人間嫌いの飼い猫との距離、少しずつ詰めていく(未婚ひとりと一匹 6)
「ッシャー!」と警戒し怒り続ける猫・くるみとの「ひとりと一匹暮らし」は、ぎこちなくもスタートしました。人間のことは嫌いでも、家のことは嫌いにならないで下さい!
こんにちは! 猫くるみと、ひとり暮らしをしているコヤナギユウです。
触れることもままならない人間嫌い猫と暮らして約1カ月。「犬は人につき、猫は家につく」なんて言葉もあるように、猫とわたしの距離はなかなか縮まりませんが、家のことはちょとずつ、好きになってくれたみたいです。
猫の定位置はリビングの奥のテントですが、お気に入りの場所はなんと、わたしの定位置である座椅子の上! ちょっとトイレへ立った隙に席が奪われている「幸福感」。
えっ、もしかしてわたしの臭い、嫌いじゃないのでは? と指の臭いを嗅いでもらうと返答は「ッシャー!」です。なんでだよ!
猫のご機嫌のはかり方
何ともいえない眼力に見せられて同居を決めたので、一生なつかなくても構わないと覚悟していたものの、本当にムリかどうか試す価値はありますよね。だって、なついてくれたらやっぱり嬉しいですから。仲良くなるためにはスキンシップ、といいたいところですけど、そのスキンシップのタイミングがなかなか難しい。
ふいに触ると驚かせてしまうので、まずは人差し指の臭いを嗅いでもらい、ご機嫌を伺います。OKなら「首を搔いていいよ」と顔を突き出してくれるし、そうでなければ無視されます。無視されたら、深追いNG。
くるみと仲良くなるために最も大切なことは「嫌われないこと」です。
いくら首を上手に搔くことで気持ちよさを提供しても、そういう気分じゃなければ、近づくこともままなりません。でも、マイナスにさえならなければ現状維持が許されるのです。そう考えると、くるみの懐って意外と大きいと思いませんか。
くるみのご機嫌を確かめながら触れるときに触る。これは正攻法ではありますが、機会が少なすぎる。もっと隙が生まれるときはないか、くるみを観察してみました。
ご飯を食べているときは確かに無防備で、多少触れてもとがめられません。でも、成猫なのに体重2キロしかないやせっぽっちなので、ご飯はなるべく食べてほしい。だから気を散らしてしまうのは、あまりよくありません。
また、テントの中は安心できる「絶対領域」にしておきたいので、テントで寝てるときもアンタッチャブルです。
おさわりは朝方に
注意深く猫の毎日を観察して、くるみに触れるチャンスをとうとう見つけました。
それは朝の寝起きです。
なぜかくるみは、夜の睡眠はテントではなく、座椅子でしています。わたしが目を覚ますと、くるみもその音で起きた、といった感じでぼんやりしており、指先臭いチェックがゆるいのです。
調べてみると、朝に甘えん坊になる猫は多いとのこと。すかさず両手でなでます。首筋に指先を差し込み、顔を包むように搔いてほぐし、そのまま眉間やおでこもカキカキと搔きます。鋭い眼光づくりに一役買っている額の毛の密度の濃いこと!
じいっと見てると高校球児の坊主頭のように毛がつんつんとしているのが分かります。猫の顔ってこんな感じだったっけ?
そのまま調子に乗って、指先を身体へ伸ばしてしまうと即刻ゲームオーバーなので注意が必要です。人間になでられることがいい思い出になるように、触られるのが好きな首と額をよく搔き、接触時間を稼ぎます。
すると、リラックスしてきたくるみの口元が……濡れている!?
「おでこをもう少し搔いてくれよ」と頭を下げると、決まってくしゃみが出ます。どうやら、よだれが鼻に回ってしまうのです。
クシャン、と四方によだれをまきちらして、朝のまどろみタイムは終了。タッチ判定はシビアな状態に戻ります。
猫の爪切り500円、おしりの毛刈り1600円
そんな調子なので、猫のお世話の筆頭である「爪切り」なんて毛頭できません。でも、放っておいたら爪が伸びて、また肉球に刺さってしまうでしょう。だから、月に1度は獣医さんに連れていって、爪を切ってもらっています。
あと、足とおしり近辺の毛をバリカンでカットしてもらいます。長毛種は肉球の間の毛がぼうぼうに伸びて、フローリングなどで滑ってしまうのです。また、少しお腹がゆるむとおしりまわりの毛にうんちがついてしまうので、これも近くの毛をカットして防ぐのです。
また、関節炎の進行を少しでも和らげるためサプリを支給してもらいます。根本的に解決のできない疾患なので、緩和ケアです。西洋医学の痛み止めもありますが、腎臓に負担がかかってしまうため、奥の手になります。食欲があるうちは、サプリを食事に混ぜ込んで、与えていくことにしました。
よだれが多いのは歯槽膿漏なのでは、とのことでしたが、この日はくるみのガマンが限界だったため、口の中の検査までいたらず。獣医曰く「ご飯が食べられていれば、急は要しませんので」とのこと。
今日の費用は……約5000円。
・爪切り500円
・局所毛刈り1600円
・関節サプリ100円×30日分=3000円
最近はペット保険もあるけれど、拾った高齢猫が今さら保険に入れるわけはなく、これくらいの負担は覚悟している。歯槽膿漏はどうやって治療していくのだろう。
元気〜! 勇気〜! くるみ〜!
獣医から帰ってくると、ひょっこひょっこと歩きながら、家中をぐるぐるします。関節炎のせいでめったに走れない猫が興奮しています。ちょっと混乱しているのか、なかなか落ち着くことができません。考えてみれば、触られるのも気分次第なのに、獣医ではタオルケットに包まれて、関節炎で痛い足先をつかまれ、パチンパチンと不審な振動を感じ、なかなかの恐怖感だろうと思いました。
わたしのことも少し警戒しています。いや、そうだよね。ごめんね。
くるみはめったに上を見ないのですが、部屋中をキョロキョロして、「ベッドの上」を気にしている様子。まさか、飛び乗るの? 走ることも、爪研ぎも、週に1度するかどうかという「足腰弱美ちゃん」のくるみちゃんが?
すると、いっちょ前に腰を下ろし、少し後ずさりして、なんと! ベッドの上に、乗った!!! すごいところ目撃できた! 獣医終わりのアドレナリンパワーすごい。
ベッドの上から降りるのは難しそうだったので、抱えて降ろしてやるともちろん「ッシャー!」と怒られました。
わたしがいないときに登ってしまったらかわいそうなので、来客用の座椅子とクッションでベッドに簡易的なスロープを設置。すると、まだアドレナリンパワーの切れていないくるみがスロープを駆け上がり、ベッドの上に再び登頂。やるわぁ。元気かよ〜!
獣医という「訳分かんない恐怖」に立ち向かって、家の中のフィールドを広げたくるみ。わたしもがん検診とか、なんか「訳分かんない恐怖」があるけれど、立ち向かわなくちゃな、と思いました。くるみもやったんだから、わたしもやらなきゃ。見つかったら怖い、とか言っていられない。だってくるみと暮らすためにも、わたしが健康であることが大前提だし。
区の乳がん検診にひっかかり、くるみの元気に勇気をもらって生検検査を受けたのは、連載の2回目に書いたとおり。
ええ、そう、その疑わしかったしこりは悪性で、平たくいえば、がんでしたね。
くるみがいなければ、検査をズルズル伸ばして受けていなかったと思います。だって、どこも痛くもかゆくもないのですから。こんなに元気なのに、乳がんなんです。