乳がんのついでに豊胸手術はできますか?(未婚ひとりと一匹 13)
乳がん摘出手術の予定日まで1カ月を切った3月の下旬。「全摘出」になるのか「部分摘出」になるのか、これまでの検査結果をふまえて、あたりを付ける日が来ました。
これが終われば、あとは手術をするだけです。
こんにちは! 東京都内で自由業を営みながら、ひとりと一匹暮らしをしているコヤナギユウと猫のくるみです。
みなさん、がん検診は受けていますか? 40代以上の女性の11人に1人が乳がんになるといわれています……なんて聞いてもピンとこないですよね。
乳がんになりやすい人は以下の特徴があるようです。
・初潮年齢が早かった(11歳以下)
・出産経験のない、または初産年齢が遅い(30歳以上)
・閉経年齢が遅かった(55歳以上)
わたしが当てはまるのは「出産経験がない」ことだけ! ちなみに、女性に対して1%ですけど、男性でも発症するとのこと。
がんは早く見つけて、慌てない。そんなシュミレーションに、この連載が役に立つといいと思っています。
どさくさに紛れて豊胸できないか?
病院が嫌いです。
厳密にいうと「人体の不思議」を感じる行為や図解などが全体的に苦手で、自分を含め他人の脈を測ったりできません。
結婚願望のなさも「結局、家庭的負担は女性が負いがち」「やりたいことが無限にある」などさまざまな理由が思い浮かびますが、突き詰めると一番は「出産したくない」ではないかと思い至ります。動物は大好きなのですが、感動動画としてお茶の間に流れる馬などの出産シーンは、想像力豊かなわたしには刺激が強すぎて、出産に伴う痛みをすぐさま連想し直視することができません。
「案ずるより産むが易し」といわれましても、選択できるなら産みたくないのです。つわりも陣痛もまっぴらごめん。とにかく体内の異変を伴う痛みはなるべく避けたいのです。
だから、大事に至らないように検診はきちんと受けます。採血もエコーも大嫌いですが、手術よりはマシです。でも今回、手術は避けられないようです。
時間は巻き戻りません。そうとなれば、今できる最善の手段が手術なのですから、心頭滅却してやり過ごすしかありません。手術の詳細を決めるなんて、本当に考えたくない苦手なことなのですが、本人が決めるしかないのです。
わたしの手術には3人の医師が立ち会います。
ひとりは乳腺科医。腫瘍のある乳がん部分を見極めて、切除してくれます。
ふたりめは麻酔科医。全身麻酔が体質に合うか、適正な量を処置してくれます。
そして最後が形成外科医。乳がんを切除して形が崩れたり、乳首が失われたりしたものを、外科的方法で解決してくれます。
麻酔のお医者さんに会うのは入院した日、つまり手術の前日です。入院前の「検査結果を聞いて手術の方針を決めようツアー」は、乳腺科と形成外科で行います。
最初に訪れたのは乳腺科。主な議題は「部分摘出」か「全摘出」か、です。
部分摘出なら入院は5日程度。ただし、その後放射線治療で1日5分程度の放射を30日間受ける必要があります。
全摘出なら入院が約10日間。放射線治療は不要で通院の必要はありません。しかし、胸がまるまるなくなってしまうので、それが嫌なら再建手術の必要があります。再建手術は使用するシリコンの種類を選ばなければ、保険適用の「高額療養費」内(詳しくは連載9回目参照)で受けることができます(抗がん剤治療などは、摘出したがん組織を見て手術後に判断します)。
わたしの腫瘍は約2.5cm。部分摘出でも対応可能ですが、手術では腫瘍+1cmくらいの大きさを取り出す必要があるため、わたしのこのささやかなボリュームのおっぱいでは、形が変わるのは避けられない、とのこと。
形が変わる部分摘出か、全摘出か、そのあと再建手術をするか、考えておくようにいわれていました。
また、MRIの結果、新たな疑いが見つかりました。
「エコーで見えていた腫瘍とは別に、そのまわりに疑わしい小さな影が、MRIで見つかりました。これががんである場合、全摘出する必要があります」
がんかどうか、どうやって調べるんですか?
「生体検査ですね」
嫌です。
あの「穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)」(詳しくは連載3回目を参照)の感触を思い出すと気が遠のく思いで、考えるより先に答えていました。
部分切除にしても形が変わってしまうし、疑わしいなら全摘出にします。水着を着たり、温泉に入ったり、ささやかでもおっぱいがある生活をもう少し楽しみたいので再建手術もしたいです。
ところでがんがあるのは左胸ですが、右のおっぱいは疑わしくはないのでしょうか。このさい一緒にとって再建して、豊胸するなどという選択肢は……。
「全摘出で了解です。コヤナギさんの右胸は健康なので、保険適用内で切除は難しいですね。実費だとおよそ150万円くらいでしょうか」
結構です。
豊胸の夢はあっさり手放しました。
担当外科医はYouTuber!?
形成外科の先生には初めて会いました。驚くほどに待たされて、出てきたのは疲れ切った若いいわゆる「イケメン」な先生。こんな先生に、おっぱいを晒すなんて、アタフタ……したらおもしろおかしいところですが、わたしはデザイナーという仕事柄、ルックスのいい男性には免疫ができています。また、自分のささやかなおっぱいを強く恥じるほどの思い入れもありません。医者に患部を診せて恥ずかしがるほど若くもないのです。
といっても、このイケメン外科医は今月で退職予定で、わたしの執刀を行うのは別の先生になるそうです。大きな病院なのでそこはうまく引き継いでくれるだろうと、特に不安は感じませんでした。
わたしには「保険適用内でできることをやる」以外に選択肢がないため、何事もシンプルです。
左胸を全摘出する。再建するならシリコンを選ぶ。使えるシリコンは保険適用内だから種類は決まっている。大きさは現在の右胸と合わせる。
質問もなにもありません。
「シリコンは海外製なので、どうしてもサイズ展開が海外仕様で、小さいと選びようがないのですが……」
尻つぼみになる言葉を受け流し、健康で残る右胸に合わせたサイズのシリコンは迷う余地もなく決まり、診察は終了。
「再建手術は『二次再建』が一般的です。全摘出手術と同時にエキスパンダーを最初に入れます。エキスパンダーとは水風船のようなもので、月に1度水を入れながら胸を膨らまし、皮を伸ばしていきます。シリコンに入れ替えるのは約1年後でしょうか」
なぜ皮膚を伸ばすのですか?
「豊胸目的の場合と、あとは乳がんの位置によっては皮膚や乳首を切除する方もいるので、表皮が足りないのですよね。でも、コヤナギさんはがんが皮膚に達していないですし、乳首も残るので、いきなりインプラントを入れる“一次再建”も可能です。そうしますか?」
え、普通はどうしますか?
「一般的にはエキスパンダーを入れ二次再建します。エキスパンダーを入れると胸の形をある程度操作することができるので無難です。乳首の高さなんか、どうしても変わってきちゃいますが、エキスパンダーを入れておけば多少調整できます。まぁ、エキスパンダーを入れた方が無難ですよ。コヤナギさんの手術はもう1カ月切っているので、もしシリコンを直接入れるならもう注文しないといけないんですけど、どうします?」
ええっ、うーん、決断できないので普通で無難なやつにしておきます。
「二次再建ですね。いいと思います、無難で」
決断は得意な方だけど、未知なることに急な判断はできないので、あまりなにも考えず、エキスパンダーを入れることにしました。まぁとりあえず、本で読んだ予習にもそう書いてあったし、そういうものでしょう。
帰り際、イケメン医師から名刺をいただきました。
「なにか不安なことがあったら、いつでも相談してください。あとYouTubeでも発信しているので、名前で検索してもらえれば」
なんと、いまどき外科医もYouTuberですか。まぁ珍しくもないのか。彼は明らかに本名で活動していて、Googleで検索したらいろいろ出てきました。美容整形も行っているらしく、いろいろな口コミが引っかかってきます。まるでコスメのレポのよう。いろいろな世界があるのだなぁと思って、検索画面を閉じました。
次に病院へ来るときは、入院するとき。
はぁ〜。全然実感がありません。