「ソロキャンプ」のヒロシが訴える「みんなで」への強い違和感

「自分勝手に載せたい写真を載せ、書きたい文章を書いただけ」という自由な雰囲気の『ヒロシのソロキャンプ』

自虐ネタのお笑い芸人から、チャンネル登録者100万人の人気YouTuberへ。意外な転身を遂げたヒロシさんが「ソロキャンプ」をテーマにした本を出しました。その名も『ヒロシのソロキャンプ~自分で見つけるキャンプの流儀』です。

ソロキャンプは、ヒロシさんがYouTubeで日々発信している動画のテーマそのもの。本の帯には「ソロキャンパーの先駆者」「ヒロシの全ギア、全キャンプテク、動画術を初公開!」という文字が踊っています。

「ソロキャンプは自分ひとりで完結できる遊びである。ひとり故、不便もすべて背負い込む。逆にいえば自由もすべて享受できる。ソロキャンプはキャンプの中でもダントツに自由なスタイルだ」

ヒロシさんはこう記し、すべてを自分ひとりで決められる「自由さ」こそがソロキャンプの魅力だと訴えます。

赤子のようによく眠れるハンモック

さまざまな角度からソロキャンプの醍醐味を伝える本書。全120ページの前半は、ヒロシさんがふだんソロキャンプで使用しているギア(道具)の紹介です。

テントやハンモック、焚き火台やランタンといったキャンプギアが、大きなカラー写真とひねりの効いた文章で案内されていて、読んでいるうちに「自分もこんな道具を持って、キャンプに出かけたいな」という気分が高まります。

たとえば、現在のヒロシさんのキャンプに欠かせない道具という「ハンモック」については、こんな風に書かれています。

「ハンモックを実際使ってみたら、意外にも快適で実用的なものだった。僕が使っているDDハンモックスのものに横たわってみると、思いのほか広く、あぐらをかけるほど自由な姿勢が取れたのだ。わずかな揺れも心地よく、ゆりかごのようだ。40歳をとうに過ぎたのに、赤子のようによく眠れるのだから驚いた」

「焚き火」はキャンプの中で最高の遊び

本の後半で綴られているのは、実践的なソロキャンプのノウハウ。なかでも、力が入っているのが「焚き火」のパートです。

(1)火口(ほぐち)を準備する→(2)火種を作る→(3)火種を大きな炎にする

こんな焚き火の手順について、写真つきで詳しくレクチャー。火打ち石と火打ち鎌を使って火をつけるという原始的な方法まで、丁寧に紹介されています。

それほど焚き火は、ヒロシさんにとって重要だというわけです。

「僕にとって、焚き火はキャンプの中でも最高の遊びであり、火熾しは男のファンタジーだと思っている」

「僕は、焚き火は人間の一生に寄り添うのと同じだと思っている」

こう記すヒロシさん。

ソロキャンプで焚き火を眺める時間こそ至福のときなのです。それを象徴するかのように、本の表紙には、ハンモックに座って焚き火をじっと見つめるヒロシさんの写真が使われています。

「みんなで」という言葉への違和感

全体としてゆるい雰囲気の文章でソロキャンプの楽しさを伝えている本書ですが、最後の「おわりに」という章では、ヒロシさんがソロキャンプを続ける理由が強い言葉で語られています。

「これまでの僕の人生は『みんなで』という言葉に振り回されてきた」

学校の教室で「みんな」と同調できなかった苦い思い出を振り返りながら、ヒロシさんは「みんなで」という言葉への違和感を表明します。

「『みんなで』という言葉は平和でどこか正義めいたものにすら感じるのだろうが、僕は違う。ずばり同調圧力という印象しかない」

「自分の興味のないことでも、空気を読んでグループに入ること。やりたくないことでも、誰かがなんとなく与えてくれるポジションを演じること。異論があっても黙って従う協調性のこと。僕にとっては『みんなで』は負の言葉でしかなかった」

みんなで同じことをする「集団主義」に耐えられなくなったヒロシさんが向かった先がソロキャンプでした。

「『ひとりで行なったらどうなるのだろう』。ふとそう思い、ひとり用の装備をそろえ、ひとりキャンプ場へ行ってみた。最初こそ少し不安だったが、好きなキャンプをひとりで好きに楽しめた。テント、寝袋など、数多くの装備を用意してのキャンプだったが、『みんなで』という装備を置いて行ったら、びっくりするくらいの軽量化ができたのだ。僕にとって一番不要な装備だった」

「みんなで」を捨ててきた人たち

面白いのは、「みんなで」という言葉に違和感を持ち、「ひとりで」キャンプに行くようになったヒロシさんが、いまでは100万人ものチャンネル登録者を擁する人気YouTuberとなり、さらにはソロキャンプを愛好する芸人たちと「焚火会」なるグループを作るようになったことです。

「不思議なもので『みんなで』を捨てたのに『みんなで』ソロキャンプをやっている」

ヒロシさん自身、その矛盾を認めつつも、通常の「みんなで」とは違うのだといいます。

「この矛盾するソロキャンプグループというものが、なぜ成立するのか考えた。『焚火会』のメンバー全員、それぞれどこかで『みんなで』を捨ててきた人たちなんだと思う」

ヒロシさんのYouTubeチャンネルを見て、ソロキャンプに憧れている人たちの多くも、「みんなで」という同調圧力に飽き飽きしているのではないでしょうか。

「みんなで」の時代から、「ひとりで」の時代へ。

この『ヒロシのソロキャンプ』という本は、発売1カ月で7万部も売れているそうです。その現象こそが、人々の意識の変化を表している気がしてなりません。

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