50を過ぎた今も「My Revolution」に奮い立つ。永遠に続く私革命(いつも心にぼっち曲 1)

(イラスト・田中稲)

My Revolution

1986年(昭和61年)1月22日発売、渡辺美里4枚目のシングル。作詞川村真澄、作曲小室哲哉。小室哲哉がリーダーをつとめるユニットTM NETWORKの「Get wild」で大ブレイクするのはこの翌年。

私の人生、半世紀を過ぎた。テレビを見ていたら「ジェニファー・ロペスさん51歳とは思えないボディを披露」というニュースが流れ、まさかの同い年にビックリである。

ジェニファー・ロペスほどではないが、私もそれなりに紆余曲折を越え51年。とりあえず、いつも横に音楽があった。友に背を向けられたときも、恋人に去られたときも、家族にイラついたときも、「再生」ボタン一つで「いいじゃん、私がいるじゃん」と寄り添ってくれる音楽。

特に、交流は面倒だが1人は寂しいとき、枯れ切ったワガママmyハートを潤してくれる「ぼっち曲」のありがたさよ!

使い古したCDラジカセの前に体育座りをし、歌詞カードを見つめメロディーに体を揺らし、楽曲の海に一人ブクブクと潜っていく。これぞ究極の癒し「ぼっち聴き」タイムだ。

さあさあ選曲はどうする、メンタルと要相談だ。かといって慎重になり過ぎない方がいい。

「ちっくしょー誰とも気持ちが通じる気がしない!」と心のシャッター閉店ガラガラ状態なときほど意外に、普段は受け付けないような曲が沁みたりもするからだ。「大好きな曲とぼっち曲はまた別」なのである。

仰天した「My Revolution」というレボリューション

さて、今回語りたいぼっち曲は、渡辺美里の「My Revolution」である。

渡辺美里の生歌唱を初めて聴いたときの衝撃は忘れない。確か「ザ・ベストテン」だったはず。「渡辺美里」という存在のバランスにまずビックリした。

瞳キラッキラのアイドル的なルックス。ところが歌い出すと、ハスキーで一音たりとも外さない堂々とした歌唱力。そのギャップよ……! 

そもそもこの声と歌いっぷり、アイドル枠に入れていいの? でもカワイイしなあ。「ロックバンドのボーカルがソロで出ています感」とも微妙に違うしなあ。私は戸惑った。

 

さらに歌の内容である。まず歌の主人公の性別がわからない。そしてその歌の主人公は、浮かれてもヤサぐれてもいない。全体的に「俯瞰でモノを見ている」感がすごいのである。

当時アイドル曲といえば、恋をしてキャッキャしているかフラレて落ち込んでいるか、大人に反抗、もしくは絶望しているか、早く大人になりたくて無理に背伸びしているか、異性を意識しているパターンがほとんどだった。

ちなみに、「My Revolution」がヒットした1986年、彼女と同世代の女性シンガーのヒット曲といえば「ダンシング・ヒーロー[Eat You Up]」荻野目洋子、「1986年のマリリン」本田美奈子、「ツイてるね、ノッてるね」中山美穂など。

おニャン子クラブも大人気で、ソロやらユニットやら形状を変え、音楽シーンをジワジワと浸食していたころである。

おニャン子クラブはグループの形としては新しかったが、楽曲的には70年代のアイドル歌謡の王道をガッツリと継承。幼い声と音程で「ロマンティックな恋、未成年の純情とエロス」を歌っていた。

そんななか「好きな人」ではなく「夢」を抱きしめたい、と太い声で伸びやかに歌う渡辺美里は新鮮で、本当に眩しかった。

小学校の思い出「しーちゃんレボリューション」

この渡辺美里への憧れに似た感覚、私は遠い昔にも覚えがある。そりゃもう遠い昔も遠い昔、小学生高学年のときだ。

同じクラスに「しーちゃん」という、とても頭のいい女の子がいた。あるときレクリエーション会をすることになり、みんな仲良しの友達に「一緒にやろう」と声をかけ、出し物を考えていた。

が、しーちゃんは違った。当日、

「一人でマジックをします。鉛筆を曲げます」

と教壇の前に進み、全員が注目する中、片手で鉛筆をユラユラと動かし、鉛筆がグニャグニャと曲がって見える錯覚マジックを披露したのである。

(イラスト・田中稲)

「うわホンマや! しーちゃん超能力者や!」。ド田舎の小学校だったので、こんなマジックを誰も観たことはなく、教室は拍手喝采。

私も鉛筆グニャグニャに驚いたが、何より驚いたのは、一人で出し物をする決断をしたしーちゃんの心意気である。

小学生といえば「友達と一緒でなければ」という思い込みが蔓延している時期。彼女は人気者だったし、誰かと組むこともできたはずである。が、周りの空気など気にせず軽やかに一人で芸を決め、しかも拍手を受けるしーちゃん。

む、むちゃくちゃカッコいい……!

考えてみれば、私が生まれて初めて見た「自立のレボリューション」は、あのしーちゃんの鉛筆ユラユラ芸だった。

しーちゃん、お元気だろうか。きっとステキな女性になっている。

マイ人生いまだレボリューションの途中

思わず遠い日のサンセットメモリーに浸ってしまった。渡辺美里に話を戻そう。

「My Revolution」は、何かあるたびによく歌った。部屋でも、カラオケでも。意外に歌いやすいというのもあるが、ひとり大きな夢に向かっていく勇者のような気分になるのである。

ホントの悲しみなんて自分ひとりで癒すものなんだよ。さあ、ひとりで癒そう。夢を追おう。レッツ・シンガソン!

が、歌うはやすし、現実に叶えるのは難しいマイレボリューション……。

私は何度も自立をしようとしては失敗をし、スイートペインを味わい、マイティアーズを抱きしめ、結局今も10代の頃と変わらないテンションで空回りし、明日を乱している真最中だ。

だから「My Revolution」は、勇気をもらうと同時にコンプレックスを含んだ、切ない1曲にもなっている。美里の声、川村真澄氏の詞、そして小室哲哉氏の甘酸っぱいメロディー一つ一つが眩しくて、聴くたび

「まだ間に合いますでしょうか、間に合うよね、私の革命―ッ!」

と叫び、走り出したくなるのだ。

51歳、まだまだヒヨッコ、夢の途中である。 

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田中稲 (たなか・いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人ではアイドル、昭和歌謡・ドラマ、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。気が小さくて毎日がサプライズの連続。妄想力と不器用さで空回りしまくる日々を送る。

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