女ひとり、マルタで暮らした3カ月「余計なものが削ぎ落とされる感じ」

フリーライターの林花代子さん

イタリアの南側、地中海に位置する小さな島国、マルタ共和国。誰もが知っているメジャーな国とは言えないかもしれません。フリーライターの林花代子さんは、そんなマルタは女性のひとり旅に最適の国だと話します。治安がよく安全で、自分と向き合う時間を過ごすのにとてもいい環境だそうです。

林さんがマルタに初めて行ったのは2012年。当時勤めていたタウン誌の制作会社を辞め、3カ月間語学留学しました。日本に戻った後も何度も通い、2017年には『まるごとマルタのガイドブック』(亜紀書房)を出版。その電子書籍版は現地の「Malta Tourism Authorityプレスアワード2018」でデジタルメディア部門3位を受賞しました。

マルタにそこまでハマる理由とは? 出会ったきっかけは? 林さんに「マルタ愛」を存分に語ってもらいました。

仕事を辞めてひとり向かった「情報がでてこない国」

ーーマルタに出会ったきっかけを教えてください。

林:もともとマルタという国は知りませんでした。きっかけは留学先を決めるカウンセリングでした。当時勤めていた会社を辞めて、海外で語学留学をしようと思って相談しに行ったんです。「ニューヨークに行きたい」と話したら「ビザがないとすぐに行けない」と言われて。

準備に時間がかからずすぐ行けるという条件で紹介されたのが、イギリス、カナダ、そしてマルタだったんです。

ーーなぜその中でマルタを選んだんですか?

林:イギリスは料理があまり美味しくないし、カナダは「学生の留学が多くて話が合わないかもしれない」と言われました。じゃマルタってどんな国なんだろうと思って。調べてみたんですが、情報が出てこないんです。ネットに情報がほとんどなかったし、ガイドブックも少ない。調べても調べても全然ありませんでした。でも、だからこそ面白そうだなと思ったんです。

ーーそして会社を辞めて、マルタに行くことになるんですね。実際に行ってみて、どうでした?

林:衝撃ですよね。「なんでこんなにいい国が日本で知られていないんだろう」と思いました。ご飯は美味しい。人は優しい。治安はすごくいい。のんびりと平和な雰囲気で、第2のハワイと言っていいと思います。

ーー特にどんな部分がオススメでしょう?

林:個人的なオススメはグルメです。とにかく美味しい。基本はイタリア料理がベースで、日本人の口に合いやすいと思います。中東やアフリカから来た色々なスパイスも入っています。イタリア料理に近いけど、ちょっと奥が深い。

なかでもシーフードは本当に美味しいですね。エビはすごく大きいし、魚はふわふわ。タコやイカは本当に柔らかい。向こうで料理の先生と一緒にタコの料理を作ったんですが、煮込めば煮込むほど柔らかくなる。不思議な感じでした。

ーーどんな国民性なんでしょう?

林:のんびりしていて、気さくな人が多いです。お店で座っていたら、隣の席の人が急に話しかけてきます。あと時間にルーズというかおおらかな人が多くて、約束は守らないし、ドタキャンも当たり前(笑)。でもそのいい加減さが心地いいんですね。

ある時、バスを待っていたんですが、時間になっても全然来ませんでした。私は「もう行っちゃったのかな」とせかせかしていました。

そしたら隣のおばあちゃんが「バスは待っていたら来るものなの。時間ばかり気にせず、待つ時間を楽しみなさい」と言うんです。確かにその場で目線を変えてみると、そこにはきれいな景色があったり、ちょっといい匂いがしたりする。そういうものに目を向けるべきだと気づかされました。

ーー日本との違いを感じるのはどんな点でしょう?

林:情報やモノの多さが圧倒的に違います。マルタはエンターテインメントが少ない国なんです。日本みたいに大きいデパートやアミューズメントパークがありません。だから遊ぶといったら海。特に夏は家族や近所の人と海に行って、バーベキューを楽しんでいます。

マルタの人から教えてもらったのは「足るを知る」ことでした。モノや情報が足りないから楽しくない、となるのではなく、足りなくてもその中でどう楽しく生きていくといいか。そうしたことを自然に考え、実践している人たちでした。

宿泊先した部屋には鍵がついてなかった

ーーマルタに出会ったことで、仕事観は変わりました?

林:マルタの人は、お仕事は二足、三足のわらじでやっている人が多いんです。

たとえば私の知人はマーケティングの仕事をメインでやっていますが、写真を撮るのが好きだから、週末はフォトグラファーを名乗って人の写真を撮っています。他にも、歌が好きだからボイストレーニングに通って、週末の夜はジャズバーで歌っている人もいました。

マルタの人たちはやりたいことを躊躇せずにやっているのがすごいと思います。ただ写真が好きだから写真を撮っている。歌が好きだから歌を歌っている。結果として、お金を稼いでいる。そんな人がたくさんいます。

ーー人生観も変わりますか?

林:マルタの人たちと触れ合っていると、余計なものが削ぎ落とされる気がします。本当に美味しい食事を食べて、きれいな景色を見ているうちに、五感が研ぎ澄まされます。論理思考から、感覚思考に変わる。

マルタ留学の相談にのった方で、日本で仕事を頑張りすぎて心身ともに疲弊してしまった方がいらっしゃいました。でもマルタで美味しいものを食べて、きれいな景色を見て、心から楽しいことをしているうちに「私にも楽しめる心があったんだと気づいた」と話していました。心の鎧を取り払ってくれる国だと思います。

ーー林さんはそのようにマルタ留学に興味がある人に相談にのっているそうですね。どんなアドバイスをしていますか?

林:「日本の価値観を引きずっていたらダメだよ」と言います。むしろ、違いを楽しんだほうがいい。マルタに限らず海外では何かトラブルが起こることはあります。それを楽しんだ先に成功がある。「何でも面白がれ!」と言いますね。

よく人生相談にもなるんです。たとえば「留学をしたら人生がうまくいきますか」と聞かれることがあります。でも、そんな時は少し辛口で「自分のマインドが変わらないと一緒だよ」と話します。「行ったらどうにかなる。誰かが変えてくれる」ではダメなんです。周りに左右されるのではなく、自分が心からやりたいと思ったことを自分で決めて自分で行動しないと。

ーーひとり旅には向いていますか?

林:とても向いていると思います。特に女性のひとり旅は治安のよさは大事だと思います。マルタは日本より治安がいいかもしれません。極端な話、深夜12時にひとりで歩いても大丈夫なくらい。もちろん、だからといって、深夜にどこでも歩いていいというわけではないんですけどね。

マルタにゴゾ島という小さな島があります。ここはもう警察がいないんじゃないかというくらい平和なところ。驚いたのは、宿泊先に部屋の鍵がないんですよ。最初は「えええ?」とびっくりしました。「怖いから鍵をつけて」と言ったら「何を言ってるんだ。こんなところで事件が起こるわけないだろう」と笑われました。でも私も何日かすると慣れてきて、部屋のドアを開けっ放しで寝たりしていました。

ーー最後に林さんにとって「マルタ」とは?

林:第二の故郷です。マルタに行くと「ああ、戻ってきたなあ」と感じます。留学して一度住んだからでしょうか。(ガイド本執筆のため)取材した店に行くと「また来たのか、君はいつでもウェルカムだ。ただで食っていけ、飲んでいけ」と大げさに言われたりします。そんな温かく迎えてくれる人たちもいるし、ひとりになって自分と向き合う時間も過ごせる。様々な楽しみ方ができる、とても居心地のいい国です。

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