋の中に一人でいるときより、外で人の中にいるときのほうが、概して孤独である。どこにいようと、考えごとをしたり仕事をしたりしているときは、いつも一人なのだ」
ソローは、人と一緒にいるより「ひとりの時間」のほうが有益だと言います。たとえ最高の相手でもすぐに退屈してしまうそうで、「孤独こそ最高の友人だ」と説きます。
自分のリズムで歩くことが大切なのだ
「なぜ僕たちは、こうまで必死になって成功を急ぐのか。なぜ必死になって事業で成功しようとするのか。どんなにゆっくりとリズムを刻もうと、どんなに遠くで鳴っていようと、自分に聞こえている音楽に合わせて歩めばいい」
ソローは、必死で成功を追い求める必要はないと述べています。自分のペースで歩むことが大切であり、慌てて一人前になる必要などないと説きます。
「みんな」という言葉にまどわされてはならない
「新しい服をあつらえようと思い、こんな風にしてくれといつもの仕立屋に頼むと、彼女はおどそかに、『最近はみなさん、そんな風にはされませんよ』とのたまう。(中略)『みなさん』は僕と、どれほど深い関係にあるのか。僕の個人的な問題にくちばしを入れるほどの権限を持つ存在なのか」
ソローは、「みんな」を権威者のように扱う社会の風潮に疑問を呈しています。「みんな」と「自分」の間には深い関係などなく、自分がみんなに合わせる必要はないのだと主張します。
しょっちゅう人に会いに行く。そんな習慣がたがいの尊敬心を失わせる
「人とのつきあいは、一般にくだらないものだ。あまりにしょっちゅう顔を合わせていると、おたがいに新たな価値を身につけるだけの時間がない。一日に三度の食事で顔を合わせ、カビの生えた同じ古いチーズに新しい風味をつけて、たがいに与え合っているようなものだ」
ソローは、人と頻繁に会うことで、かえって尊敬の念を失くしていくと主張します。その結果、エチケットや礼儀といった無駄なルールが作られてしまったと嘆き、「そんなに頻繁に会わなくても、大切な、心のこもったつきあいはじゅうぶん続けられるはずだ」と述べています。
自由になれるのに、自由にならないのはなぜなのか
「この国ーーアメリカを自由の国と呼んでいいのか。英国のジョージ王からは自由になったが、自由の身に生まれていながら、自由に生きていないのはどういうことだ。(中略)僕たちが誇りにしている自由とは、奴隷になるための自由なのか、それとも自由になるための自由なのか」
孤独を愛したソロー。彼が何よりも求めたのは、個人の自由でした。自然の中で自分と向き合い、「自分は自由である」と実感するためにも、孤独な時間は必要だったのでしょう。
本当に幸せな人生とは?
この『孤独の愉しみ方』では、「簡素に生きる大切さ」や「持たない喜び」といったシンプルライフの価値にも言及しています。
自分にとって本当に幸せな人生とは何か。ソローの言葉に触れることで、そのヒントが見つかるかもしれません。
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