「僕はどれだけ拍手に元気づけられてきたんだろう」コロナ禍で40周年をむかえたスターダスト☆レビュー

ああ、これがまさに「万雷の拍手」というものなのだなあ。私は9月25日、大阪・オリックス劇場の客席で大きな、大きな拍手を聴いていた。

1984年リリースの名曲「夢伝説」で衝撃を受け、時には甘く切なく、時には開放的に私の心を励ましてきてくれたスターダスト☆レビュー。ファンになってン十年経つが、ライブは本当に久々だ。

この日は結成40周年のライブ「年中模索 しばらくはコール&ノーレスポンスで」だった。「ノーレスポンスで」というタイトルは、どんな時もユーモアを大事にするスタレビらしい。

このご時世だから、声援を送れないのは仕方ない。でも、なにか音を出して感動を表現したい! 

そんな観客の気持ちは、総立ちのスタンディングオベーションとなって表れた。最後の一曲が終わったとき、一斉に聞こえる「ガタガタッ」と上がる椅子の音。そして、声の代わりに少しでもメンバーに届け、とばかりに鳴る拍手の洪水――。

大きく手を振るステージ上の6人。真ん中に立つボーカル・ギターの根本要さんは、溢れるものを抑えきれないようで、何度も何度も両手で顔を覆っていた。

コロナ禍での「ちょうどいい幸せ」の模索

多くのアーティストたちにとって、コロナ禍のライブ開催は、制限だらけ。まさに模索の日々。スタレビの40周年ツアーも、2回も延期を余儀なくされた。

デビューしてから毎年、50本から80本のライブツアーを敢行し「アルバムはツアーのために作る!」と豪語する、ライブ大好きなスタレビだからこそ、抱えた葛藤があったはずだ。

話を聞いてみたい。思い切って取材を申し込むと、なんとOKが出た。大阪ライブの次の日、空いている時間を使って、根本要さんが取材に応じてくれることになったのである。

ようやくお会いできた要さんは、歌っている姿と1ミリも変わらなかった。

クシャッとなる笑顔、弾むような語り口調も、ライブそのまんまだ。トークの間、どこで息継ぎをしているかサッパリわからない肺活量もさすがすぎる!

そんな要さんにコロナ禍での危機感について尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「ちょうど『年中模索』のアルバム制作の時期だったので、正直焦りはなかったですね。そのアルバムが去年の7月に出て10月からツアーの予定ではいたけど、コロナ禍で延期が相次いで。僕らは1年以上かけて全国ツアーやってるから、延期した分は後半に回して。ツアーが長くなるのは全然構わないんだよね」     

「年中模索」…2020年(令和2年)7月22日発売。1981年のデビューから40周年を迎えるスターダスト☆レビューの42thアルバム

むしろ、ツアーが長くなればずっとアルバムを楽しめるんだから嬉しいくらいだよ、と要さん。

去年の2月頃からはレコーディングに入っていて、メンバーと会うことができていたそう。

「その頃は、こんな未曽有の事態になるとは思っていなかったよね」

怖さを感じた人生の選択「二極化」の時期

コロナのせいで、2020年10月から始まるはずだったツアーが延期に。1月から観客数を半分に減らして開催しても、それに満たない会場がざらにあったという。

相次ぐ当日キャンセル。コロナ感染予防の意味からも、エンタメ業界全体が、有観客のライブや舞台開催について、厳しい選択を迫られることとなった。

当時を語る要さんの表情が、少し固くなる。

「緊急事態宣言下という特殊な状況だから、ライブを休む人、やりたくない人たちの気持ちもよくわかるんだ。

でも、動かないことには僕たちの音楽も今のこの気持ちも伝わらないし、大切なスタッフだって失うことになる。ライブ中心に活動している俺たちみたいなバンドは、本当に苦しい状態だったね。

だから、ライブを休むアーティストの声明を理解しつつも、コロナ禍のライブを完全否定しているようなことが書いてあったりすると、もうね、切ないよね。

ガイドラインに基づいて、感染防止対策や制限をしっかり守りつつ、やっているミュージシャンもいるぞ、と。でもそれさえ『なにやってんだ』と批判するムードもあって・・・」

だから、ライブを開催する時の共通認識は「細々と」だったよね……と苦笑する要さん。

「さだ(まさし)さんとお話ししたときも、音楽を求めてくれる人もいるし、それで生活を支えている人もいるんだよ、と。音楽は必要とされた時、とても大きな力を発揮する。だから、やる、やらないのどちらかではなくて、両方の存在を認められる世の中じゃないといけないと思うんだ、もちろんしっかり感染対策したうえでね」

スタレビの新作アルバム「年中模索」に収録された「人生のセンタク」には、「ひとつしかなきゃ なにも選べない」というフレーズがある。

世の中が極端な意見に真っ二つに分かれたコロナ禍。目の前に多くの選択があるにもかかわらず、それらが否定されるのは、本当にもどかしかっただろう。

音楽は必要とされた時、とても大きな力を発揮する

「またお客さんたちが来られる状況がきたら、そのときしっかり対応できる僕たちでいたい。そのためにも、ライブを続けてやるからには、信念と覚悟を持ってやらなきゃな、と思ってる。

僕は、音楽は聴く人によっては最高の心の良薬だと信じてる。だからライブでは、環境としては1対1ではないけれど、来てくれている人、ひとりひとりに伝えるつもりで演奏している。そこから生まれた感動を全員で共有できる幸せってあるよね。

人が喜んだり感動したりするのを見ると、すごい幸せじゃないですか。だから僕らの音楽は、心の中ではいつも1対1なのね。結成当時から、それはどんな会場でもずっと同じ。それがスタレビだから」

ライブ会場で販売されていたマスク。コロナ禍でのライブを象徴するグッズだろう

そう語る要さんのもとには、スタレビのファンからもこんなメールが届いたという。

「久しぶりのライブが楽しくて、帰った後、娘に顔がやさしくなったよと言われました。楽しいことまですべて自粛の毎日、コロナで家族に対して『ダメ』ばっかり言ってたんじゃないか、と気づきました」

ファンの言葉は要さんにも発見をもたらした。

「人間って、言葉でコミュニケーションをして距離を縮めてきたはずなのに、それをことごとく禁じられてきたのがコロナ禍だった。心にまでマスクをしてしまう状況だったんじゃないか、と僕自身も、それを読んで気づかされたよね」

「メシでも食おうよ」と軽く誘い合えない時代

コロナで思うようにライブができない中、音楽業界で浸透していった新たな発信方法が「ネット配信ライブ」だ。コロナ前までは配信や動画に「あまりリアリティを感じなかった」というスタ☆レビもこれを活用し、彼らの個性と思いを詰め込んで、様々な試みを続けている。

2020年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発令され、世の中が外出自粛で閉鎖的なムードに落ち込んだときには、元気を届けようと「自粛大作戦!」動画をアップした。

「自粛期間だから、メンバーが1カ所に集まることができないし、オンラインで合わせると音がズレちゃうんです。だから僕が自宅で歌った映像をみんなに送って、メンバーもそれに合わせてそれぞれ自宅で撮るという方法を取ったら、思いのほか上手くできましたね。評判も良かったんですよ。

余談ですけど、コロナの時期で僕は太って腹が出ちゃって、それを隠すために添田(サポートメンバーでキーボードの添田啓二さん)の映像を少しずらしてます(笑)」

なるほど、お腹、見事に隠れてます(笑)。現在の閲覧数、なんと約50万回。何度聴いても最高の「シュガーはお年頃」です。

コロナの第3波がやってきた2020年の冬には、月1回のペースで「スタ☆レビ2020配信始めました」を配信。これは今年11月、DVD・ブルーレイにまとめて発売される。

「通常のライブDVDは会場にいるお客様のために演奏しているので、DVDで見る人は何となく傍観者という感じでしょう。

でも、無観客の配信ライブは、画面を見ている『あなた』のために歌い、話しかけ、演奏しているんです。あなたのために企画したスペシャルなライブなんですよ」

「あなたのお家でディナーショー」という動画は、家にいながらディナーショーに行った気分になれる。

コロナとは関係なく、クリスマスに誰かと過ごす予定がなく、ひとりでレストランに入る勇気もない「小心ぼっち族」にとっては、たまらない動画となりそうだ。かくいう私もその1人である。

また、MCがベテラン漫談レベルに面白いスターダストレビューは、副音声も聴きどころ。要さん曰く、「僕は日本唯一の副音声家ですから!」

拍手のパワーを再確認した配信ライブ。やっぱり会いたいよ

「ただね、配信って、終わった後の充実感がないんですよ。お客さんの拍手がないって、こんなにやり甲斐がないのかと。いつもは拍手をもらって、句読点がつくんだよね。それがない不思議。押し返してくれる力がないの」

要さんがしみじみと口にした。

「それなら疑似拍手を入れればいいかといえば、そんなもんじゃない。拍手は、その人たちのエネルギーが出てくるから尊いんだよ」

ライブでの音楽は「作り手と受け手による夢のようなコミュニケーション」なのだと、要さんは強調する。

「今回のツアーに『コール&ノーレスポンスで』とタイトルをつけたけど、全然ノーレスポンスじゃなかった。拍手とすごいエネルギーを感じた最高のコール&レスポンスだった! 改めて、僕はどれだけ、拍手やお客さんに元気づけられていたんだろう、と気づいたよね」

そんなコロナ禍での会えないもどかしさ、会いたい気持ちを書き下したのが「やっぱり会いたいよ」だ。NHK「ラジオ深夜便」10月、11月の楽曲となっている。

スターダスト☆レビュー40周年ライブツアー「年中模索」〜しばらくは、コール&ノーレスポンスで〜中野サンプラザホールダイジェスト映像

私は、9月25日の大阪のライブ会場で見たある光景が忘れられない。斜め前に立っていた男性ファンの姿だ。

パッと見40歳くらいだろうか。右の腕を涙をふくのに使い、左手で太腿を叩いて拍手の替わりにしていたのだ。中高年の男性が泣く姿を久々に見て、この人はこの公演をずっと待っていたのだろう、と私まで胸が熱くなった。

今はいろんな気持ちや事情があって、ライブに来られない人もまだまだ多い。できるだけ早く、なんの気がねもなく集まれる日が来てほしい、と願わずにはいられない。

スターダスト☆レビューは、ライブという約束の地で、ずっと待っていてくれる。

今も「年中模索」ツアーは、万全の感染対策をしながら日本中を巡回中だ。

幸せになる音楽のオマジナイを唱えながら――。

根本要さんおすすめの「ぼっち曲」

最後に、スタレビ楽曲でおすすめの「ぼっち曲」とひとり時間の過ごし方を要さんに教えてもらった。

2015年、アルバム「SHOUT」からシングルカットされた「おぼろづき」。CDが月のデザインになっている。

「ひとりの時間って、頭の中で遊ぶというか『妄想』を楽しめると思うんだ。ウチの曲で言えば、想像の世界が広がる曲という意味で、『おぼろづき』がいいかな。好きな心を伝えられないもどかしさや、想いが届かない切なさ。それでも好きな人の幸せを願う気持ち。その後ろにお月さんが出てる……。いろんなストーリーを考えられる一曲だと思います。

僕のひとり時間の過ごし方も妄想タイムですよ。ギター大好きなんで、ギターヒーローに変身! 観客クギヅケのスーパープレイを連発している妄想をしてね、ギュイーンと」

ご本人は「妄想」と言っていますが、それ、ライブの要さんそのままです!

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田中稲 (たなか・いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人ではアイドル、昭和歌謡・ドラマ、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。気が小さくて毎日がサプライズの連続。妄想力と不器用さで空回りしまくる日々を送る。

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