台湾で30年「コソコソ公園飲み」をしていたライターが本を出した

台湾の夜市に行ったことがある人なら、不思議に思ったかもしれません。あれだけ美味しそうな料理が並んでいるのに、酒を飲んでいる人がほとんどいないことに。

台湾の人たちは、どこで飲んでいるのか? 台湾で酒を楽しみたいとき、どこへ行けばいいのか? そんな疑問に答える本が出ました。

ライター・松田義人さんの新刊『飲み台湾』(亜紀書房)です。その出版を記念したトークイベントが6月19日の夜、東京・西荻窪の書店「のまど」で開かれました。

6月に出版されたばかりの『飲み台湾』。表紙のイラストを描いたのは、台湾の人気イラストレーター・IKUIKU STUDIOさん

「謎の液体」が参加者に配られる

会場の丸椅子に座ると、謎のピンク色の液体が入った紙コップが配られました。

「今日のメインで用意したのが、保力達B(バオリーダービー)という、日本でほぼ知られていない一方で、台湾人はみんな知っているソウル・リカーです」

保力達Bは滋養成分入りの薬用酒で、日本でいうと養命酒に近いそうです。牛乳と1対1で割るのが定番の飲み方。「だからなんなんだっていう感じはありますけど」と言いながら、松田さんが「保力達Bの牛乳割り」を実演してくれました。

飲んでみると、マッコリに似た素朴な味わい。不思議と、もう一口飲みたくなります。

この日は保力達Bのほかに、カオリャン(高粱酒/58度)や竹葉青酒(35度)なども用意され、希望者にふるまわれました。気がつけば、会場の空気がじんわり温かくなっています。

保力達Bが入ったコップには、台湾の地方政治家と思われる男性の写真が印刷されていた。松田さんが親しくしている家族からもらったものだそうだ

「30年以上、コソコソ飲んでいた」

松田さんが台湾に通い始めて、30年以上になります。それだけ長く通っていながら、つい最近まで「酒をまともに飲める場所がなくて困っていた」といいます。

「夜市って、おつまみにぴったりなものがいっぱい売ってるのに、誰も酒を飲んでいないんですよ。だから、台湾では外で飲んだら失礼なのかなと思って、コソコソ飲んでいたという長い歴史がありました」

食堂に入っても、置いてあるのは、ほぼビールだけ。もっとアルコール度数が高い酒が好きな松田さんには、物足りません。仕方なく、スーパーでカオリャンを買って、公園のベンチでひとり飲む日々が続いたそうです。

松田さんが「台湾のキング・オブ・リカー」と呼ぶカオリャン(高粱酒)

転機は、台湾の元軍人との乾杯

そんな「コソコソ公園飲み」生活に転機が訪れたのは、3、4年前のことでした。台湾南部の高雄で、日本統治時代の軍事遺構を取材したとき、アテンドしてくれた元軍人の孟さんと出会ったのです。

「次に高雄に行ったとき、連絡してみたら『松田さんはお酒、飲めますか?』って聞かれたんですよ。『大好きです』って答えたら、『じゃあ、飲みに行きましょう』って」

飲みに行ったら、一気に打ち解けました。「僕、公園でひとり飲みしてるんですよね」と打ち明けると、「それは寂しい、仲間の家に来い」と誘ってくれました。

以来、孟さんがあちこち飲みに連れていってくれました。

台東県の廟(道教などの神々を祀る宗教施設)に泊まったこともあります。そこでは、おつまみとカオリャンが豪快に出てきたといいます。

「この本に書かれていることは、ほとんど孟さんから教わった話ばかりです」と、松田さんは明かします。

「個人的なイチオシはこれ」という竹葉青酒。「台湾のセブンイレブンでも売ってますよ」

台湾の居酒屋といえば「ルーチャオ」

台湾で飲みたくなったら、どこへ行けばいいのか?「2人以上だったら、熱炒(ルーチャオ)ですね」と松田さんは答えます。海鮮料理を出す大衆食堂のことで、「熱炒」あるいは「海鮮」と書いてあるのが目印です。

ただし、ルーチャオでもやはり、酒の種類はビールがメイン。「もしくは58度のカオリャン。ビールとカオリャンの間がない」と、松田さんは苦笑します。

松田さんの新著には、夜市ごとの酒の飲みやすさを示す「飲み台湾指数」も掲載されています。おしゃれなエリアや学生街の夜市は、あまり飲む雰囲気ではなく、台湾で飲み歩きたいなら「夜市選び」から始める必要があるのだ、と。

食堂にカオリャンを持ち込んで「飲んでもいい?」と聞くと、半分ほどの店は「どうぞ」と認めてくれるそうです。そんな台湾流の攻略法も詰まった一冊です。

「台湾人はジュリーが大好きで、ジュリーを日本語で歌うと『おお』ってなります」。カラオケスナックでの体験を話すと、聴衆が沸きました。

松田さんの本では、台北の夜市の「飲み台湾指数」が示されている。星1つから星5つまで、さまざまだ

「だんだん酔っぱらってきちゃって」

台湾でひとり飲みは珍しく、大勢で飲んでいるときも「マイペース飲み」は怒られるといいます。

「ひとりで勝手に飲んでいると、ダメダメって言われるんです。みんなで目を合わせて飲む。それによって、人間関係が一歩近づけられる感じがするんですよね」

ひとり飲みに慣れ親しんでいた松田さんですが、「台湾人と一緒に飲めるようになったことで、旅の深さが大きく変わった」と話します。

それでも、台湾をひとりで旅する人も多いはず。ひとり飲みには、やはり「公園」がおすすめだとのこと。「そのときは、虫除けスプレーを忘れずに」と、松田さんはアドバイスしていました。

トークは1時間以上続きました。保力達Bと竹葉青酒とカオリャンを行き来しながら、話がどんどん広がっていったころ、松田さんが締めの一言を言いました。

「だんだん酔っぱらってきちゃって、申し訳ないです」

会場から笑いが起きました。台湾のソウル・リカーは、西荻窪の夜をほんのり上機嫌にしてくれました。

この記事をシェアする

亀松太郎 (かめまつ・たろう)

DANROの初代&3代目編集長。大学卒業後、朝日新聞記者になるも、組織になじめず3年で退社。小さなIT企業や法律事務所を経て、ネットメディアへ。ニコニコ動画や弁護士ドットコムでニュースの編集長を務めた後、20年ぶりに古巣に戻り、2018年〜2019年にDANRO編集長を務めた。そして、2020年10月、朝日新聞社からDANROを買い取り、再び編集長に。同時に、Yahoo!ニュースで在住する東京都杉並区の取材記事を発信している。最近の趣味は、地元の焙煎豆店で買ったコーヒーを毎朝ドリップすること。

このオーサーのオススメ記事

台湾で30年「コソコソ公園飲み」をしていたライターが本を出した

シリコンバレーで急増する「クラックト・エンジニア」と孤独な熱狂

西日に向かって歩く午後

「若年性認知症と診断されて、ひとりぼっちと感じた」41歳女性が見つけた「孤独」を乗り越える方法

「ファミレス」から「ソロレス」へ デニーズに見る孤食の進化

「ひとりごはん」の歌を作ったのは松任谷由実? AIが書いた「ひとり飯」コラム

亀松太郎の別の記事を読む

「ひとり飲み」の記事

DANROクラブ

DANROのオーサーやファン、サポーターが集まる
オンラインのコミュニティです。

もっと見る