見知らぬ人との出会いに期待「オンラインひとり酒」

コロナの影響で、家飲みが増えています。酒飲料卸「カクヤス」の四半期報告によると、今年4〜6月の売上の構成比は業務用38%、宅配・店頭売り(ほぼ消費者向け)62%となっています。コロナ前の売上構成比は業務用7割、宅配・店頭売り3割だったので、完全に逆転しています。

酒類の課税を管轄する国税庁のデータでは、業務用のウィスキーなどは減少。一方、サワーやチューハイなどの出荷は伸びていることから、飲食店などで飲めなくなった分を家で飲むという状況が見てとれます。

友人とのオンライン飲み会の楽しさと難しさ

家で飲むといっても、現在の我が家は夫とふたり。それほど会話もないしなぁというところで、気の合う友人とのオンライン飲み会は、なんどか経験しました。

でも、「Zoom飲み」が話題になった春先は活発にやってみたものの、切り上げるタイミングが難しく、ダラダラ時間を消費するだけに思えました。実はちょっとしんどくて、友人同士でのオンライン飲み会はやめてしまいました。感染状況が一時的に良くなり、リアルで会う機会が増えたからかもしれません。

ホットペッパーグルメ外食総研の調査では、オンライン飲み会のメリットとして、「なかなか会えない遠距離にいる相手と話せること」や「気楽に参加できること」が挙がっていますが、逆に、半数以上の人が「終わり方が難しい」と回答しています。

たしかに友人と飲むのは楽しいですが、飲み屋のカウンターに座って店主と会話したり、立ち飲み居酒屋で見知らぬ人と他愛ないやり取りを交わしたりするのも、酒場に惹きつけられる魅力です。

「そんなオンライン飲み会はないかな~」と探していると、私の故郷・神戸で酒のおつまみを400種類ほど開発・販売している食品メーカー「伍魚福」が主催するオンラインバーに出会いました。

社長の山中勧氏によれば、「同じ肴を食べながらオンライン飲みをすることで、そこから会話も生まれるだろう」という狙いです。

試しに参加したオンラインバーは、山中氏のつながりで集まった人ばかり。参加者同士は初対面という飲み会でしたが、なかなか盛り上がりました。振り返ると、ディスプレイの前で「ひとり酒」。友人との飲み会よりも気楽かも、と気づきました。

地酒を飲みながら酒蔵の人々と交流する「オンラインツアー」

次に参加したのは、地元の酒を飲みながらその土地の人々と交流しようという「あうたび」のオンラインツアー。兵庫自慢の酒米・山田錦の生産者と山田錦を使用する酒蔵を訪ねるという内容です。

参加者は、訪問する酒蔵のお酒とおつまみを購入することが求められ、オンラインツアーの数日前に送られてきます。そして、ある日曜の午後3時、全国各地から参加者がオンライン上で集まり、訪問先の生産者や酒蔵の人々も画面に登場しました。

みんなそろって、購入したお酒で乾杯! 続いて、Googleマップを使って、山田錦の田んぼや酒のタンクへと旅しました。何度も乾杯を重ねて、3時間で中締め。その後も、さらに3時間盛り上がったそうです。

リアルでは入りづらい酒蔵の中を見学でき、ほろ酔いでうれしそうな土地の人々の顔を見ることができる。酒造りにまつわるいろいろな裏話も聞けて、旅を堪能しました。最初は「どんな人が一緒かなぁ」と気後れがありましたが、酔いも手伝って、参加者同士は盛り上がり、また一緒に行きましょうと、つながりもできました。

後日、主催者である合同会社あうたびの代表、唐沢雅広氏に話を伺うと、参加者のほとんどは、ひとりで参加しているそうです。30代後半から50代で、男女半々くらいのであるとのこと。先述のホットペッパーグルメ外食総研の調査では、オンライン飲み会の参加者は20代のデジタル馴れした若者が多いとのことでしたので、なんと意外!

唐沢氏によると、この春にオンラインツアーを始めて以来、40数回ほど国内外の旅を開催。全体で2000名ほどが参加し、リピーターもかなりの数を占めるそうです。

「日本中の素敵な人に出会う旅」を掲げ、2016年6月にスタートした「あうたび」。コロナ前のリアルツアーでも、同様の年齢層の参加者がほとんどだったとのことで、オンラインになっても変わることはないようです。

ひとり旅であって、ひとり旅ではない「あうたび」

唐沢氏に「あうたび」を起業したきっかけを伺うと、会社を辞めてうつうつとしているとき、福島県二本松市で、官僚の職を辞して東京から就農した人や民泊をやっている人など楽しそうに暮らしている人たちに出会い、元気づけられたとのこと。

その体験を共有したい、都会で過ごす同年代を元気にしたいという思いが原点にあるそうです。地域活性化とか、地方に活気をというのではなく、ひとりで休日をどう過ごそうかと考えている都会の人たちを元気づけることが「あうたび」の事業の目的である、と話してくれました。

ひとり旅に行きたい。そう思っていても、純粋なひとり旅ができる人はごくわずかでしょう。ひとり旅であって、ひとり旅でない「あうたび」ならば、それほど孤独に強くない人でも気軽に参加できそうです。

あうたびオンラインツアーはその名の通り、「あうたび」のオンライン版です。自宅からのオンライン参加で、様々な人々とゆるーいつながりができていくのもおもしろいなあ~と感じ、また参加してみようかなと思いました。

友人との飲み会よりも、見知らぬ者同士の「ひとり飲み会」のほうが気楽というのも、不思議な感じです。

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道畑富美 (みちはた・ふみ)

フードビジネス・コーディネーター。兵庫県神戸市出身。京都大学農学部修士課程修了後
、外食企業に入社。商品開発、経営企画を経て、独立。国内外の「食」の現場を精力的に巡りながら、フードビジネスのコンサルティングに関わる。Foodbiz-net.com 代表。

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