映画館にいた猛者は3人のみ「100日間生きたワニ」を観にいった

映画館で販売されていた「100日間生きたワニ」のクリアファイル

漫画『100日後に死ぬワニ』(以下『100ワニ』)が、アニメ『100日間生きたワニ』として、装いも新たに映画化されたーー。そんな情報が僕の耳に入ってきたのは7月上旬のこと。『100ワニ』が劇場公開される直前だ。

ご存知だろうけど、『100ワニ』とは、イラストレーターのきくちゆうきが2019年12月から20年3月にかけてツイッターで毎日発表していた4コマ漫画で、100日目にワニが死ぬまでは絶大な人気を博した。

ところがワニが死んだあと、グッズの販売や書籍の発表など、商業主義の匂いを出したことが災いして大炎上。作者のきくちゆうきがネット動画で涙の釈明をするも、時すでに遅し。『100ワニ』(笑)となってしまうほど残念なコンテンツと成り果てていた。

劇場で観ないまま「クソ映画」と断罪していいのか?

そして、今回の映画化。漫画の完結と同時に明らかになり批判を浴びたが、一度決まったものは止められない。それが日本だ。東京オリンピックを観てもよくわかる。

劇場公開は7月9日。上映が始まった途端、映画館の座席予約を使って文字を描くなどの各種のいたずらが勃発し、アンチ『100ワニ』派による妨害行為が繰り広げられた。

こういうときは原典に当たれ。週刊誌の記者時代にそう教わった僕は、『100ワニ』の映画公式サイトにアクセスしてみた。監督・脚本は『カメ止め』の上田慎一郎と、その妻でアニメーション監督としても活躍するふくだみゆき。この時点で僕は少しイヤな予感がした。

邦画のナンバーワンクソ映画として名高い『デビルマン』(2004)と座組が似ているのだ。監督が夫の那須博之で、脚本が妻の那須真知子。これはもしかしたらヤバイかも……(那須監督の名誉のために言っておくが、『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズは名作揃いである)。

しかし、主演の声優は神木隆之介くんだし、その他の声優もいまが旬の若手俳優がラインナップされている。主題歌はいきものがかりで、音楽は亀田誠治。このメジャー感あふれる映画を観ないまま、クソ映画と断罪してしまっていいものだろうか。

おそらくネットのアンチたちは、映画を観ないで悪口を書いている。ちゃんと観たら意外といいのではないか。そんな僅かな期待を背負って、僕は7月下旬、新宿の映画館に向かった。

東京・新宿にある「TOHOシネマズ新宿」

オフビート感は意外と悪くなかったが・・・

歌舞伎町のど真ん中にあるTOHOシネマズ新宿。ここでの上映は、朝の8時5分〜の1回のみ。よほどの猛者でないと見に行けない時間だ。早起きして映画館に到着すると、チケットカウンターに進んだ。

そこで僕はチケットを買おうとしたが、映画のタイトルをフルで言うのが恥ずかしくて仕方がなかった。なので、うつむき加減で、小さな声で『100ワニ』と言ったが、販売員の女性に聞き返された。もう一度『100ワニ』と繰り返したが、また聞き返されたので、『100日間生きたワニ』と言うと通じた。わざとかと思えるほど、よくできた恥ずかしめだった。

劇場の中に入ると、僕以外に来場した猛者はたった2人だけ。60代と思われる男性と、20代と思われる男性だ。ポップコーンとコーラを持ち込んだのは僕だけだった。『100ワニ』は上映時間が63分しかない。それまでに食べきらなければならない。スクリーンとはまた別の場所で、しめやかな戦いが繰り広げられていた。

いよいよ映画が始まった。いきなり冒頭、漫画ではラストに描かれた花見のシーンが来る。なかなか来ないワニ。迎えに行ってくると、バイクに乗って出かけるねずみ。歩道から道路へ歩くひよこ。壊れた携帯電話。そして「100日間生きたワニ」というタイトルがスクリーンに映し出される。

「100日間生きたワニ」の予告編。映画の冒頭シーンが使われている

しばらくして「100日前」というテロップ。この構成に何の意味があるのか、たぶん意味はあるんだろうけど、ワニの死をいきなり示唆された観客は戸惑うに違いない。まるで『火垂の墓』の冒頭に出てくる「僕は死んだ」のようだ。それが狙いなのか。

同じく上田慎一郎作品の『カメ止め』とは違い、終始、低いトーンというか、ダウナーな感じで物語は進む。物語自体が最初から悲しみを帯びている。ギャグも随所に出てくるのだが、決してアッパーにはならない。このオフビート感、悪くない。

おそらく会話と会話のあいだに独特の「間」があるからだと思われる。一呼吸置くのだ。「もうすぐ……春だな」「……ん?……う、うん」みたいな。この感じ、初期の山下敦弘作品のオフビート感と似ている。つげ義春の漫画の空気感とも近い。なかなかいけるやんけ。

そう思った矢先、すべてをぶち壊してくれたのが、映画オリジナルキャラクター、かえるだ。こいつがウザい。チンピラ芸人風情で「マジすか」を連呼し、空気感をめちゃくちゃにしてくれた。こいつが最後までいる。

結論。かえるが出てくるまでは最高の映画なんだが、かえるが出てきてからは……。かえるを登場させた罪は重い。でも、世の中、もっとクソ映画はあるので、意外とよい映画だぞ!

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