人間ぎらいでも構わない。齋藤孝著「50歳からの孤独入門」が売れ続ける理由
2018年9月に発売された新書『50歳からの孤独入門』(齋藤孝/朝日新聞出版)が、今でもじわじわと売れ続けています。いよいよ人生後半戦の覚悟を迫られる50歳という年齢。この本が伝えたかったメッセージを担当編集長に聞いてみました。
切実でリアルな内容
『50歳からの孤独入門』は、『声に出して読みたい日本語』で日本語ブームを作った齋藤孝さん(明治大学教授)の著書ですが、これまでの齋藤さんの著作の傾向からすると、かなり異色の本であるといえます。本書を企画した狙いについて、朝日新書編集長の宇都宮健太朗さんに聞きました。
企画を始めた当初は「あらゆる人間の悩みには、古典がすでに答えを出している」というコンセプトのもと、古典の教えをベースに、齋藤さんが仕事や家族や老いの悩みにこたえる本を予定していたのだといいます。
「しかし、もっと切実に、リアルな内容にしたほうがいいだろうということになりました。担当の編集者(50歳)、編集長(45歳)の『最近、なんだか元気が出ない』『何をしてもどこかむなしい』という心の悲鳴に忠実に作ることにしたのです(笑)」と、宇都宮編集長。
「孤独」をタイトルに配したのは、孤独感は一般的に「ネガティブ感情の代表例」なので共感を呼ぶこと、もうひとつは孤独のポジティブな可能性を掘り下げてもらう狙いがあったからだといいます。
ある書店のデータによると、『50歳からの孤独入門』の購入者の半数は50歳以上ですが、4割強が30〜40代、残りが20代以下と、さまざまな世代に読まれていることがわかりました。男女比は6対4。「気持ちが楽になった」「生き方を見つめ直すいい機会になった」といった反響があるそうです。
「特に読んでほしいのは、第3章の『人間ぎらいという成熟』というパート。『繋がろうとするからむなしくなる、だから人づきあいにあえて価値を置かない』という考え方は、50歳からの生き方に示唆を与えてくれると思います」と、宇都宮編集長。
「第4章の『孤独の時代を超えて』も、齋藤さんの若い頃の身を切るような孤独体験が投影されており、そのリアルな語りが胸を打ちます」
「パワースポット」に触れる
本書にはとても多くの引用が出てきて、その出典が巻末にまとめてあります。
「先人の知恵のつまった古典や現代作品、多くの人のエネルギーが凝縮された映画。これらはパワースポットを訪れたときにように、読んだり見たりした人の魂を賦活します。エネルギーあるものに触れることの効用をいつも説いておられる齋藤さんの『パワースポットガイド』です」(宇都宮編集長)
「その年になればその年にしか見えない風景があり、楽しみがあるように、ひとりでいることでしか見えない風景があり、楽しみ、そして世界を見る視点の深さが絶対にあると思います。この本によって、その確信への手掛かりをつかんでいただけたら、これほどうれしいことはありません」(宇都宮編集長)