「二人連れの会話は禁止」渋谷区初台の読書バー「文机(fuzkue)」の魅力

二人連れの客が来店しても会話してはいけないーー。そんな変わったルールを設けているカフェが東京の渋谷区初台にあります。店の名前は「fuzkue」。書き物や読書をするための「文机(ふづくえ)」にちなんでいます。

なぜ会話禁止ルールがあるかといえば、店主の阿久津隆さん(32)が「最高の読書環境」をつくることにこだわっているからです。ほかにも、「パソコンのタイピングは滞在中5~10分程度」「スマホの撮影は2パシャリまで」といった静けさを保つためのルールが設けられています。

読書好きな人がカフェで本を読もうと思っても、周りが騒がしかったり、長居するのが難しかったりして、ちょうどいい雰囲気の店を探すのは大変です。「ゆっくり本を読める場所があまりない」。そう感じていた阿久津さんは、自分で店を開くことにしたのです。

注文数に応じて「席料」が安くなる

fuzkueの料金は、他のカフェに比べると、決して安くありません。「お客さんの支払いは、一人あたり1600〜2500円が標準的です」(阿久津さん)。しかし、飲食の注文が増えると、それに応じて席料が少なくなるという独特のシステムをとっています。

店の隅のソファに座って取材に応じる阿久津隆さん

たとえば、コーヒーを1杯頼んだ場合、ドリンク代700円に加え、席料900円がかかるので、合計1600円。一方、コーヒー(700円)とチキンカレー(1000円)を注文すると、席料は300円と安くなり、合計2000円となります。食べ物を口にしながら、2、3時間ゆっくり本を読むのに適した料金体系になっているのです。

「カフェに長くいると、店に気を使ってもう一杯コーヒーを頼むということがあると思うんですが、それはカフェでの体験の質をちょっと下げるような気がします。そういうお客さんの気兼ねをできるだけなくしていきたいんですね」(阿久津さん)

読書に適した「ひとり向けの空間」

カフェに入ると、右側にカウンター席、左側にソファ席があります。どちらもひとりでのんびり読書をするのに向いた空間です。

店内の書棚には、約1000冊の本が置かれています。もともと阿久津さんが持っていた本。知り合いの家の本棚を覗いているようなわくわく感があります。ジャンルは海外文学や日本文学、また映画関連の本もあります。

阿久津さんの好きな作家を聞いてみると「日本だと保坂和志、海外ではロベルト・ボラーニョなどのラテンアメリカ文学の作家」とのこと。「どこか優しさのある小説が好き」だと語ります。

日中は適度に日差しの入ってくる空間

「お客さんが自分の好きな本を読んでいたら、声をかけたくなることがありませんか?」。そう質問すると、阿久津さんは「できるだけ話しかけないように我慢します。僕自身、ほかのお店で急に声をかけられると引いちゃうので」と笑います。お客それぞれの「ひとりの時間」を邪魔しないように配慮しています。

しかし、完全にひとりがいいわけでもないと考えている阿久津さん。「もしパーテーションで区切ったりしたら、孤絶に向かってしまう。適度な距離感で、人の気配を感じながら自分の時間を楽しんでほしいと思います」

かつて阿久津さんは、保険会社で営業を担当していました。何千万や何億という大きな金額を扱っていましたが、その数字の意味が実感としてよくわからなかったといいます。「いまは自分が提供した価値の対価として、お客さんからお金をもらう。そこがダイレクトにつながっていて、自分に合っています」と話していました。

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