閉園する「としまえん」 ひとりで遊びにいったら、いつのまにかビールで1杯やっていた

「としまえん」の回転木馬は100年以上の歴史があるという

この夏、遊園地「としまえん」(東京都練馬区)が、94年の歴史に幕を閉じました。

8月31日の閉園を前に、おっさんがひとりで遊びに行ってみました。学生時代、友人たちと「そういや『としまえん』って、行ったことないよね?」と盛り上がり、遊びにいって以来、20数年ぶりの訪問でした。

「としまえん」は、東京都の北部にあります。「としまえん」なのに豊島区ではなく、隣の練馬区にあるというのが、「あるある」のひとつです。

ここ数年は、インスタ映えのするナイトプールや打上げ花火で盛り返していたようですが、筆者が学生だった頃は「お子様向けの地元密着型遊園地」というイメージがありました。ゆえに、おのずと足が遠のいていたのです。

一部をのぞくアトラクションに乗り放題できる「1日券」

ネット予約制なのに「行列」ができていた

8月上旬。「としまえん」のサイトを見ると、新型コロナウイルスの影響で、入場券がネットでの予約制になっていました。3日後の「のりもの1日券」(4300円)を購入しました。一部を除くのりもの(アトラクション)に好きなだけ乗れる、いわば「パスポート」です。

当日の朝10時半ごろ、池袋から豊島園行きの電車に乗りました。西武池袋線は、練馬駅で枝分かれしています。隣の豊島園駅までの、わずかひと駅の区間が「西武豊島線」であることを、この日初めて知りました。

電車を降りると、家族連れや若い人たちが降りてきました。園内のプールが目的とみえ、すでに浮き輪を抱えている子供の姿もありました。

ネットで購入したチケットを見せ、紙の入園券をもらう

改札から徒歩1分ほどで入場ゲートに着いてびっくり。人が列をなしているのです。ネット予約制だったので、入場者数を絞っていると思いこんでいました。10分ほど並んでようやく入園できました。

しばらく歩くと、かつて「わなげ」があったと思われるブースがありました。このご時世のせいでしょうか、スタッフもいなければ、肝心の「輪」もなく、ただその痕跡だけがありました。

「わなげ」の痕跡。ベンチの代わりに腰かける人もいた

そのすぐ後ろにあった「ブラワーエンジン」に乗ることにしました。狭い範囲をぐるぐると回るコースターです。すでに10人ほどが並んでいます。筆者のすぐ後ろには家族連れが並びましたが、自分が「ひとり」であることは、あまり気になりませんでした。待ち時間数分で順番がまわってきました。

アトラクションはソーシャルディスタンスをとりながら

ソーシャルディスタンスをとるため、一列おきに座るルールです。家族や友人と来ている人は2人ずつ並んで座るのですが、筆者はひとりでシートを独占することになります。このときは、待っている人たちに申しわけない気がしました。

それでも動き出すと風が気持ちよく感じられ、声をあげたり手をあげたりこそしませんでしたが、十分に楽しめました。

列は長いが、ソーシャルディスタンスをとるため、一度に乗れる人数は少ない

続いて「フライングパイレーツ」の列に並びました。いわゆる「海賊船」です。昼近くになって入場者が増えたのか、長い列ができています。最後尾からは「船」の姿が見えず、どれくらい待つのか想像もつきません。

すぐ後ろに並んだ男女の会話が聞こえてきましたが、「暑いですね」「そうですね」と丁寧語で、どうも初めてのデートらしい様子。順番を待つあいだに険悪な雰囲気にならないかと、余計な心配をしてしまいました。

汗をふいたり水を飲んだりしながら40分以上並び、ようやく自分の番が近づいてきました。こちらも1回に乗る人数を限定し、グループごとに離れて乗るようです。このころには、後ろの男女もタメ口で話していました。

左右に大きく揺れる「船」を見上げていると、ちょうど筆者と同年代の40代ぐらいの女性がひとりで乗っているのに気づきました。他の乗客が悲鳴をあげるなか、女性は笑っているようにも見えます。「ひとりを楽しむ人」はどこにでもいるんだなと感心しました。

カルーセルエルドラド

問題は「船」に乗ったあとでした。前回訪れたときは20代前半だった筆者も、今では40歳を過ぎています。ふいに疲れが襲ってきたのです。気温が37度と暑いこともあって、次のアトラクションに並ぶ気力がわきません。

子供のころ大好きだったミラーハウスや、「としまえん」の代名詞でもある回転木馬「カルーセルエルドラド」など、行きたいところはいくつもあるのですが、長い列を見ると足が止まってしまうのです。

そしてついに動けなくなった……

園内をうろうろしたり、木陰でジュースを飲んだりしたすえに、「ミステリーハウス」(お化け屋敷のようなもの)に入ることにしました。薄暗い館内をカートで移動するのですが、冷房が効いて涼しいのと、ひとりで乗るのとで、思っていた以上に孤独感があり、声をあげそうになるほど怖く、精神的にも涼むことができました。

来場者が思い出を書いた付箋が貼られていた

しかし、外に出るとまたも炎天下。ベンチに座って水筒に入れてきた水を飲み始めたら、立ち上がる気力が限りなくゼロになってしまいました。自分自身に「のりもの1日券だぞ、のりもの1日券なんだぞ」と言い聞かせましたが、ダメでした。

子供を楽しませたいとか、彼女と少しでも一緒にいたいというモチベーションのない「ひとり」では、すぐに甘えが出てしまいます。気がつくと、いつのまにか「としまえん」を出て、駅前の中華料理店でビールを注文していました。

店内には、おじさんおばさんのグループが複数いました。皆、昼間からビールや焼酎を飲んでいるので、やがてテーブルを越えての会話へと発展しました。

「『としまえん』が閉まるというので息子夫婦や孫と来た」とおじさんAが言うと、こちらのおじさんBは「うちは娘夫婦を誘ったんだけど、面倒くさいって言われちゃって」と返します。店の女将さんは「しばらく寂しくなるわね」としんみり。

いつのまにか、いつもの流れに

さらに別のおじさんからは「海賊船(筆者が乗ったフライングパイレーツの前にあったひと回り小さなタイプ)ができたときには、近所に住んでるからってことで『試運転』に参加したんだ。だからあれは俺が第1号だよ」という自慢話も飛び出ししました。

思ってもいないところで「としまえん」トークを聞くことができました。

2本目のビールを飲みながら、おじさんやおばさんの話にうなずいたり、笑ったりしているうちに、またたくまに時間が過ぎていきました。

会計を済ませると、「海賊船第1号」のおじさんが「騒がしくしちゃってごめんね」と声をかけてくれました。筆者は「いえ、楽しかったです。また来ます」と笑って店を出ました。

「としまえん」の跡地には『ハリー・ポッター』を題材にした施設ができるそうです。そのときにもまた、この店であのおじさんおばさんと会いたいなと思いました。

当初の想定とは違うものになりましたが、大人の「としまえん」遊びができた1日になりました。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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