秋の山形で観る「山岳フィルム」 映画館で快適な「山ごもり」

紅葉真っ盛りのシーズン。私が住む山形は例年であれば、河川敷で大鍋を囲んで盛大に「芋煮会」が行われるのですが、このコロナ禍で人影はまばらです。

今年はどうやら人間よりも山の動物たちの方が活発なようで、たわわに実った高級ぶどう「シャインマスカット」を嬉々としてむさぼる熊のニュース映像は、山形県民に大きな衝撃を与えました。

しかしフルーツ王国山形の秋の実りは、熊一頭ではとうてい食べ尽くせません。ご来県をお考えの方、まだまだ熊のおこぼれにあずかれますのでご安心を。

秋の実り、山の恵み

そんな晩秋の山形への旅行、特にひとり旅におすすめしたいのが、山や自然にまつわる古今東西の名作に出会える「山の恵みの映画たち」です。

11月27日(金)~29日(日)の3日間、山形駅からほど近い映画館「フォーラム山形」を会場に、全14作品が上映されます。

「山の恵み~」は、2年に1度山形市で行われる山形国際ドキュメンタリー映画祭の関連企画。これまで過去3回、県内外から多くの山好き、映画好きにご参加いただきました。

上映する作品は、映画祭スタッフ(筆者もその一人)と市民有志が協同でセレクト。選定の基準やテーマはあえて設けず、山や自然に関連する(とこじつけられる)作品であればなんでもござれ。とにかく自分がスクリーンで見たい/見せたい映画の魅力を語りまくり、周りを説き伏せたもの勝ちです。

というわけで今回も、極寒の雪山を舞台にした本格的な山岳映画から、ほっこり哀しい里山アニメーション、はたまた粘菌うごめくスリリングな科学映画まで、多彩、多様、雑多(?)な作品が集まりました。

以下、企画者の一人として、山のミニ映画祭の楽しみ方と作品の一部をご紹介します。 

構えゼロの山ごもり

大気汚染の深刻な大都市で新鮮な空気の缶詰がヒット商品となったのは記憶に新しいですが、コロナ禍の昨今、クリーンな空気を求める世間の関心は再び高まっています。

「山の恵み〜」はそういった文脈でも、特に首都圏在住者におすすめかもしれません。

山の上の澄んだ空気にはかなわないかもしれませんが、厳しい安全基準が設けられた劇場内には常に新鮮な外気が取り入れられます。街中とはいえ、山形の空気はきっと東京よりも美味しいはずです。 

前回(2019年)の会場の様子。映画館に魑魅魍魎が跋扈する。

かつて、「山ごもり」は「世捨て」の謂いでした。現代においても、山に生きるにはけっこうな覚悟とそれなりのサバイバルスキルが必要です。

かたや映画館での「山」体験は、ふかふかのイスにひとり座っているだけでいいのです。動かざること山の如し、と昔の人は言いましたが、テクノロジー全盛の現代においては動かないのはむしろ人間で、アルプスやヒマラヤの方が映画館にやってきます。

喉が乾けばキンキンに冷えたコーラ、小腹が空いたらポップコーン(コロナ対策で飲食不可となる可能性あり)。隣接するおしゃれなカフェではカレーやケーキさえ味わえます。

「山の恵みの映画たち」は安心安全、構えゼロで体験できる山ごもりなのです。

集団と個のせめぎあい

多様な「山」映画をあつめたこの企画のなかで、もっともわかりやすい「THE・山岳映画」と言えば『白き氷河の果てに』(監督:門田龍太郎/1978年)でしょう。

日本人隊初のK2登頂の一部始終を収めたこの記録映画は、ハリウッドのブロックバスターに負けない迫力と臨場感に圧倒されること間違いなしです。 

『白き氷河の果てに』

植村直己など単独行にこだわる一部の登山家の「冒険」を別にすれば、歴史に刻まれる山行のほとんどは、国や山岳会といった組織の威信をかけた一大行事です。

現地で数百人のキャラバンを編成し、前進しつつベースキャンプ、アタックキャンプを建設…。攻略や征服など、しばしばキナ臭い用語が使われる登山には、まさに軍隊のような組織と規律が求められます。

せっかくの大自然のなかで、あまりにも人間くさい規律に縛られることに違和感を覚える方は少なくないでしょう。実際、作中においても、さまざまなバックグラウンドをもつ男たちによる個と個、個と集団との衝突が描かれます。

他を出し抜き、我こそはアタック隊に選ばれんと心理戦を繰り広げる山男たち。かたや登山隊に随行する生物学者たちは、ひがな一日、実に楽しそうに高山帯の珍しい蝶を追いかけ回します。

極限状況下の人間模様は、逆説的に人それぞれの山の楽しみ方を教えてくれるのです。

思いやりとすれ違い

ヒマラヤの氷河で冷え切ったあとは、日本の里山を舞台にしたほんわかアニメーション2本立てで心を温めるのもいいでしょう。

『おこんじょうるり』(監督:岡本忠成/1982年)は、イタコの婆さまと、婆さまの家に居候するキツネのお話。

老いて能力が衰えてしまった婆さまでしたが、心優しいキツネの神通力を借りることで、それまで以上に人気のイタコとなります。ついにはお城に呼ばれてたんまりと褒美をもらうのですが…。

婆さまの着物に二人羽織する一人と一匹はまさに一心同体。イタコとキツネという立場を越えて心通わせる彼女たちの幸福な時間は、哀しいかな、永くは続きません。

『おこんじょうるり』(C)(株)桜映画社/(株)エコー

『劇場版ごん -GON, THE LITTLE FOX-』(監督:八代健志/2019年)も同じく、ひとりぼっちの人間とキツネの邂逅を描きます。

しかしこちらの場合は、孤独な一人と一匹の優しさはどこまでもすれ違い、なおさら哀しみが募ります。

名作童話「ごんぎつね」を、スタイリッシュかつオリジナリティあふれる映像表現で現代によみがえらせた傑作です。

『劇場版ごん -GON, THE LITTLE FOX-』

新旧傑作キツネアニメの2本立てに、心が温まるどころか目頭が熱くなること間違いなしです。大量の涙のあとには水分補給をお忘れなく。 

山と向き合う映画体験

映画の醍醐味のひとつが、見知らぬ他者とスクリーンを共有する体験にあると言われます。自宅でのDVD鑑賞に比べ、劇場の熱気が鑑賞体験の「強度」を増すのは多くの人が感じるところでしょう。

一方で、隣に座るのが友人であれ恋人であれ他人であれ、暗闇のなかであくまで個としてスクリーンに向き合えるというのも、映画館での映画鑑賞の魅力ではないでしょうか。

ましてやこれは山の映画祭です。

一日中ふかふかのイスに沈み込み、大きなスクリーンに向き合い、大きな山に埋もれ、自分の小ささを想う。それは決して家でも山でも味わえない、映画館ならではの贅沢な体験です。

会場となる映画館「フォーラム山形」

東京から新幹線で3時間弱。山形駅から劇場までは徒歩5分(タクシーならほぼワンメーター)。

晩秋を迎えた北国でひとり、安全で快適な「山ごもり」はいかがでしょうか。熊の食べ残した秋の実りと合わせてお楽しみください。

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遠藤徹 (えんどう・とおる)

1991年山形県生まれ。東京、プラハでの学生生活を経て、2017年より山形国際ドキュメンタリー映画祭スタッフ。週末は山か川か映画館で時間を過ごします。

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