ひきこもり先生の「心の音」が降ってくる…haruka nakamuraのポロン、ポロロン(いつも心にぼっち曲 5)

ひきこもり先生

2021年6月12日から毎週土曜 21時00分NHK総合「土曜ドラマ」枠で放送。全5回(予定)。原案:菱田信也、脚本:梶本惠美、主演:佐藤二朗、音楽:haruka nakamura

ひとりの時間はとても楽しい。自由だ。自分のペースで好きなことができる。バンザイ! 

ただ、自由を楽しむには気力が必要なのも事実。その気になれば、いつでも社会や人間の輪の中にも入れる、そんな余裕があってこそ。「わけもわからずひとり」はひたすら不安だ。

私はその状態を中学2年生のころ体験した。病気をきっかけに、友だちとの距離感が変わってしまったのだ。常に頭がボンヤリ重く、話す気力、聞く気力も湧かない。自然と無口になり、孤立し、成績もガタ落ちした。

なにかの勢いでスポーンと銀河系から飛ばされて行ってしまったかのような、謎の恐怖感。クラスメイトはマボロシみたい。いつも教室にいながら教室にいないような居心地悪さと虚しさを卒業まで持て余しまくった。本当にトホホな思春期であった。

6月12日から始まった「ひきこもり先生」(NHK総合)は、観ていてその苦い体験をほんのりと思い出す。が、同時にやわらかい気分にもなる不思議。

11年間のひきこもり生活を経験した主人公・上嶋陽平。彼がひょんなことから公立中学校の非常勤講師となり、特別クラス「STEPルーム」で、不登校の中学生たちと交流する様子が描かれている。

静かな静かな居場所のない苦しみと、それにそっと寄り添い、ひたすら聞こうとするやさしさ。それが、ピアノやフィドル、ドラムなどのシンプルな音に乗り、目の前に落ちてくるようなドラマだ。

着地点が分からなくなった人たちの孤独

私が「ひきこもり先生」を観て痛感するのは、「家にひきこもっていると言っても、自分の部屋が逃げ場、というわけではない」ということだ。

第4回「戦場」では、不登校生徒に寄り添う上嶋先生(佐藤二朗)自身が、あるきっかけで再び部屋にひきこもってしまうのだが、そのシーンが壮絶だった。外に出ようとすると吐く。部屋にいながら部屋にいるのも苦しくて、叫び、のたうち回るのだ。

特別クラス「STEPルーム」の生徒たちも、学校に「行かない」のではなく、いろんな事情で「行けない」。心を閉ざして自分の世界に逃げ込めればまだラクだけど、自分の世界を作る大事な思春期に、様々な要因でそれを否定されてしまっている。

着地点を見失い、オロオロ心が彷徨う気持ちの悪い浮遊感。その間も、大切な人が自分を心配し、苦しんでいる気配は感じる。テトリスの棒が落ちてくるように、罪悪感が上からどんどん乗っかっていく……。

そんな苦しみが描かれているのに、毎回観終った後、穏やかな余韻があるのが、このドラマのすごいところだ。

上嶋先生を演じる佐藤二朗さんの、絵本に出てくるカバさんのようなキャラクターが、ホッと安心感をくれる。彼が大好きな生徒の顔、そして植物を見て笑顔になるシーンが一つ挟まるだけで、ふんわりとやさしい風が吹く。

心の音を楽器で出したら、こうなるのかも

「ひきこもり先生」の〝ふんわりとした不思議な救い〟の源となっているもう一つが、haruka nakamuraさんの音楽である。

印象的なメロディーがドラマチックに入るわけではない。ポロロン、ポロロン、キラン、ポロロロン……とピアノの音色を中心にした短いフレーズが、星のように散らばっているイメージ。

ひきこもり先生の登場人物は全員、自分の気持ちを表現するのが苦手だ。でも、心の中でいっぱいいろんなことを思っている。それが音になって漏れ出ているような「ポロロン」なのである。

私が身を乗り出したのは、上嶋先生のひきこもり仲間の青年、ヨーダのシーンだ。

ヨーダには密かに心を寄せるコンビニ店員がいる。ある日、彼女のシフトを確認し、買い物をする。ひきこもり歴21年の彼にとっては、これだけでも清水の舞台から飛び降りるほどの勇気がいったはず!

無事買い物が済み、お釣りを手に渡してもらい、嬉しくて嬉しくて仕方ないヨーダ。帰り道を自転車で疾走するシーンの音楽の煌めきよ! キラキラと音が線香花火のように発光していた。

孤独から一瞬抜けて、心に光が差したときって、本当ににこんな音がするのかもと思った。

すごいなあ。音楽ってすごい。いや、「音」ってすごい! 

haruka nakamuraのソロアルバム「スティルライフ」(2020年)

「雨音はショパンの調べ」のタイトルの凄さ

そもそもピアノの音は昔から好きなのだ。バリア張りまくりの心のデリケートゾーンにもアッサリ侵入してくるから、ある意味危険ではあるのだけれど。

鍵盤特有の「ポロン」という音がこんなに沁みるのは、「ひとりぼっち」の「ぼっち」の音の感じと同じで、水滴が落ちる音っぽいからだと勝手に思っている。雨や涙が浮かぶのだ。

1984年にヒットした「雨音はショパンの調べ」という曲があったが、このタイトルはまさにそれで、本当にうまいなあと思った。

この歌は実はカバー曲で、イタリアの男性歌手・ガゼボが歌う原曲のタイトルは「アイ・ライク・ショパン / I Like Chopin」。これを「雨音はショパンの調べ」と日本語訳した人すごくない!? 

調べたら松任谷由実さんでした……。さすがすぎるよ、ユーミン!

雨音はショパンの調べ(松任谷由実バージョン)

日常は美しい音に溢れている。雨が落ちる音。花が咲く音(蓮の花が咲くときは「ポンッ」という音がするらしい)。

じっと耳をすませば、心の音も聞こえてくるかもしれない。

そんな風に思わせてくれる、haruka nakamuraさんの音楽。

名作ドラマは、いろんな出会いと幸せをくれる。

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田中稲 (たなか・いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人ではアイドル、昭和歌謡・ドラマ、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。気が小さくて毎日がサプライズの連続。妄想力と不器用さで空回りしまくる日々を送る。

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