ひとり旅で自分だけの「お宝映画」を探せ! 30年目の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」

ひとりで映画を観に行くのが大好き! そんな方にぜひオススメしたいのが、2年に1回、山形市で開催される「山形国際ドキュメンタリー映画祭」です。

映画館ではなく「映画祭」、しかも「ドキュメンタリー」とは、なんとニッチなと思われるかもしれません。でも実は、自分だけの貴重なお宝を探索することが好きな人には、充実したワクワク感が味わえる絶好の機会なんです。

現在、日本国内にはおよそ150の映画祭があります。その中でコンペティション部門を持ち、観客動員数が1万人を超える国際映画祭は、わずか10件程度しかありません。山形国際ドキュメンタリー映画祭は、その一つです。

喜び溢れる授賞式の様子(撮影・提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

東京から新幹線で3時間の山形県山形市。映画祭が開催される10月は、山を彩る紅葉と、名物の芋煮など秋の味覚が溢れ出る季節。そんな心地よい時期に2年に一度開かれるのが、山形国際ドキュメンタリー映画祭です。一体どんな発見があるのか。この道15年、映画祭事務局長(執筆当時)の日下部克喜が、3つのポイントをご紹介します。

(1)ドキュメンタリーは映画表現の可能性の宝庫

「ドキュメンタリー」と聞くと、事実をありのままに記録したノンフィクション、と認識される方が多いのではないでしょうか。演出の意図が見えたりするとヤラセと捉えられたり、現実にないことは映しちゃいけない、という風潮があるように思います。でも、それだとちょっと窮屈じゃないかな、というのが私の正直な感想です。

山形国際ドキュメンタリー映画祭では、どんな映画を「ドキュメンタリー映画」と言うのか、その定義づけを敢えて明確にしていません。ですから、毎回2000本以上の応募があるコンペティション部門には、台本があり役者が演じるいわゆる劇映画はもちろん、芸術性に特化した実験映画、果ては完全なアニメーションまで、様々な映画表現が世界中から集まってきます。

ペドロ・コスタ監督の『ホース・マネー』。明確に台本も演出もあるが、劇映画とドキュメンタリーの区分けが意味を為さない独特な作品(配給:シネマトリックス)

作り手が「これはドキュメンタリーだ!」と強い意志を持って送ってくれた作品は「ドキュメンタリー映画」として受け入れているんです。既成の概念に囚われず、自由に映画の可能性を探求したいという映画祭としてのポリシーがここに表れています。よって、既存のイメージを払拭するような新しい映画表現がたくさん観られるというわけです。

最新長編作品を対象とした「コンペティション部門」には世界初公開作品も出品されますから、かつてない表現と接触する歴史的瞬間に立ち会えるかもしれません。映画好きなら、探索のしがいがありますよね。

エロール・モリス監督の『死神博士の栄光と没落』。B級SFホラーの外貌を装いつつも、処刑器械の技術者の姿から人間性についての根源的な問いを突きつける(提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

(2)上映作品数が多いから、「どれを観るか」の決断が迫られる

山形国際ドキュメンタリー映画祭の上映作品数は毎回およそ200本ほどで、長篇映画が主な映画祭としては国内で1、2を争う規模です。8日間、約10スクリーンで朝から深夜まで上映し続けますが、物理的に全ての作品を観ることは不可能。そこで必要となるのが、どれを観るかの選択です。

上映スケジュールと作品紹介が載ったチラシを基本として、口コミなどを頼りに、どの作品を観るか、いや、どの作品を諦めるかを決断していかなければなりません。求められるのは、自身の嗅覚と勘のみ。

2017年開催時のプログラムチラシ

当然映画鑑賞には個人の好き嫌いが出ますから、厳選された貴重な作品群とはいえ、当たり外れがあります。だからこそ素晴らしいと思える作品と出会えたら、まさに自分だけのお宝を発見した喜びがあります。逆に観ない選択をした作品の方が、めっぽう評判が良かったなんて時は大変な悔しさが残ることも……。このギャンブル性も映画祭の楽しみ方の一つなんです。

(3)夜の交流の場「香味庵クラブ」で監督を探せ!

山形国際ドキュメンタリー映画祭では毎回およそ300人ほどのゲストをお招きしています。その多くは上映作品の監督です。映画祭では上映後に監督によるQ&Aの時間が設けられていますが、通訳をはさむのでいかんせん時間が短い。また公の場ということで、萎縮してしまって質問できない方も多いようです。

でもご安心を。Q&Aとは別に、個人的に監督にアプローチできる場があるんです。それが「香味庵クラブ」。毎夜午後10時から、メイン会場近くの和風レストランを貸切り、500円でお酒とお食事が楽しめる夜の交流の場として開放しています。

※編集部注:長年にわたって交流の場として親しまれた「香味庵クラブ」は、開催場所となっていた老舗店「丸八やたら漬」が2020年に廃業したため、2023年は別の会場で、開催されました。

蔵を改装した店内で映画談義に華が咲く「香味庵クラブ」(撮影・提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)

ゲストも観客も垣根なく対話ができる空間です。酒の勢いも借りながら映画の感想を監督本人に直接伝えたり、質問もできちゃう。かつてこの映画祭ではアッバス・キアロスタミ、侯孝賢、エドワード・ヤンなどのほか、日本人では河瀬直美監督をいち早く世界に紹介してきました。そんなビッグネームと盃を酌み交わせるのも、この映画祭の特徴です。

「香味庵クラブ」は観客同士の交流の場でもあり、どの作品が良かったか、いわゆる下馬評が飛び交う空間でもあります。その日、自分が観た作品の良し悪しを述べ合うというのも、何だか狩りの収穫を見せ合うようで楽しいんですよ。

8日間の祭典!山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019

山形国際ドキュメンタリー映画祭は1989年から隔年開催を続け、2019年で16回目、30周年の節目を迎えます。今回は10月10日から17日までの8日間の開催です。ひとり旅、秋の東北を味わいながら、ついでに国際映画祭の雰囲気を楽しんでみるのも一興ではないでしょうか。

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日下部克喜 (くさかべ・かつよし)

認定NPO法人山形国際ドキュメンタリー映画祭 前事務局長。1976年生まれ。山形市在住。大学卒業後、映画館勤務を経て、自主上映活動を展開。地方の映画館では上映されないマニアックな作品の上映会を定期的に行う。2005年より山形国際ドキュメンタリー映画祭に関わり、2007年、映画祭のNPO法人化と共に専従職員となる。趣味は恐怖映画鑑賞とオカルト研究。

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