「クリぼっち」も寂しくない! コロナで様変わり「クリスマス」のフードビジネス

今年のクリスマスは「おうちで」が主流(写真はローソンの「Uchi Cafe」シリーズのケーキ)

冬至を過ぎれば、クリスマス、お正月とイベントがめじろ押し。フードビジネスも稼ぎどきです。が、今年の年末年始は例年とがらり変わって、「出かけない」「帰省しない」で過ごすことが主流となりそうです。

実際、楽天インサイトがアンケート調査した「クリスマスの過ごし方」をみると、「パートナーや恋人と過ごす」という回答が6割超えで、昨年の数字を4.6ポイント上回っています。その過ごし方については「(パートナーも含めて)家族とクリスマスランチやディナーを食べる」という回答が4割を占め、多数派となっています。

外食チェーンも「自粛モード」のクリスマス

カレンダーを見ても、クリスマスイブの12月24日が木曜日で、前後も平日となっています。すこし盛り上がりに欠ける曜日並びで、街に出てワイワイ楽しむようなムードではありません。

そこで、コンビニや外食チェーンは、いち早く「おうちクリスマス」を謳い、それに対応する商品をそろえています。

ローソンの「おうちクリスマス」の商品

ケンタッキーフライドチキンは昨年、あいだに週末をガッツリ挟んだクリスマスウイークの6日間で、71億円を売り上げました。様相が違う今年は、事前の予約を徹底。24日と25日の2日間は、店内飲食と例年恒例の店頭販売を止めて、「持ち帰り」のみに対応することにしています。

一方、昨年は「クリスマス、ぼっちでよくない?」と、おひとり様向けの「ぼっちバーレる SET」を大々的に販売したバーガーキング。今年はクリスマス時期のキャンペーンは実施せず、年末年始のキャンペーンを用意している、と同社の開発担当者から聞いています。

バーガーキングが昨年発売した「ぼっちバーレる」

バーガーキングが昨年呼びかけた「自分らしいクリスマスを過ごそう」というメッセージ。それを見て、「クリスマスは家族やパートナーと過ごすべきという同調圧力があるなか、よく言った!」と感心したものでした。

でも今年は、カップルや家族で過ごす人々も、ホテルやレストランという公共空間で派手に騒ぐわけではないので、「クリぼっち」が漂わせる寂寥感と潔さも、自粛モードの地味な夜にうずもれてしまうでしょう。

おせちは「個人それぞれ好きなもの」スタイルへ

クリスマスが終われば、お正月がすぐにやってきます。新年に「家族で食卓を囲む」機会を捉えて稼ごうとするのが、おせちビジネス。その市場は、600億円とも言われる巨大規模です。

ここ20年くらいで、おせちは「作るものから買ってくるもの」へと変わりました。さらに、いまのおせちは「食べるものより飾るもの」感が強くなっています。

クリスマス同様、こちらも「帰省しない」「旅行に行かない」という巣ごもり正月を背景に、需要が伸びています。おせち業界全体で、昨年に比べ、予約数はおよそ2ケタ増。おせちを製造するある企業によると「すでに予約分だけで、前年の2割近い売上を得ている」とのこと。

しかしながら、例年あちこち動く人たちが「動かなくなっている」割には、その伸び率は少ないとも指摘されています。

たしかに、昨年は約3000万人もいた国内外への旅行者の大半が今年は動かないのですから、おせち自体への需要もある一定層のところでとどまっているのかもしません。今までおせちに触れていなかった若い世代などが、これを機に、正月におせちを食べる習慣をつけることは考えにくいと、業界内でも言われています。

おせちは特別な食材を使うので、仮に注文が増えても、もともと予定している量以上は作れないという事情もあるそうですが、その点を割り引いても、おせちニーズの弱まりが感じられます。特に、家族みんなで囲む「大人数用おせち」の需要が減ってきているようです。

おせち販売の関西の老舗の一つである阪急百貨店のカタログをみると、「おせち」は400アイテムに近い品ぞろえ。大人数おせちがダウン傾向の一方で、赤丸急上昇で伸びているカテゴリーがあります。

阪急百貨店の「おせちカタログ」。様々な種類がある「一人前おせち」のページ

それは「一人前おせち」と「銘銘おせち」です。一人前おせちはその名の通り、1段きり一人前分のおせち。和洋18種が品揃えされ、それぞれ食べたいものを1膳ずつ選んで買えるようになっているタイプです。例えば、家族一人ずつそれぞれ好きなお膳を選んで購入することができます。

阪急百貨店の「おせちカタログ」。人気上昇中の「銘銘おせち」のページ

一方、このカタログの中でも同店が名付け、ここ数年伸びている「銘銘おせち」は、同じお膳が2段、3段、4段になっているもの。1人1段ずつお膳を食べる形式で、家族が個々のお膳を食べるだけでなく、来客用に都合がいいと考えられています。こちらは、昨年の倍くらいの予約がはいっているようです。

家族で囲む食事の「最後の砦」とも言えるおせち料理ですが、それも「好きなものを個食で」というスタイルが確立されつつあります。「個食」という言葉は、いろいろなニュアンスで使われますが、昨今のおせちでは「家族で食卓を囲んでいても、食べる料理は個人それぞれ」という意味の個食が、強く意識されているのです。

ローソンは「おひとりさま用おせち」を販売

先日、ある外食経営者からこんな話を聞きました。

「今後、コロナで外食のスタイルも変わる。それは当たり前ながら、そもそも従来の飲食店で、顧客一人一人が満足できていなかったのではないか。例えば、グループでの食事のとき、アルコールを飲む人と飲まない人の不公平があったり、焼き鳥1串をどう分けるかで悩んだり。個人それぞれのニーズや好みに適応できていなかったのではないか」

2021年のキーワードは「個食」かもしれません。食卓は同じでも、食べるものや食べ方はそれぞれに、というスタイルがますます進んでいくように思うからです。

個人的には、食べるものはなんでもいいから、多人数で顔を見合わせながら、ワイワイ食べたり飲んだりできる日が早く戻ってくることを期待しています。皆さん、佳い年をお迎えください。

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道畑富美 (みちはた・ふみ)

フードビジネス・コーディネーター。兵庫県神戸市出身。京都大学農学部修士課程修了後
、外食企業に入社。商品開発、経営企画を経て、独立。国内外の「食」の現場を精力的に巡りながら、フードビジネスのコンサルティングに関わる。Foodbiz-net.com 代表。

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