乳がんの入院4日前にして緊急手術、猫が。(未婚ひとりと一匹 18)

くるみはいつもと変わらない様子です
くるみはいつもと変わらない様子です

乳がんの左乳房全摘出手術を目前に控え、いつも通りひとり暮らしで毎日を過ごしているコヤナギユウです。こっちは、トイレの失敗が気になって獣医に連れていったところ、右乳房に乳がんが見つかった猫のくるみです。

ペットと飼い主は似るっていうけどさ、そんところ似なくていいんだよ!

人間の手術は一度仕切り直しがありましたが、次は予定通りに行われそうです。猫の乳がんは、いまのところ変わったところがないので様子見。でもわたしの乳がんだって痛くもかゆくもないんですから、猫のことも考えなくてはなりません。

うーむ。

考えたくはないけれど、考えておく

入院している間、猫とわたしの世話をやいてもらう母に「慣らし上京」してもらっていましたが、実際の入院までまだ日があるため、いったん帰っていきました。

母が上京している間、成田山や自宅近くの両国などを観光し、ゆっくり過ごすことができました。

「回向院(えこういん)」という、両国では有名なお寺があります。江戸時代を舞台にした宮部みゆきの『本所深川ふしぎ草紙』なんかにも出てくる無縁寺(身元が分からない人々や動物も供養するお寺)で、鼠小僧次郎吉のお墓があることで有名です。

無縁寺ということで、さまざま供養塔が建っているのですが、「犬猫供養塔」や「小鳥供養塔」もあり、たくさんのお花が供えてあります。

病気平癒のお守りをいただいた乳がんの人と猫

くるみは拾い猫で、本当の年齢がわかりません。7歳くらいだろうと思っていたら、10歳ほどではないかということがわかりました(第14回参照)。短命といわれているスコティッシュフォールド種ならお迎えが来る平均年齢です。おまけに乳がんまで見つかって…。

ひとり暮らしの相棒の死なんて考えたくはないことですが、ほかの誰が面倒を見てくれるわけでもないのがひとり暮らしでもありますので、考えておかなければなりません。魂は肉体に残らないと思っているので、自分の遺骨は風の中にでも散骨して欲しいと思いますが、猫は…どうかな。もはや猫のいない暮らしは考えられませんが、こんな場所なら、くるみもさみしくないかもね、なんて思いながら手を合わせました。

卵子凍結はしません! 「女のお役目」から解放された気分

手術が伸びた間、なにも治療をしないのもなんなので、ホルモン剤の投薬治療を先に行うことにしました。

乳がんには、なにによってがんが育つのかで分類する「サブタイプ」があります。わたしの乳がんはホルモンの影響を受けるものの、増えるスピードが遅い「ルミナルAタイプ」という見立てです(正確なものは手術後に摘出したがん細胞を解析して特定します)。

飲み忘れないように日付を書いてアドベントカレンダー方式にしてる

「タモキシフェン」という薬を毎日1錠飲んで、女性ホルモン「エストロゲン」の分泌を抑えます。エストロゲンは「女性らしさをつくるホルモン」と呼ばれ、赤ちゃんのベッドとなる子宮内膜を厚くし、乳房をはじめ、肌や機嫌(自律神経)に影響します。

これを薬で制御するのですから、当然副作用があります。気持ち悪くなったり、太りはじめたり、気分が落ち込んだり、ほてったり。そう、エストロゲンを制御する、とは「更年期状態」になることです。当然、妊娠はできません。

投薬期間は約10年。無事に寛解(完治ではないけれど問題ない程度まで収まること)までには約10年かかるということです。その頃にはわたしは50歳を超えています。つまり、もう自然妊娠は難しい。

だから、卵子を凍結するか聞かれました。
わたしの答えは1秒も考えずにNOです。

それは、金銭的な理由じゃありません。わたしは生みたくない人生だったのです。病気によって生みたくないことが認められた気がして、とてつもなくホッとしました。子どもは好きだし、授かることがあるならばきっと頑張れる。でも、積極的に欲しいと思えなかったのです。パートナーは必要です(いないけど)。でも、それと子をなすことがイコールだと思えなかった。自己中心的かもしれませんが、選択できるなら、自分のやりたいことに向き合いたいのです。それで結果的に、ずっとひとりになっても。

女なら誰でも生みたいわけじゃないんです。

薬を飲んで、もう妊娠できないことになり、正直、心底ホッとしました。

手術まで時間ができたので、考え直したことがもうひとつあります。全摘出した乳房の再建手術の方法についてです。がんを取り除いたあと、水風船のエキスパンダーを入れ、様子を見てからシリコンを入れる「二次再建」が一般的な手法とのことで、それを希望していました(第13回参照)が、やっぱり最初からシリコンを入れることにしました。

いきなりシリコンを入れることで、胸や乳首の高さが合わないなど、多少の不具合が生まれる可能性がありますが、乳首の高さなんか気にしている人はこの世にいないな、というのをセミヌード写真を撮って思いました。正面に立ってまじまじと見なければ、左右の胸なんて見比べられないんです。だったら、そんな風に見るのはわたししかいませんし、わたしは気にしません。手術が1度で済む「一次再建」に挑戦することにしました。

「それまで待てないと思います」

さて、粗相が続いている猫のくるみですが、食欲は変わらず。乳がんに関しては、わたしがさわってもよく分からないのですが、どこか具合が悪いようではなさそうです。

でも、なんかちょっと、様子が違います。

まず、よく撫でてもらいに来るようになりました。最初はいよいよ慣れてくれたのかと思っていたのですが、ゴロゴロと寝転んで仰向けでくねります。そんなことできるのか。そして、おもむろに廊下へ走り出ては、珍しく大きな声で鳴くのです。ご飯の時に小さな声で「ゴハァン」という程度のくるみが、「ナオ〜ン」と。

ハッ、これは、もしや、「盛り」では?でも、推定10歳で? ホルモンバランスになにか異変が起きてるのかもと思い、獣医へ連れていきました。

診察台の上で大激怒3秒前のくるみの様子です。とても元気

レントゲンの結果、未だに子宮が残っていることが分かりました。去勢手術を受けていないのです。室内飼いしか考えられない、スコティッシュフォールドと思われるくるみが、去勢手術を受けずこの年まで飼育され、投棄されたことが信じられませんでした。あるいは、悪徳業者の繁殖猫だったのかもしれません。

最悪なことは続きます。

「くるみちゃんの乳がんの進行が、早いかもしれません。まだ1カ月経っていないと思いますが、このあいだより腫瘍が大きくなっています」

じ、実はわたしも乳がんで5日後に入院予定なのです、と告げました。退院などを考えると猫の手術は1カ月後になりそうだと。

「それまで待てないと思います」

またもや頭が真っ白になりましたが、やることはひとつです。

人間の左乳房全摘出手術を目前に、猫の緊急入院を決めました。猫は右乳房全摘出です。入院予定は約9日間。人間とほぼ同じ。猫が退院するころ、わたしはまだ入院していますが、そこはサポート上京してくれる母と兄に甘えさせてもらいましょう。兄は猫好きなはずです。

わたしの入院は6日、手術は7日の予定ですが、またもや猫が先んじます

猫の乳房は縦に4つ。全摘出となるとかなり大きな傷になります。また、この機会に子宮の摘出も一緒に行うことにしました。繁殖予定のない家猫に子宮があっても発病リスクが高まるだけです。

心肥大のあるくるみが手術に耐えられるか心配しましたが、なんとか乗り越えることができました。

入院中、毎日お見舞いに行きました。休診日も、お見舞いさせてもらえました。
大きな傷を抱えていても、相変わらず獣医さんには凶暴で、ケージの扉を開けてもらうと大激怒していましたが、怒れる元気があってホッとしました。わたしが顔を出すと、むき出した歯をしまい、撫でさせてくれます。ちゃんとわたしがわかることが嬉しくて、涙が出ました。うん、くるみが頑張ったから、次はわたしだ。

見積もりは、手術と入院費含めておよそ25万円。くるみが人間なら、所得がないので「高額療養費制度」の「オ」で3万5400円で済むのにな。でも、もう家族であるくるみの命は、お金に換えられないのです。

いよいよ4日後は人間の番。わたしの左乳房全摘出手術です!

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コヤナギユウ

デザイナー・エディター。1977年新潟県生まれ。「プロの初心者」をモットーに記事を書く。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。ひょんなことから猫を飼い、2019年2月に乳がん発見のためキャンサートラベラーへ転身。5年後には海外移住してみたいと夢見るアラフォー。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。

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