寿司とスイーツと大人の部活動——スシロー“カフェ部”を体験してみた件

お寿司屋でカフェ!?

初めて「スシロー カフェ部」という言葉を聞いたとき、「うなぎと梅干し」くらい相性が悪い組み合わせだと思った。

そもそも寿司を食べた後にコーヒーやスイーツを口にしようなどという選択肢は、私の中に存在していなかった。お酢の香りが漂う店内でカフェを楽しむなんて……想像しただけで違和感しかない。

そんなモヤモヤを抱えながらも、「ある目的」のために、私はスシロー カフェ部を体験してみることにした。

はじめの一歩は「ひとりスシロー」から

4月上旬の平日の午後2時、都内某所のスシローをひとりでたずねた。カフェ部というからには、この行動は「部活動」といってもよいだろう。

ほんの少しだけ緊張しながら店に入ると、若い家族連れが20人ほど順番待ちをしていた。待つのに飽きた子どもたちが騒ぎ立てている。

待ち時間を少なくするため、ランチタイムを外したのだが、目論見どおりいかなかったようだ。カフェ部の「新入部員」として、私は目立たぬよう気配を消して壁にひっつき、自分の番号を待った。

10分ほどしてモニターに番号が表示された。案内されたテーブルにそそくさと着席する。ひとり客には広すぎる、6人がけのボックス席だった。

座席の背もたれが頭より高い位置まであるので、視線が遮断されて、他の客の姿が見えない。小さな個室にいるようだ。それがなんとも居心地がいい。

ひとりで回転寿司屋にくるのは不安もあったが、意外と大丈夫そうだ。むしろ、最高じゃないかしら。

コーヒーが寿司レーンに乗ってやってくる

ここは回転寿司屋というよりは、ファミリーレストランに近いと感じた。ファミレスにはたまに行くが、コーヒーを飲まないことが多い。ほとんどの店がセルフサービスになったからだ。

ドリンクバーまで歩いていって、コーヒーを注いで自席まで持ち帰らなければいけない。不器用な私は、運んでいる間にカップの中のコーヒーをこぼしてしまう。席に戻ったときにはソーサーがびしゃびしゃで、中身が半分になっていたこともある。

歩いている途中にコーヒーをこぼして自分の指にかけてしまったら熱い。店内で予測不能な動きをする子どもたちにぶつからないようにする配慮も必要だ。そんなわけで、ファミレスでコーヒーを飲むのは避けていた。

でも、回転寿司屋のコーヒーは違う。注文してしばらくすると、コーヒーが「寿司レーン」にのって運ばれてきた。

「コーヒーが回ってくる」

なんて贅沢な光景だろう。最高としか言いようがない。自分でコーヒーを運ぶ必要がない。ただ座って、待っているだけでいいのだ。

和皿で届いたスイーツ——祖母を思い出す

カフェといえば、コーヒーとスイーツだ。席に置かれたタブレットをみると「スシロー カフェ部」のスイーツの説明が書かれていた。

専属のパティシエが、年間約50種類もの新作を「おいしく、わくわく、ぞくぞく」をコンセプトに開発しているのだそうだ。

タブレットに表示されたメニューは、プリン、パフェ、お団子、季節の果物を使ったスイーツなど、10種類以上ある。その中から、「苺のチーズケーキ」と「マンゴープリン盛り合わせ」と「カタラーナ」を選んだ。

カタラーナは、スペインのカタルーニャ地方発祥の冷たいクレームブリュレのようなデザート。こんなスイーツまで用意しているんだ、とちょっと驚いて、つい頼んでしまった

コーヒーのときと同じように、ふだんはマグロやイカのにぎり寿司を客席に届けるレーンに乗って、苺のチーズケーキをはじめとするスイーツが続々とやってきた。

その味は、思いの外、本格的だ。使っているクリームチーズの質が良いのか、苺のフローズンダイスも口をサッパリさせてくれる。よく考えられているなと感心したが、小さな違和感もあった。スイーツたちが和皿にのっていたからだ。

この和洋折衷な雰囲気、祖母の家で食べたケーキを思い出す。コーヒーも専門店の本格的なドリップという感じではなく、緑茶派の祖母が慣れないコーヒーをいれてくれたときの味に近い。なんだか懐かしいな。

スシローの店内は、想像していたよりも、ひとりで気兼ねなく過ごせる場所だった。その気楽さに「カフェ部」という選択肢が加わったことで、私のひとり時間の過ごし方に新しい窓が開いた。

お寿司を眺めながらのコーヒータイム。その中をレーンに乗って運ばれてくるコーヒー。その光景は、日常の中の小さな非日常だ。

本当の目的は「かわいいネコ」でした

ところで、この文章の冒頭で、私は「ある目的」のためにスシローにいったと書いた。それは、現在スシローがコラボしている「ノラネコぐんだん」のコラボグッズをゲットすることだ。

ノラネコぐんだんというのは、工藤ノリコ作の絵本シリーズに登場するキャラクター。8匹の黄色いネコが思いのままに行動し、大騒動を巻き起こす。毎回、その企みは失敗し、全員正座して反省することになるのだが。

シリーズの中には『ノラネコぐんだん おすしやさん』という作品もある。ノラネコぐんだんが回転寿司屋にいたずらを仕掛ける話で、それがスシローとのコラボにつながっているのだろう。

店内のいたるところに、ノラネコぐんだんのイラストがあって、心の中で「かわいい〜」と叫んでしまった。

念願のコラボグッズを手に入れ、ひとりニヤニヤしている私の向かいの席から、子どもたちがグッズ欲しさに親たちにおねだりをしている声が聞こえてきた。私は、大人気なく大人買いできる自由を噛みしめた。

帰り道、満足感に浸りながら歩いていて、気づいた。

「甘いものを食べすぎて、頭と背中が痛くなってきた」

スシローカフェ部での部活は、予想外の幸福感と、予想通りの糖分過多をもたらしてくれた。それでも後悔はない。小さな非日常は、意外な場所にあることを発見したのだから。


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大倉すみれ (おおくら・すみれ)

お酒と猫と蜂蜜をこよなく愛し、YouTubeで関連の動画を観て、ひとり時間を過ごしている。最近、興味を持っているのは養蜂。いつか自分の巣箱を持つのが夢。

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