スプリングスティーンの手は分厚くて温かかった(渡米ライブ紀行 4)

今回2回目となるライブは最前列で観ることができた。間近で観るスプリングスティーンの姿は、よりエネルギッシュに見えた

9月3日午後8時、いよいよブルース・スプリングスティーンのニュージャージー・ラスト公演が始まった。一昨日同様、スプリングスティーンがステージに現れるや、スタジアムには大歓声が響き渡る。この夜の歓声は、一昨日に聞いた時よりもさらに迫力があり、それは怖さを覚えるほどだった。

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1曲目から3曲目までは一昨日と同じ曲だったが、4曲目は今回のツアーで初めて演奏される曲だった。1日おきで3日間、3時間の公演を続けてきたスプリングスティーンはこの日も絶好調。声がよく出ていて、音程も正確。身のこなしも全く疲れている様子は感じられなかった。

「憧れの人」が客席フロアに降りてきた

9曲目、スプリングスティーンはステージの前に置かれた階段を降りると、ステージと客席の間の通路を歩き始めた。彼はおれにどんどん近づいてきた。

おれの左隣のOさんはとっさに日本から持参してきたフラッグを彼の前に広げた。このフラッグには彼の写真とともに「Bruce, Please come to Japan」という文字が書かれていた。このフラッグは日本のファンの有志が作ったもの。スプリングスティーンの来日を直接懇願するべく、ワールドツアーに参加する日本人ファンたちがリレーで持参して、会場でアピールしているのだ。

Oさんが掲げたフラッグを目にしたスプリングスティーンは、右手に持ったマイクを咄嗟に左手に持ち変えると、開いた右手をOさんの前に差し出した。さらに、その横のナイジェリア人カップルとIさんと握手した。スプリングスティーンはおれの前をいちど通過したが、再びステージに戻る際、おれの手をしっかりと握ってくれた。汗がにじむその手は大きくて分厚く、なによりも温かかった。

今回は航空券を取り直したりと、金をずいぶん無駄に使ってしまい、時間もうまく使えなかった。オンラインチケットが表示されなかった時は、一瞬入場をあきらめかけた。だがスプリングスティーンと握手ができた瞬間、そんなドタバタもすべてが吹き飛んだ。おれはこの握手のためにアメリカまでやってきたのである。

「Sha la la la la la la」と口ずさむ大観衆

スプリングスティーンはその後も引き続き新旧ヒットナンバーを演奏し、一昨日とは異なる曲も演奏した。ほぼ休みなく21曲を演奏すると、一昨日同様すぐさまアンコールに突入する。

アンコールの一曲目は、1975年発売の名盤”Born to Runにおさめられた最後の曲”Jungleland”だった。バイオリンの美しい旋律で始まり、サビに向けてバンドサウンドが重厚さを増していく。激しいギターソロ、そしてサックスなど、まさにロックバンドのエッセンスを詰め込んだこの名曲に場内はすさまじい盛り上がりぶりを見せる。

長年スプリングスティーンのツアーで演奏されてきた、おなじみの”Detroit Medley(カバー曲のメドレー)”も今回のツアーで初めて披露された。やはりニュージャージーは、スプリングスティーンにとって特別な地なのだと実感した。もちろん一昨日のライブも感涙モノだったが、この日最前列で感じた迫力と臨場感、そして間近に感じたスプリングスティーンの息吹は、間違いなく一生の記憶に残るものとなった。

29曲目、スプリングスティーンはギターで単純な旋律をつまびいた。スタジアムを埋め尽くすファンは、この旋律を聴いて大歓声を上げた。この曲のタイトルは”Jersey Girl”。シンガーソングライターで、俳優としても活躍しているトム・ウェイツのカバーだ。ニュー・ジャージーの少女に恋をする男の歌で、スプリングスティーンは地元のライブでは必ずと言っていいほどこの曲を演奏してきた。

だが、3回にわたる今回のニュージャージー公演で”Jersey Girl”が演奏されるのはこれが初めてだった。サビの箇所ではスタジアム中から”Sha la la la la la la la”とコーラスが聞こえてくる。もちろんおれも”Sha la la la la la la”と口ずさんだ。少しだけ湿気を帯びた、ニュージャージーの夜風を感じながら。

会場のメットライフスタジアム。ニューヨークジャイアンツのホームグラウンドで、試合やライブの際はマンハッタンから臨時列車も運行される

スプリングスティーンに会えたのは幸運だった

スプリングスティーンのツアーはこのニュージャージー公演の後も続く予定だったが、この後ツアーの休止が発表された。原因は本人の体調不良だった。今回の公演の前にも体調不良による公演のリスケジューリングがあったが、おそらくスプリングスティーンは、体調不良を感じながらも、地元公演ということで無理をしていたのではないだろうか(休止された公演はすべてリスケジューリングされた)。

ニュージャージー公演を選んでいなかったら、おれはもしかしたらスプリングスティーンには会えなかったのかもしれない。そういった意味では、いろんなドタバタがあり、お金をかなり使ってしまったものの、おれは運が良かったのかもしれない。

今回は自身5度目となるアメリカだが、来るたびにいろんな発見がある。もちろんアメリカ以外の国でもさまざまな経験ができるだろうが、スプリングスティーンの世界観をずっと追っかけてきた自分にとっては、やはりアメリカという国は特別な存在なのだ。いつになるかはわからないが、また近いうちに渡米したいと思っている。

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夏目健司 (なつめ・けんじ)

愛知県名古屋市在住のカメラマン兼ライター。バイク、クルマ雑誌の取材を中心に活動中。趣味はバイクやアウトドア。毎年夏にはバイクのキャンプツーリングを楽しんでいる。ケッコン歴無しのアラフィフ男目線(?)で多様なテーマに挑戦中。1971年生まれ。

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