文化系カップルの青春映画「花束みたいな恋をした」アラフォーのライターがひとりで観たら

僕は青春ノイローゼだ。とにかく「青春」と名のつくものに弱い。

それは、自分が思春期に当たり前の青春というものを経験できなかったことの裏返しでもあるのだが、それを差し引いても、やはり青春モノは美しいと思う(たとえそれが表面上は泥臭かったとしても)。

ある日、僕はYouTubeの画面を見ていた。そこに普段見慣れない恋愛系映画の予告編動画が突如差し込まれてきた。タイトルは『花束みたいな恋をした』。

主演は菅田将暉と有村架純。キュンキュンさせるセリフと映像とともに「人生最高の恋をした、奇跡のような5年間」というテロップが映し出される。僕は思った。

「この映画、み、観たい!」

しかし、さすがに40歳を超えたおっさんがひとりで観に行くような映画ではない。それくらいはいくら鈍感な僕でも察しがついた。映画館はカップルだらけだろう。

そこで、僕はFacebookで「誰か一緒に行ってくれる人いないかなあ」と投稿してみた。

サブカルの趣味が合うから恋人になった

ほどなくして、メッセンジャーからメッセージ着信の音がなった。「お!誰か女子が、僕と一緒に観たいとメッセージを送ってきてくれたのかなあ?よいよい、皆まで言うな。近うよれ」と開封したら、それは意外な人物からだった。

「ひとりを楽しむ」がコンセプトのウェブメディア、つまりこのDANROの亀松太郎編集長からだったのである。亀松さんは、単刀直入に切り込んできた。

「あえてひとりで観に行ってみませんか?」

血も涙もない編集長からの指令だった――。

2月1日の月曜日、午前9時29分。僕は渋谷のTOHOシネマズにいた。平日の朝、なるべくカップルがいなさそうな時間帯を選んだ。

案の定、カップルは多くない。圧倒的に多かったのは妙齢のひとり女性客。次に多かったのが、大学生と思われる男子の集団だ。僕のような男性ひとり客は少なかった。

映画は好調なのだろう。朝にもかかわらず、席はほぼ埋まっていた。ちなみに、休日の夕方に観に行った友人によると、ほとんどが若いカップルだったそうだ。

映画が始まった。はたして僕はキュンキュンできるのだろうか。簡単なあらすじを紹介しよう。

主人公の菅田将暉こと「麦」と、有村架純こと「絹」は、每日ヴィレッジヴァンガードに行ってそうな文化系大学生。ひょんなことから、ふたりとも終電を逃し、居酒屋で話し込むことに。語り合ううちに、音楽や文学、漫画などのサブカルチャーの趣味が異様に合うことが発覚。意気投合して、3回目のデートで付き合うことになる。

麦はイラストレーター志望で、就活をしないままフリーの道へ。絹も就活に苦戦して、フリーターとして大学を卒業。そのタイミングで同棲を始める。しかし、麦のイラスト仕事がうまくいかず、お金のために物流会社に勤めることになる。すると、しだいに麦と絹の価値観にスレ違いが生まれるようになって・・・

「人生最高の5年間」だったのか?

124分の映画を最後まで観た結論。これはひとりで観に行ったほうがいい映画ではないのだろうか。カップルで観に行くと、絶対に気まずいと思うんだが、どうだろう。

特に、将来クリエイターになりたいカップルが観に行くと悲惨だ。「私たちに限ってはこんなことはないよね?」と確認しあうも、100%そうとは言い切れないだろう。この映画をきっかけに「花束別れ」ということもありえるかもしれない。あるいは、夢を追いかける夫とそれを支える妻、という組み合わせの夫婦が観に行くと「花束離婚」もありそうだ。

僕自身、大学時代にサブカルチャーでとことん盛り上がった友人たちが、社会人になったとたん、本を読まなくなり、音楽も聴かなくなり、普通の人になっていくのをたくさん観てきた。その経験があるから、余計にこの物語が悲しく写った。

それが悪いとかいいとかじゃなくて、そういうもんだということを知っているだけに、余計に悲しかった。

この映画のキャッチコピーは、冒頭に紹介したように「人生最高の恋をした、奇跡のような5年間」だ。だが、はたしてこれは最高の5年間だったのか。

僕の個人的な意見だが、趣味だけで繋がったカップルは脆い。一度でも異性と深く付き合ったことがある人ならわかってくれると思うのだけれど、交際し続けるにあたって、趣味が合うということは、実はそんなに大したファクターではない。別に趣味が合わなくたって、深く愛することはできるのだ。

麦と絹は、お互いに相手の深いところまで向き合わず、心の底からぶつからずに、だらだらと表面で付き合ってしまったのではないか。

と、ひとりで観ていてこんなことを思った僕だが、「もう一度、この映画を観に行こう」と思っている。誰かとふたりで。そうしたら、また違ってみえるかもしれないから。

カップルでもない女性と一緒に行くとどう感じるのか、試してみたい。もしかしたら恋が芽生えるかもしれない。まあそれは冗談だとしても、『花束みたいな恋をした』が、誰かと親密になるくらい語りたくなる映画であることは間違いない。

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