「カクテルの街・宇都宮」を知っていますか 餃子だけじゃない大人のひとりバー巡り

餃子で有名な栃木県の宇都宮市が、「カクテルの街」として売り出していることは知る人ぞ知る話かもしれません。しかし、そう自称するには理由があります。現地で毎年開かれているカクテルのお祭りに足を運び、地元バーテンダーの第一人者に話を聞きました。(取材・吉野太一郎)

5月12日、春の陽気に誘われ、新幹線で東京から約1時間の宇都宮へ。餃子の街は、雲一つない青空でした。宇都宮駅から自転車で10分ほど走った中心市街地の商店街にある広場「オリオンスクエア」は、午後3時前の時点でものすごい人出でした。

イチゴ味のカクテル2000杯
市内のカクテルバー32店でつくる「宇都宮カクテル倶楽部」が毎年開いているイベント「カクテルカーニバル」です。この日は、約8000杯が売れました。その中で存在感を示していたのが、イチゴ計280パックを使ったイチゴ味のカクテル。「とちおとめ」が有名な栃木県産イチゴの50年連続収穫量日本一を記念したもので、13種類2000杯以上売れました。


もちろん、夜になれば、大人のカクテルもそれぞれの店で飲むことができます。なぜ「カクテルの街・宇都宮」なのか。宇都宮バーテンダー業界の第一人者とも言うべき人物に教えを請うことにしました。イベント会場から目と鼻の先にあるバー「山野井」に向かいます。
全国大会優勝のバーテンダーが続出

迎えてくれたのはオーナーの山野井有三さん(64)。木製のカウンターテーブルに、栃木名産の大谷石を基調とした落ち着いた雰囲気。磨き上げられたグラスや酒のボトルに、こだわりがにじむ店です。
洋食店の料理人や店長などを経て、23歳で先輩の勧めでバーテンダーになったという山野井さんは1987年9月、日本バーテンダー協会が主催する「全国バーテンダー技能コンクール」で総合優勝します。
指定されたカクテル作りの腕前や創作カクテルの出来栄え、学科試験やフルーツカッティングの技能試験などが課される日本最高峰のコンクール。山野井さんが優勝して以降、4年連続で、彼が当時勤めていた宇都宮市内のバー「パイプのけむり」から総合優勝者が出ました。
「その他の全国規模の大会を含めれば、今は20人以上優勝者がいるんじゃないかな。夫婦でやってるうちの店でも、2人で計5回優勝してるし」

何か理由があったのでしょうか。「まったくない。結果論ですよ」と笑う山野井さんですが、当時のコンクールに賭けた山野井さんの意気込みは並大抵ではありませんでした。
「練習は必ず仕事前。午後5時出勤なら、毎日2時に来て開店準備までに『今日は何本シェイカー振ろう』と、時間が限られている中でやってた。自宅では湯飲み茶碗に20ml、30mlと水を入れながら、計量カップで確かめる基礎練習。仕事が終わってからだと、ついのんびりしてしまって、すぐ朝になる」
こんな厳しい姿勢に、多くのバーテンダーが鍛えられたのでしょうか。

「餃子は一山越えたから」
そして1999年、行政が宇都宮のバーテンダーの実力に注目し始めます。「餃子は一山越えたから、次はカクテルで宣伝したい。しかし予算はない」という宇都宮市観光協会の依頼を受け、山野井さんは市内のカクテルバーに呼びかけ「宇都宮カクテル倶楽部」を結成。カクテルバー地図を作って観光客に配ったり、共通カクテルを考案したり、町おこしに乗り出しました。
「全然もうからないけど、やり続けるのが基本。真面目にやれば、ちゃんとお天道さんは見てるから」という山野井さんの言葉通り、今年で12回目を迎えたカクテルイベントも、約8000人が訪れる規模に成長しました。

14年前に独立した山野井さんは6年前、店を長男に譲り、同じビルの最上階に「ワンランク上の落ち着いた店を」と現在の店を開きました。
「学歴もコネもない。仕事で結果を出して、認めてもらうしかなかった。やった結果が、信用とか信頼とか、お金になって自分に戻ってくる。あとはその信用をつぶさないようにやるだけなんだ」
コンパクトな街でバーのはしごを

宇都宮の中心部はコンパクトなので、バーのはしごもできます。その前に腹ごしらえを。餃子の有名店がひしめく宇都宮で、私のお勧めは駅構内にある「青源」。もとは江戸時代創業の味噌蔵で、酸味のきいた味噌だれの「ネギ味噌餃子」が名物です。

こちらは栃木県庁前にあるバー「パークアベニュー」。マスターの福田弘樹さんに「オリジナルを」と頼みました。出てきたのは「ファーストステップ」。ミント、シソのリキュールにリンゴジュースと生ビール。仕上げに1枚のシソの葉が香る、果実味さわやかなカクテルです。
「餃子もいいけどカクテルもね」。カクテルの街のバーをはしごして、大人のひとり時間を堪能しませんか。
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