外食元年から50年、ファミレスから「客席」がなくなった

客席のないファミレス「デニーズ新宿御苑店」

テーブルのないファミリーレストランは何と呼べばいいのかーー。テイクアウト・デリバリー専門のファミリーレストラン、デニーズ新宿御苑店が10月半ばにオープンしました。

コロナの影響で、チェーン店、個人店にかかわらず、飲食店がテクアウトやデリバリーに注力。持ち帰り用のメニューを開発し、店頭には持ち帰り専門のカウンターを設けるなど、工夫をしています。

さらに進んで、大胆にも「客席をなくしました!」という大手外食チェーンのニュース。業界に激震が走りました。

ファミレスが生まれたのは大阪万博の年

ファミリーレストランは、その名の通り、ファミリー(家族)をターゲットとしたものでした。

しかし、かつて御三家と言われた、デニーズ、ロイヤル、すかいらーく(現在、すかいらーくブランドはなく、ガスト、ジョナサンに業態変換)の店内を見渡すと、今や「ファミリー」というよりも、ひとり客や夫婦ふたり連れの姿が目立ちます。

ときどき三世代連れも見かけますが、かつてファミレスがターゲット像として描いた「子供2人の4人家族」というのは少数派になってしまいました。

ファミレスの歴史をさかのぼってみると、食品業界で「外食元年」と言われる、大阪万博が開かれた1970年に遡ります。

万博会場内には、ステーキレストランとしてロイヤルが出店。また、前年にサービス業の外国資本の参入が解禁されたこともあり、ケンタッキーフライドチキンが出店し、人気を集めました。当時、私は小学4年生でしたが、アメリカ館の「月の石」と同様に、連日数時間待ちの行列ができていたことを記憶しています。

この年は、東京ですかいらーく1号店の開業もあり、まさにファミレス幕開けの年でした。

当時の憧れであった米国スタイルの空間とサービス、そして比較的安価に洋食というごちそうを味わえるファミレスは、経済成長とモータリゼーションの波に乗って、当時、郊外に家を構えたファミリー層のレジャーとして成長していきました。

ガストの注文用タブレット。もちろん「1人」の客も意識している

ファミリーから個の時代へ

ところが1980年代から90年代にかけて、バブルがはじける頃から、様相も変わってきます。

田中康夫の小説「なんとなくクリスタル」で女子大生とおしゃれブランドに注目が集まり、男女雇用機会均等法が、1987年施行されました。それぞれに好きなブランドをと、「個の価値観」と「女性」が消費のキーワードとして浮上してきた頃から、ファミレスの座席の配置にも変化が生じてきます。

ひとりで食べることが注目されるようになったのです。カフェバーブームがあったのもこの頃で、自立した女性が西麻布当たりのバーで酒を飲むなんて、今では恥ずかしくなる雑誌記事があったような気がします。

「吉野家のカウンターで女性が牛丼食べるかどうか」論争はもうちょっと後としても、この時代には、かっこいい意味でのバーカウンターが、ファミレスにも登場します。

店の運営側からみると、厨房と客席のあるホールに接するところにカウンターバーを設置すると、ファミレスでも増えはじめたひとり客に効率よく対応することができ、客席までの距離が短く作業効率も上がるというメリットがありました。

他方、客側も、短時間で食事が提供され、かつかっこよさげに食べられるということで利用しやすかったことと思います。

ネカフェ化した都市型ファミレス

こうしてファミレスは、ファミリーを対象にしながらも、ひとり客が、好きなものを好きな時間に気楽に楽しめるようになりました。さらに、90年代半ばになると、ひとり客の方が多くなってきます。カフェブームの到来です。

1996年にスターバックスが国内1号店を開業しました。ネットカフェも90年代に誕生。インターネット環境が十分な時間でなかったあの頃です。1995年のWindows95発売あたりでしょうか。

個の情報ツールも確立され、スターバックスが、そのコンセプトを、家でもない、会社や学校でもない、自分が自分になれる場「サードプレイス」と言いはじめたあたりから、ひとり客、ひとり座席が加速度的に増えていきます。

ファミレスかネットカフェか、区別がつかないようになってきました。今や都心のガストは、ワークスペースとしてとても快適です。コロナの影響も手伝って、つい立てだらけで、ほぼ個室化しています。WiFi環境も充実、ドリンクバーもあるということで、家にいるより安上がりですらあります。

そして、外食元年から50年の今年。まさに日本の社会を映し出してきたファミレスから、座席がなくなってしまいました。

誰にも気兼ねせずに「ひとりの食事」を楽しみたいという欲求。それを簡単にかなえるスマホという情報ツールが発達したこともあると思います。外での食事だけでなく、家庭の食事でも「個食」化が進んでいます。

ここで、改めて考えてみると、ファミレスは、スタート時から、家族で来て同じテーブルに座っても、それぞれ好きなメニューを注文して食べること、「ひとり飯」を提案してきました。ファミリーとはいえ、逆説的なレストランだったことに気がつきます。

外食や家庭の食事の「ひとり飯」化を「孤食」と呼んで、よろしくない習慣であると指摘する声もあります。が、家族の形態も変わっていますし、個々の価値観が優先されるようになった結果、食についても選択肢が増えて、自由度が増したのだと思います。

今後、ファミレス「ひとり飯」で育った世代が高齢になり、単身化も加速していきます(万博世代の私は来年還暦)。そうなるとさらに、「ひとり飯」需要は増えていくでしょう。これからの時代にファミレスが、ポジティブ「ひとり飯」を楽しむ環境をいかに創造していくかが楽しみです。

     ◇

いまステイホームが推奨される環境の中で、ファミレスだけでなく、「みなで楽しむ」場が色々変化していきます。今後も、フードビジネスという分野で、「ひとり飯」あるいは「個食」に関する考察を綴っていきたいと思います。

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道畑富美 (みちはた・ふみ)

フードビジネス・コーディネーター。兵庫県神戸市出身。京都大学農学部修士課程修了後
、外食企業に入社。商品開発、経営企画を経て、独立。国内外の「食」の現場を精力的に巡りながら、フードビジネスのコンサルティングに関わる。Foodbiz-net.com 代表。

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