コロナで変化した喫茶店の「モーニング」お昼すぎにひとりで味わう

筆者が暮らす愛知県は、「喫茶王国」と呼ばれるほど喫茶店の数が多い。スタバやドトールなどのカフェチェーンは都心部にしかなく、郊外では今でも個人経営の喫茶店が幅をきかせている。

大手チェーンと対等、いや、その進出を許さないのは、以前の記事で紹介したイタリアンスパゲッティなどのフードメニューの充実や、朝の来店時に提供される豪華なモーニングが理由として挙げられる。

モーニングとは、朝の時間帯にコーヒー一杯かそれよりやや高い値段で、トーストやゆで卵などのフードも合わせて提供するサービスのこと。喫茶店のモーニングは、愛知県西部に位置する一宮市が発祥の地とされている。

「モーニングで町おこし」もコロナで苦境に

「一宮モーニング」公式サイトには市内のモーニングの情報が満載

一宮市では、500棟以上の喫茶店が軒を連ね、それぞれのモーニングを競い合っている。

もともと繊維業が盛んな街で、最盛期の昭和30年代には、繊維業を営む人々が打ち合わせや商談のため、昼夜を問わず喫茶店を訪れていた。工場内は機織機の音がうるさい上に埃っぽいので、喫茶店を応接間代わりに利用していたのだ。

そんな常連客に向けた朝のサービスとして、一宮の喫茶店はコーヒーにゆで卵とピーナツをつけた。それがモーニングのはじまりとされる。その後、繊維業は衰退していったが、モーニングの勢いは止まらなかった。

「モーニング発祥の地」という看板を生かそうと、一宮の商工会議所は10年以上前から、市や教育機関などとともにモーニングで町おこしに取り組んでいる。それが実を結び、週末は市外から多くの人々が喫茶店を訪れて、モーニングを楽しむようになった。

8万円の支援金は、新型コロナの感染防止対策実施中のPRステッカーとポスターを掲示している店が対象

ところが昨年、ピンチが訪れる。新型コロナウイルスの感染拡大により、モーニングに関連するほとんどのイベントは軒並み中止となり、市外から訪れる客も激減した。

しかも、一宮の喫茶店の多くは、愛知県の感染防止対策協力金(1日6万円)がもらえなかった。なぜなら、もともと朝早くオープンして夕方にクローズする店が多く、緊急事態宣言に伴う営業時間の短縮要請の対象外だったからだ。

そんな中、一宮市は独自の施策として、昼営業の喫茶店に8万円の支援金を支給すると発表した。ただし、1日あたりの金額ではなく、1店舗につき1回の支給なので、夜営業の飲食店と比べものにならないほど安い。まぁ、支給されないよりはよっぽどマシだが。

一宮市もモーニング発祥の地として「文化を守る」という姿勢を全国にPRすることができたと思う。

一宮の喫茶店で「ひとりモーニング」を楽しむ

コロナで苦境に陥っている喫茶店にとって、金銭面の支援は重要だ。とはいえ、喫茶文化はお客が店に足を運ぶからこそ成り立つ。50歳を過ぎてから、ひとりで喫茶店へ赴くようになった筆者にとっても、街から喫茶店がなくなってしまうのは耐え難い。

そんなことを考えていたら、一宮の喫茶店でモーニングを食べながら、まったりと過ごしてみたくなった。

『COCORO CAFÉ』外観。大半の客は車で来店するため、駐車場は30台が完備

訪れたのは、筆者の自宅からほど近い一宮市千秋町にある『COCORO CAFÉ』。これまで雑誌やWebメディアの取材で何度かお世話になっている店だ。

マスターの中村有吾さんと奥様の正枝さん

店内に入ると、マスターの中村有吾さんと奥様の正枝さんが迎えてくれた。『COCORO CAFÉ』がオープンしたのは、2008年のことだ。

「もともと喫茶店が好きで、骨折して車椅子生活を送っていた祖母と一緒にモーニングをよく食べに行っていました。ところが、バリアフリーの店がなくて困ったことが多々ありました。それなら自分でやってみようかと」と、中村さん。

「モー1(ワン)グランプリ」などイベントの受賞トロフィー

レジの付近には、一宮商工会議所が手がけたモーニングのナンバーワンを決定する「モー1(ワン)グランプリ」の受賞トロフィーがズラリ。地元でも知られた存在なのだ。

モーニングは、ドリンク代(コーヒーは390円)のみでトーストやサンドウィッチも食べられる「日替わりモーニング」と、もっと豪華な「スペシャルモーニング」(600円〜)がある。

スペシャルモーニングは、パンでできた器に入ったハヤシライスやクリームシチューライスをメインに、サラダとデザートが付くもので、7種類を用意している。

スペシャルモーニング(ハヤシ)

ここはやはり、豪華な「スペシャルモーニング」だろう。その中から「ハヤシ」(600円)を注文すると、10分も経たないうちに目の前に運ばれた。

玉ネギの甘みが際立っている

メインのハヤシライスがこれ。じっくりと煮込まれていて、豚肉や野菜はトロトロの食感。

筆者はハヤシライスを家であまり作らないこともあって、食べるのはかなり久しぶりだ。洋食店のような昔懐かしい味わいというよりも、家庭の味をブラッシュアップさせた感じ。

ハヤシライスの素朴な味わいに心が和む

ハヤシソースの下にはご飯も入っている。量は茶碗の半分くらいだろうか。さすがにご飯との相性はすこぶる良く、あっという間に平げた。正直、もう少し食べたいと思った。

しかし、よくよく考えてみると……。

ハヤシライスを完食後、パンでできた器を食す

器そのものが食べられるのである。手で小さくちぎって口の中に入れてみる。うん、ハヤシソースが染みていた部分が旨い。

ボリューム満点のサラダ

おっと、ハヤシライスに夢中になりすぎて、サラダの存在を忘れていた。ご覧の通り、キャベツがてんこ盛り。これも食べ応えがありそうだ。ちょこんと添えられたポテトサラダとゼリーも嬉しい。

食後のコーヒー。深煎りでコクを感じる

サラダを摘みながら器のパンを食べ終えたころ、満腹になった。これはモーニングというよりも、ランチのボリュームである。お腹をさすりながら、コーヒーを飲みながらまったりと過ごす。うん、これぞモーニングの醍醐味。

ん? 食べたのはモーニングだけど、時間帯はすでにお昼を過ぎている(笑)。そもそも店に到着したのが、13時半過ぎだった。

えっ、モーニング目当てなのに、お昼に行っても大丈夫なのかって? 本来、モーニングはその名の通り、朝の時間帯に提供されるものだ。しかし『COCORO CAFÉ』は、コロナ禍でモーニングの提供時間を見直したという。 

昨年6月から、日替わりモーニングは朝6時〜昼2時まで、私が食べたスペシャルモーニングは朝6時〜夕方4時までと、提供時間を変更した。店自体は夕方5時までの営業なので、営業時間内はほぼモーニングが楽しめるのだ。

『COCORO CAFÉ』の店内はバリアフリー。車椅子で来店することを考えて席の間隔を広くしている

マスターの中村さんによると、「密を避けるため」というのが理由の一つだそうだ。

「もともとお昼12時まででしたが、11時半頃が混雑のピークなんですね。コロナ禍ということで、密にならないようにモーニングの時間帯を延長しました。以前はランチもやっていましたが、今はモーニングだけで勝負しています」

昼にモーニングを食べるというのは違和感を覚えるものの、提供時間が延長されるのは、客としては嬉しい限り。と、いうか、これがスタンダードになってほしい(笑)

この記事をシェアする

「ひとり飯」の記事

DANROクラブ

DANROのオーサーやファン、サポーターが集まる
オンラインのコミュニティです。

もっと見る