猫の余命が短いなら、処置はしなくていいの?(未婚ひとりと一匹 14)
犬や猫、鳥などのペットはかけがえのない家族です。独身ひとり暮らしの相棒ならば、唯一の理解者にもなります。でも、法律上、ペットは「モノ」。
こんにちは、ひとり暮らしで独身のコヤナギユウです。いい大人のひとり暮らしなので、なんでも自分で決める必要があります。乳がんの手術を目前に戸惑うことも多いのですが、唯一の同居人である猫の治療について悩んでいます。
冬空の公園に捨てられていた不機嫌顔の猫は「拾得物」で、3カ月は捨てた人に所有権があります。そして、晴れて「コヤナギくるみ」となった猫に、してあげたいことがありました。
高額な治療、歯石の除去です。
よだれがポタポタ垂れるようなら、口内環境をチェック
あまりの目つきの鋭さに魅了されもらい受けた猫は、首の一部を撫でる以外触ることができないため、毎月動物病院で爪切り&指とお尻の毛刈りをしています。
初めて連れていったときの健診で、大きな歯石があると指摘されていました。人間が歯石を取るならば口を開けてやり過ごせば良いものの、猫は同じことができません。だから、歯石除去でですら、全身麻酔をする必要があります。
歯石は食べかすが蓄積し、石灰化したばい菌のかたまり。口臭の原因になるのはもちろん、歯周病を悪化させ歯を失う可能性があります。また、歯石のばい菌が内臓にまわり炎症を起こす可能性もあるとのこと。
毛がふわふわしているのでわかりにくいですが、くるみは推定7歳と立派な成猫なのに、体重が2キログラムしかありません。これは一般的なメス猫の半分程度です。小柄とはいえ明らかに痩せすぎ。その理由には歯石も関係あるようでした。
朝、目が覚めると猫を撫でるのがすっかりわたしのルーチンになったのですが、首回りを機嫌良くなで続けるとよだれが垂れることがありました。最初は犬みたいに喜んでいるのかな、と思ったのですが、これは口内に炎症がある証拠。喜ぶことで唾液が増える猫もいますが、ポタポタあふれるほどであればお口のチェックが必要です。
また、くるみは小食でした。拾ってきた当初はがっつくようにご飯を食べましたが、暮らしに慣れてきた最近は、パウチのウェットフードをレンジで10秒程度あたためて出しても、半分程度しか食べません。また、カリカリごはんは臭いを嗅ぐもののほとんど食べません。
だから、獣医で大きな歯石があるといわれたときは納得しました。
縁あってうちにやってきてくれたのだから、猫にはなるべく快適に暮らして欲しい。食事もままならず痩せこけているのは「快適」ではないので、全身麻酔は大変だけど、歯石の除去をすることにしました。
「食事を楽しむ」という当然の権利
さっそく、爪切りのために通院した際、そろそろ歯石除去をしたい旨を伝えました。
見積もりは変わらず7万円です。(詳しくは第10回「老猫の病気「治してあげる」は人間のエゴ?」)
処置日を予約し、「麻酔処置前のお願い」という紙をもらいました。全身麻酔のため、前日21時以降は絶食、朝8時には水も下げて絶食絶水、11時までに来院とのこと。歯石除去は全身麻酔が必要ですが、16時には帰れるそうです。
いよいよ前日、いつも置きっぱなしにしてあるカリカリを下げました。特に変わった様子はありません。わたしの方は高額処置にドキドキしていますが、それを実行する決断をした自分を誇らしく思っていました。
いよいよ歯石除去当日の朝です。朝ごはんはもちろん出さず、8時には水も下げました。最初は特に気にしていないようだった猫も、水を飲みにいつもの場所へ来たものの、ご飯も水もないことに気がついてうろうろし始めました。まだわたしを見て催促するような関係性が築けていないため、あれ? という感じで部屋の隅をかいで回り、水を探しています。喉が渇いているだろうと思うとせつなくて、11時とはいわず、獣医の受付が始まるとともに病院に行きました。
猫を預け、処置の内容を再度聞きます。全身麻酔を行い、歯石の除去を行います。おそらく、歯石でくっついているだけの歯があるので、何本か抜くことになるだろうとのこと。また、今回初めての全身麻酔なのでレントゲンや血液検査も行うとのことです。
「こんなに元気ですから、問題ないと思いますけどね」と盛大に威嚇するくるみをみて、獣医さんは失笑していました。
問題があれば電話がかかってくるとのこと。猫を預けて獣医を出ます。
7万円。
推定7歳と診断され、平均寿命10歳ともいわれているスコティッシュフォールド種のあと「3年」を快適に過ごしてもらうため、これが安いか高いかはわかりません。でも、少なくともいまは食事が楽しいと思えないくらいにおそらくは痛く、痩せているのです。食事という楽しみが奪われたままでいいわけがありません。これでいいのだ、と思いました。
しかし……。
余命が短いかもしれないなら、処置はしなくていいの?
「レントゲンを確認したところ、心臓が結構大きく、もしかしたらくるみちゃんは結構お年なのかもと思い、念のためお電話しました。処置を続けますか?」
くるみを獣医に置いて3時間ほどで電話がかかってきました。軟骨性異常で「折れ耳」を作り出すスコティッシュフォールドは、関節の軟骨が変形して「骨瘤(こつりゅう)」が起こりやすいと言われています(くるみも、びっこを引いて歩いています)。それと同じように、くるみは加齢による心肥大と、生まれつき心臓の内壁がところどころ筋でつながっているため、本来の心臓の働きよりも鈍いそうです。
「ほかの検査は問題なく、処置の間も心電図などでチェックしているため、問題ないとは思いますが勝手にできないので、お伺いの電話をしました」
推定年齢は何歳くらいなのですか?
「おそらくなのですが、10歳くらいなのではないかな、と」
10歳! 平均寿命じゃん、と一瞬頭が真っ白になりました。
心疾患が見つかったのもショックですが、10年とは……。
わたしが言葉を失っていることを察したのか、電話口の獣医さんは返答を急ぎません。相談できるような家人のいないひとり暮らし。自分で決めるしかありません。
「……お願いします。処置を続けて下さい」
問題があればすぐに電話します、と聞いて通話は終わりました。「処置を続けてもらう」という結論の理由が言葉として浮かんできたのは、電話を切ったあとでした。
何年生きられるかといったコスパ論は結果であって、いま、すでに、痛く思うように食べられない。問題はそこなのだ、だから処置は必要なのだ、と思い、電話が鳴らないことを祈りました。
全身麻酔がなにをするのか、全然知らなかった
心臓へ負担がかからないようにと、麻酔時間は13分。無事に歯石除去を終え、追加で心臓の薬をもらって帰宅しました。帰ってきたらすぐにご飯をあげよう、と思っていたけれど、全身麻酔をした日は夜中の0時まで絶食絶水とのこと。
安心できる家についたはずなのに、喉の違和感を感じて咳き込み、あるはずの水がないためにうろうろするくるみ。これは、わたしだけ夕飯を食べるってわけにもいきません。
いつもならほとんど寝ているのに、落ち着かない様子でなにもない餌場と定位置のテントをいったりきたり。歩く度にギューギューと小さく咳き込み、しきりに口をもごもごとしては強く咳き込み、オエエとえずきます。その姿は、いかにも苦しそう。
心配になって獣医に電話して相談したら、全身麻酔で喉に酸素チューブを通したせいで違和感があるとのこと。
喉に酸素チューブを刺すんだ……そういえば、全身麻酔ってどうやるんだろう。テレビドラマとかで、口に透明なマスクを当てているけれど、あれだけじゃないんだ。この時初めて、全身麻酔がなにをやるのか、どういう状態になるのかを知り、猫の頑張りに気がつきました。
そして、わたしもあと2週間くらいでこの全身麻酔をするのです。
くるみの咳は1週間ほど続き、このまま弱ってしまったらどうしようと心配しましたが、日に日に食欲がもどり、いまでは何事もなかったかのように過ごしています。くるみが何事もないように過ごしている以上、わたしも自分の全身麻酔でビビっている場合じゃありません。
来週はいよいよ、乳がん全摘出のため入院です。