その島の空気ごと持ち帰ってほしい 「離島の本屋」をめぐる旅の魅力

『離島の本屋 ふたたび』を執筆した朴順梨さん

ただ、本屋を紹介しているだけじゃない。風土記のような地域の記録であり、生活の記憶であり、旅のガイドブックでもある。本屋が少なくなっていく中で、あえて”島の本屋”に着目した本。それが『離島の本屋 ふたたび』(ころから)だ。

著者の朴順梨さんは、屋久島や種子島、佐渡島、沖縄本島など、全国の”離島の本屋”を訪ね歩いて、そこで感じた驚きや発見を丹念にまとめた。本書を読めば、人との出会いと同じように、本屋との出会いもまた一期一会であることがわかる。

もともと、NPO本屋大賞実行委員会が発行するフリーペーパー『LOVE書店!』の連載をきっかけとして、2013年に第一弾の『離島の本屋』が出版された。その後、連載はウェブメディア「DANRO」に移籍して続き、2020年10月に第二弾として本書が完成した。

「離島の本屋」をめぐる旅の魅力について、朴さんに聞いた。

本だけでなく野菜や雑貨もある

──朴さんにとって、「離島の本屋」の魅力とは何でしょうか。

ひとつは、書店以外の機能があるところです。本だけでなく、野菜や雑貨を売っていたり、自転車の修理やOA機器のメンテナンスを請け負っていたり。本+「何か」があるんです。

素敵な宿に泊まって、温泉に入りながらのんびりするのも、旅の醍醐味だけど、島の本屋には、生活に身近なものが売っていて、地元の人がそれを買いに来る。そこから島の人たちの生活が見えてきます。

連載のはじめ、伊豆大島の本屋に行きました。どういう人が来て、どういう話をしていくのか。お客さんが私にどういう話をするのか。数時間の滞在でしたけど、そういう光景を見ているだけで、心が惹かれましたね。じゃあ、ほかの島はどうなっているのだろうかと。

──本屋はどうやって見つけるのですか。

2006年に『LOVE書店!』の企画が立ち上がったとき、「じゃあ、行ってきて。以上」という感じでした。その先はだれも教えてくれず、編集者がリサーチしてくれることもありません。ネット上にも情報がなくて、はじめのころはタウンページで本屋を探していました。まさに徒手空拳でしたよ。

種子島の「逆瀬川書店」(朴順梨さん提供)

──ネット情報もだいぶ充実してきたんじゃないですか。

離島の本屋について調べようとすると、自分が書いた記事が出てくるし、人づてに聞いてもほとんど出てこなくて・・・読者から「うちの島にも来てください」というリクエストはあるけれど、どこの本屋に行けばいいのかわからない。今でも手探りですよ。

最近は、グーグルのストリートビューなどで、店の佇まいを確認して、「なんかよさそうだな」とか、「◯◯書店」というところは「あ、これは昔から本屋さんなんだろうな」「個人経営なんだろうな」とか。まあ、カンみたいなものですね。

ただ、ネットで探していると、もうこの世に存在しない本屋に出くわしたりします。検索で見つけた素敵な本屋に行ってみたいと思って、知り合いに聞いたところ、とっくの昔に閉店して、建築会社の資材置き場になっていました。ネットを過信してはいけませんね。

屋久島に行っても「縄文杉」は見に行かない

──離島への移動は、よくフェリーを使われているようですね。旅のコツはありますか。

フェリーでは、とにかく携帯の充電をするため、コンセントの近くでパーソナルスペースを確保することですね。あとは、たまにデッキにあがって、海をボーッと見るくらいで、酒も飲まず、本も読まず、ひたすら寝て過ごしています。

──思い出の旅はありますか。

去年のクリスマスイブ、屋久島に一人旅したんですが、せっかくなのでケーキくらい食べようと思って、お店を探したところ、夜だったのでどこも開いてなくて・・・。ウォーキングだけして宿に戻りました。途中、クリスマス仕様の電球が飾ってあって、とても寂しい気持ちになったことを覚えています。

屋久島の「書泉フローラ」。店頭に野菜も置かれていた(2018年12月撮影/朴順梨さん提供)

──取材ついでに観光はしないんですか。

本屋の人が観光名所に連れて行ってくれることはあるので、そのときはありがたくお世話になっていますが、あまり観光はしないですね。ただ、「島っぽい写真」を撮らないといけないというミッションがあるので、山に登ったり、海に行ったりはしています。

──宿泊施設はどんなところですか。

民宿が多いですね。少し困るのは、どう見ても、その民宿の家族の人も使っているようなお風呂のときです。あとは壁が薄くて、隣の声が筒抜けということも。別の取材ですが、大学生の集団が同じ民宿に泊まっていて、すごくうるさかったことがあります。それで夜中の2時に「静かにしてくれますか?」と注意したり。民宿だと、往々にしてそういうことがあります。

──本屋さんと同じように距離感が近いですね。

ただ、屋久島のときもそうなんですが、「えっ、縄文杉を見に行かないの?じゃあ、何をしに来たの?」というような微妙な雰囲気が漂ったことは、一度や二度じゃないですよ。たとえば、屋久島に訪れる観光客はみな当然のように朝早く起きて、縄文杉を見に行くわけです。

でも、わたしは行かない。一人旅だし、観光でもなく、服装もビジネスファッションじゃない。しかも島の人に会うなどと言っているだから、わりと不審者あつかいされます。もちろん、そこまで含めて面白くてたまらないのですが。観光客でもなく、島の人間でもない。その間の部分に立っているというのは、取材していてよかったと思います。

「島に関する本」はその島でかならず見つかる

『離島の本屋 ふたたび』。副題は「大きな島と小さな島で本屋の灯りをともす人たち」

──足掛け15年の旅。自分の中で変化はありましたか。

能町みね子さんが素敵な帯文を書いてくれました。「なくならないことだけが正解だと思っていた」 ──うん、私もそう思っていた。でも、なくならない正解もあるし、なくなったあとにも正解があるのだ。

それに絡んできますが、もともと、ハードカバーを置いてない本屋は本屋じゃないと思っていたんです。小説や哲学書が置いてある本屋が本屋なんだと。

だけど、地元の人が買ってくれないといけない。本の返品はむずかしいし、注文しても入ってこないことがある。だから、漫画と雑誌がメインになっていくんですが、それでもいいんじゃないかと。ほしい人がいて、ほしいものがあって、それで成立する。それでいいんだと。

沖縄県那覇市の「麻姑山書房」。個人住宅の一角を使って、本屋を営業している(朴順梨さん提供)

──本屋がなくなることもあります。

「本屋がなくならないことだけが正解だ」と思っていましたが、時代とともに変わってきます。

今でも閉店したという知らせを聞くたびに、すごく悲しい気持ちになって、なんとも言えないほど落ち込みます。やっぱり残ってくれたらうれしいけれど、なくなってしまうことは否定できない。だったら、本屋をやっていて幸せだったとその人が思えるような、人生の後押しになるような取材をしようと。

──本屋にとって厳しい状況がある中で、店で売るものが多様化したり、別の形態になっていくところが紹介されています。逆にいえば、本を売るということも自由なのではないでしょうか。

そうですね。もちろん、本は、ほかにも代えがたいようなものだと思いますが、もっと自由でも良いと思っています。その中にも、その島の人のこだわりがあります。そこが離島の本屋さんの特徴だと思うんです。

たとえば、沖縄・宜野湾の本屋さんに行ったときです。戦前、パラオなど、南洋に移民したのは沖縄の人たちが多かったので、「じゃあ、南洋の移民状況を調べよう」と思って探したら、あっという間に関連する本が見つかったんですよ。感動というか、うれしくなりましたね。

離島の本屋にはかならず、「その島のこと」が書いてある本が置いてあります。島のことを知りたかったら、その島の本屋に行くのが一番早いです。品揃えの意味では、もちろん大きな本屋に負けてしまうけれど、都会には、そういう出会いがない本屋も少なくないです。

気になる本があればその店で買ってほしい

──今年は新型コロナウイルスの影響で、行きたい場所に行くこともむずかしくなりました。

この間、沖縄で出版イベントを開いたんですが、PCR検査を受けてから行きましたね。そんなこと、今までは考えなくても良かったけれど、人に会うんだったら、検査が万能じゃなくても、受けないよりはマシだろうと。

巣ごもりの影響で、本屋に客がきて、本が売れるようになったと聞くと、うれしくなりますね。コロナを機会に本を読むようになったというのは、離島の本屋にとって良い話ではありました。

──次に行きたい島はありますか。

しばらく厳しいかもしれませんが、利尻島です。あと、三宅島に新しい本屋ができたので行きたいですね。できれば近いうちにと考えていますが、やっぱりコロナがおさまらないとどうしようもないです。そういう小さな島だと、医療体制の心配もありますから、わたしが行きたくても、簡単に行ける場所ではありません。

だから、次の取材は、本土と繋がっている島にしたんですよ。それでも常にドキドキしながら行っていますし、島の人が分断されてしまうのも嫌です。その板挟みの中に入りたくないというか、島が好きだから、やっぱり島に迷惑をかけたくないという気持ちもあります。

──最後に、離島の本屋に行きたいという人にアドバイスを。

やっぱり、島に関する本や棚を気にしてもらいたいです。その島のことがわかるからです。

そして、できれば自分への土産にもなるので、気になる本を見つけたら、その店で買ってほしいです。タイトルだけ覚えて、あとからアマゾンで注文するんじゃなくて、その島の空気ごと買って帰ってほしい。思い出にもなりますよ。

なんでもいいです。『鬼滅の刃』でもいい。実際、『鬼滅の刃』の最新刊が近所になかったからと、わざわざ本土から島まで探しに来たという人の話も聞きました。

そして、恥ずかしくなければ、邪魔にならない程度にお店の人に話をふってほしい。というのも、意外と話好きの人が多いからです。もちろん島の本屋は、のんびりしているわけではありませんが、そんなふうに関わってみたら面白いと思いますよ。

朴 順梨(ぼく・じゅんり) プロフィール  

1972年群馬県生まれ。フリーライター。早稲田大学卒業後、テレビ番組制作会社、雑誌編集者を経てフリーランスに。おもな著書として、『離島の本屋 ふたたび』のほか、『離島の本屋』『太陽のひと』(いずれもころから)、『奥さまは愛国』(河出文庫、共著)がある。

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山下みかん (やました・みかん)

四国生まれ。高校卒業後、京都で8年過ごして、上京。ライター・編集者。最近のマイブームは自転車。コタツ記事が好きです。でもインタビュー記事がもっと好きです。猫飼いたい。本屋はじめたい。結婚したい。

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