「明治の人々の心意気を感じた」古いトンネルの魅力を味わうバスツアー実施

トンネル探究家・花田欣也さん
トンネル探究家・花田欣也さん

明治・大正時代に造られた古いトンネルを一緒に歩き、産業遺産としての価値を肌で感じる。そんなユニークなバスツアーが12月15日、実施されました。旅行会社の朝日旅行とウェブメディア「DANRO」のコラボレーション企画「トンネル探検隊がゆく!宇津ノ谷明治トンネルと巌井寺トンネル」です。

ツアーのガイド役を務めたのは、トンネル探究家の花田欣也さん(57)。花田さんは日本各地のトンネルを訪ね歩いていて、2017年には『旅するトンネル』という著書を出版しました。DANROでも、花田さんがトンネル歩きの魅力について語るインタビュー記事を掲載しています。

花田さんによると、「トンネル特化のツアーは日本初だと思う」。今回は、50代や60代を中心とした男女21人が参加し、歴史のあるトンネルの奥深い魅力を味わいました。

花田さんの「マイベストトンネル」へ

「宇津ノ谷明治トンネル」に向かう道。旧東海道の宿場町の石畳の上を歩く

今回訪れたのは、静岡県の山間地域にある4つのトンネルです。東京駅前を午前8時にバスで出発し、1日かけて巡りました。花田さんは参加者と一緒に歩きながら、その成り立ちや使用目的、トンネルにまつわる雑学などを紹介しました。

花田さんが「マイベストトンネル」と語るのは、「宇津ノ谷明治(うつのやめいじ)トンネル」(静岡市)です。近くまでバスで移動し、旧東海道・宿場町の中を歩きながら、山中のトンネルに向かいました。

花田さんが「ワクワクする」という坂道

トンネルに向かう坂道を上っていると、花田さんが興奮気味に「このあたりです。もうワクワクします」と話します。「さあ、くるぞ!と。このワクワク感が非常に大事です」。参加者には笑いが広がりました。

「ではみなさん、いよいよです。今日のメインディッシュ、宇津ノ谷明治トンネルです」。歴史を感じさせる煉瓦づくりのトンネルが姿を現しました。参加者からは「わあ、すごい!」と声が漏れます。

宇津ノ谷明治トンネル

宇津ノ谷明治トンネルは1876年(明治9年)に建造されました。1904年(明治37年)に火災が発生した後、現在の姿に改修されました。トンネルの長さは203メートル、幅は5.4メートル。日本ではじめての有料トンネルであり、現在の有料道路のはしりといえるとのことです。

宇津ノ谷明治トンネルの内部。煉瓦の積み方の違いを説明

興奮した様子の花田さんと一緒に薄暗いトンネル内へ。煉瓦の積み方などを丁寧に解説します。花田さんは「明治時代の煉瓦の美しい造形美を見てください。まだ当時の煉瓦を使っているのに、雨漏りもほとんどありません。よくぞここまで作ったなと思います。当時の方々に敬意を表したいです」と話しました。

宇津ノ谷明治トンネルの内部。「インスタ映え」するカンテラ(照明)

天井のオレンジ色のカンテラ(照明)がレトロチックです。煉瓦づくりが綺麗な色で照らし出されています。「ここはインスタ映えスポットです」と花田さん。

参加者の60代の女性は「最高ですね。来て良かったです。古いトンネルなのに、意外と綺麗で歩きやすかったです。新しいものはお金をかければ作ることができるけれど、伝統のある古いものはもう二度と作ることができない。とても貴重だと思います」と話していました。

現存していることが「奇跡的」

巌井寺トンネルに向かう道

一方、花田さんが「現存しているのが奇跡的」と語るのは、「巌井寺(がんしょうじ)トンネル」(掛川市)です。近くまでバスで移動。花田さんが先頭を切って、近くに廃工場がある人通りの少ない道を歩いていきます。すると、苔(こけ)むした外観のトンネルが見えてきました。

巌井寺トンネル

巌井寺トンネルは、1905年(明治38年)建造の煉瓦トンネルです。長さは137メートル、幅は3.8メートル。周辺地区の茶や米の輸送などのために、地元の有志が資金を出し合って建造したとのこと。現在も使用されていますが、近くに新しいトンネルがあるため、いつ閉鎖されるかわからないといいます。

巌井寺トンネルの「扁額(へんがく)」

花田さんはトンネル入り口の上部にあるプレート「扁額(へんがく)」に着目します。「この苔むし感を見てください。なかなかの荒廃ぶりですね。トンネル好きとしてはたまらないです」。

巌井寺トンネルの内部

参加者の50代の男性は「少し不気味な雰囲気ですが、歴史を感じます。明治の人々の心意気が伝わってきます。こういうトンネルはなくならずに、今後も残ったらいいなと思いました」と語っていました。

ツアーでは、宇津ノ谷明治トンネルと並行する「宇津ノ谷大正トンネル」や、巌井寺トンネルの近くにあって同時期に建造された「檜坂トンネル」も訪れました。4つのトンネルを見ることで、参加者にそれぞれの歴史的な価値を感じてもらいました。

「地域にあるものを活かす」重要さ

ツアーのバスの中で話すトンネル探求家の花田欣也さん

帰りのバス内で、花田さんは「あるものを活かす」という言葉を紹介しました。人口が減少している地域では、新しいものを建造することは難しい状況にあります。しかし、それぞれの地域には歴史のあるトンネルなど素敵なものがたくさんあります。すでにあるものを今後も資源として活かしていくことの重要性を力説しました。

トンネルツアーの終了後、花田さんはガイド役をした感想を次のように語っていました。

「みなさんが意外と興味を持ってくださって嬉しかったです。『これは要石がありませんね』と専門用語を使って話してくださる方もいました。また、トンネルの煉瓦の建造の仕方など、私も気づかなかった点を指摘してくださる人もいました。今後も、トンネルの素晴らしさを伝えていきたいと思います」

それに呼応するように、ひとりで参加した50代の女性は満足そうに話していました。

「トンネルは自然と一体化していると感じました。昔の人が作ったものと、昔からの自然がそのまま残っている。当時の技術者の方がどれだけ頑張ったんだろうと想像しました。今度はもう一度、ひとりで見にきたいと思います」

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