フリーランスの収入を直撃!?「消費税インボイス」の問題点とは?

普段はフリーランスのライターとして活動する小泉なつみさん

参院選が近づくにつれ、Twitterでトレンド入りするなど、にわかに注目度が高まった消費税インボイス制度。実施されると多くのフリーランスに影響を及ぼす制度ですが、「インボイスという名は聞いたことがあるけれど複雑でよく分からない」という人も多いのではないでしょうか? 

そこで早くから同制度に疑問を呈し、「STOP!インボイス」の合言葉とともに活動する「インボイス制度を考えるフリーランスの会」の代表・小泉なつみさん(38)に、消費税におけるインボイス制度の問題点を聞きました。

インボイスに登録しないと仕事が減る?

――消費税インボイスとはどのような制度ですか?

小泉なつみさん(以下、小泉)結論から言うと、年間売上1000万円以下でB to B取引をしている小規模事業者への実質的な増税です。直接的に影響がある職業は、私のようなフリーランスのライターのほか、フリーランスの編集者、カメラマン、デザイナーがあげられます。あるいは、個人タクシーの運転手、「一人親方」と呼ばれる建設業の方、飲食店、農家など、とにかく年間売上1000万円以下でB to B取引をしていれば、誰でもインボイスでダメージを受ける可能性があります。最近は「日本アニメーター・演出協会」「日本漫画家協会」「日本SF作家クラブ」「日本俳優連合」といった団体が、インボイスの実施に対して反対する声明を発表し、話題になりました。

――消費税インボイス制度が始まると、フリーランスにとって何が変わるのでしょう?

小泉:インボイスとは「適格請求書」のことを指し、これを発行できない事業者は発注元から仕事がもらえなくなる可能性が出てきます。現在の税制上、年間売上1000万円以下の事業者は「消費税を納めなくてもいい」と認められ、「免税事業者」と呼ばれています。でも、適格請求書(インボイス)を発行するには「課税事業者」にならないといけません。すると、消費税を納める義務が発生します。

――どうして仕事がもらえなくなる可能性があるのでしょうか?

小泉:その話の前に、消費税の仕組みを少し理解する必要があります。例として、課税事業者の出版社Aと免税事業者のライターBさんのケースで考えてみます。

出版社Aは消費税を納付する際、Bさんに支払った価格の内の消費税相当分を控除することができます。例えば、Bさんに1万1000円を支払ったのなら、消費税に相当する1000円分が控除できるのです。この制度を「仕入税額控除」と呼びます。そして、これまではBさんが発行する請求書でも仕入税額控除ができました。

でも、消費税インボイス制度が始まると、控除を適用するためには適格請求書が必要になります。そして法律上、適格請求書を発行できるのは課税事業者だけで、免税事業者は発行できません。つまり、免税事業者であるBさんからもらう請求書は「適格」でないため、出版社Aは控除ができなくなるのです。

そうなると、出版社Aは適格請求書が発行できる他のライター(課税事業者)に仕事を発注するようになるかもしれません。または、Bさんに発注するとしても、控除ができない分だけ値引き交渉をするかもしれません。あるいは、Bさんにインボイスが発行できる課税事業者の登録をお願いするかもしれません。

一方、仮に免税事業者のままのBさんに発注するのなら、出版社Aは仕入税額控除ができないため、納税額が増えることになります。あえてそのような負担を受け入れてくれるでしょうか。

実は、消費税は滞納が多い税金として知られています。消費税インボイス制度が始まると、税負担に耐えられない小規模事業者が出てくることが予想されます。インボイス制度は最終的にフリーランスを萎縮させ、多様な働き方とカルチャーを衰退させる税制だと、私は思っています。

「国会に着ていく服にいつも悩みます」と小泉さん。この日も陳情の帰りだった

子作りを目標に。その夢が崩れていく

――そもそも、小泉さんが消費税インボイス制度に関心を持ったきっかけはなんでしょう?

小泉:あるとき、税理士さんとお話をする機会があり、ふとインボイスのことを訊ねたら、約1カ月分の生活費を納めなくてはならなくなることを知り、腰を抜かしたんです。とはいえ、国がやることですから、なんらかの救済措置があるだろうと調べたのですが、調べれば調べるほど、逃れられない制度であることがわかり、愕然としました。

私は抗がん剤治療を経験していて、3年前に受精卵を保存しています。がんが寛解したら子どもを作ろうと思い、それを目標にしていました。しかし、この制度を知り、夢が崩れていく気持ちになりました。国の税制が私の未来を暗くさせることにどうしても納得がいかず、それまで政治の「せ」の字も知らなかったのですが、活動を始めるようになりました。

――どんなことから始めたのでしょう?

小泉:Twitterでインボイスのことを発信すると3000ほどの「いいね」がつき、「不安だったのは私だけじゃなかったんだ」と感じました。そこで消費税インボイス制度に詳しい税理士さんを訪ね、お話を聞きました。制度のあらましが理解できたとき、政府は「小規模事業者はいなくなってもいい」と考えているのだとつくづく感じ、悔しくて泣きました。それから数日後にネット署名を始めたんです。1週間ほどで3万筆が集まりました。それを財務省に届けた際に集まったメンバーで、「STOP!インボイス」の活動がゆるゆると始まりました。

多くの消費者に影響が及ぶことが予想される

――現在の活動内容は?

小泉:ネット署名の募集や解説サイトの運営、Twitterスペースでの毎週水曜日の勉強会、政治家への陳情などです。各メディアにも働きかけを行っていて、地上波のテレビ局からも取材されましたが、放送には至っていません。複雑な制度なので、問題点を伝えづらいもどかしさを感じています。

政府は、来年(2023年)10月からの導入を予定しています。にもかかわらず、特に直接的な当事者であるフリーランスや小規模事業者が「自分は当事者である」と気づいていないことを危惧しています。この状況のままでインボイス制度が実施されれば、多くの混乱が起きるのではないかと思います。

――消費税インボイス制度の一番の問題点は?

小泉:仕事のスキルで発注先を選ぶのではなく、適格請求書が出せるか出せないかで選ぶようになることです。これまで取引先と築いてきた信頼関係やこの人のこれが好きだから発注したいという思いよりも先に税制が介入することで、文化は先細ると思います。また、もらった請求書が本当に適格請求書なのかを確認しなければならず、経理業務が煩雑になります。実際に海外では偽造インボイスの横行が問題になっているんです。

――消費税インボイス制度が始まると世の中にどんな影響があるのでしょう?

小泉:誰かが新たに消費税を負担する実質的な増税なので、日本全体の景気へのダメージは免れないと思います。貧困化が進んだり、物の値段が上がったりし、結果的に多くの消費者に影響が及ぶのではないでしょうか。海外ではコロナ禍で91の国と地域が消費税に類する税の減税を実施、予定しています。そうした潮流に逆行する制度だと思っています。

議員会館で行われた「インボイス制度の中止を求める税理士の会」の記者会見で、マイクを持つ小泉さん。インボイス制度を考えるフリーランスの会では、この記者会見の広報を支援した(2022年6月9日撮影)

フリーランスの働き方が好き

――初めて政治活動をしてみて、どんな苦労を感じますか?

小泉:会のメンバーは志だけで集まっているので強制はできないし、楽しくないなら私も辞めたくなります。楽しさとやりがいを維持しながら、みんなで成果を求める難しさを感じています。

私はもともと会社勤めをしていました。でも、組織の中にいると自分が自分でいられず、大きなストレスを抱えていました。「小泉なつみ」として言葉を発したい、自由に仕事をしたいという思いでフリーランスになったんです。だから、この会も強制したり、がっつり組織作りをしたりせず、「個」が「個」のままで活動したいと思っています。

――今後の展望を教えてください。

小泉:消費税インボイス制度は低所得のフリーランスや小規模事業者からも等しく徴税する制度です。これが始まれば、若い芽は育ちにくくなり、多くの事業者の生活が苦しくなったり、廃業したりするケースが出てきます。さまざまな政党の議員に陳情を行っている中で感じるのは、この制度に疑問を持つ国会議員は与野党問わず、確実に増えていることです。

私はフリーランスの働き方が本当に好きなんです。だから、参院選ではインボイス反対の候補者や政党を後押ししていきたいですし、参院選後も反対の声を集めて国会に届けたいと思っています。

「STOP!インボイス」TwitterInstagram

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