女ひとり、3度目の海外移住。婚約破棄からカナダに新恋人を見つけるまで

オーストラリアに住んでいた頃の夏美さん
オーストラリアに住んでいた頃の夏美さん

35歳でひとり、海外へ移住した夏美さん(仮名・37歳)。海外に移住するのはオーストラリア、韓国に続き3度目です。2度の移住と婚約破棄を経て「やっぱり海外に住みたい」と再チャレンジした彼女に話を聞きました。

25歳でオーストラリアへ

兵庫県出身の夏美さんが、卒業文集に書いた将来の夢は「建築士」。きっかけは阪神・淡路大震災でした。

「当時は小学生で、実家が半壊しました。すごく怖かったから、家が壊れる不安をなくす仕事がしたいと思って」

夏美さんが初めて海外へ行ったのは高校生のときです。学校で交換留学の張り紙を見て興味を持ち、オーストラリアに3週間滞在しました。

「着いたのが真夜中で、そのままホテルに泊まりました。朝起きて窓を開けると、遮るものが何もない景色が広がっていて、別世界に来た! と。楽しくて嬉しくて仕方がなかったです」

日本と違う空気にすっかり魅了された夏美さん。帰国後は大学の建築学科に進学しました。

「本当は海外で建築の勉強がしたかったのですが、親に却下されました。それなら大企業に入ってお金を貯め、誰にも文句を言われない状態で行こうと思いました」

一度決めたら努力を惜しまない夏美さんは、大手ハウスメーカーに就職。25歳で退職し、念願のオーストラリアへ移住します。そこで人生を変える出会いがありました。

「語学学校で韓国人の彼氏ができました。とても真面目で優しい人で、結婚を意識するようになりました」

夏美さんはオーストラリアで働きながら、英語教師の資格を取得します。2年後には結婚準備のためいったん日本へ戻り、働きながら日本語教師の資格も取りました。英語と日本語を教えることができれば、韓国でも生活費を稼げると考えたのです。その間、韓国で働く彼とは遠距離恋愛をしていました。

「オーストラリアの生活は充実していた」と振り返る夏美さん

韓国で直面したお金の問題

夏美さんは28歳で韓国に渡りました。

「やっと遠距離恋愛が終わる! ってすごく嬉しかったです。でも、良かったのは最初だけでした」

夏美さんを苦しめたのは彼の家族の経済状況でした。月1万円ほどの年金暮らしの両親と持病がある兄弟2人の生活費を、長男である彼がすべて支払っていたのです。

「お金がないのが精神的につらかったです。家族の生活費だけで毎月20万円以上の出費。彼の収入だけでは足りず、私も日本語教師と英語教師をかけもちしてなんとか生き延びていました」

2年間、2人でがんばったものの、希望は見えませんでした。「このまま結婚しても、いずれ生活が破綻してしまう」と感じた夏美さんは帰国を決意。日本で働いて貯金し、また韓国に戻るつもりでした。

「帰国後のことはよく覚えていません。何も買わず遊びにも行かず、1円でも多く貯金することだけ考えていました。あとから母に『あの時の夏美はお金の話しかしてなかった』と言われたぐらい」

そんな生活を2年続けても、彼の経済状況がよくなる気配はありませんでした。

「会いに行きたいと伝えても、『そんなお金を使うな』と言われすごく寂しかった。何のために頑張っているのか分からなくなりました」

夏美さんはついに別れを決意します。

「7年つきあって、私はもう32歳。こんなに思ってくれる相手は二度と現れないだろうなと、別れを告げるまで半年ぐらい悩みました。彼は色々と背負いすぎて鬱になっており、見捨てる罪悪感もありました」

別れた後の夏美さんは限界まで仕事を詰め込み、「かろうじて生きていた」といいます。気づけばお金が貯まっていました。「もう結婚することもないだろうし、自分に投資しよう」とやっと前向きになれた頃、かつて夢見た「オーストラリアで勉強したい」という思いがよみがえってきました。

オーストラリアに振られ、カナダに救われた

しかし調べてみると、以前よりオーストラリアのビザ取得が難しくなっていたのです。さらに夏美さんを迷わせたのは、派遣で働いていた会社からの正社員への誘い。大阪から東京本社へ、好条件での引き抜きでした。

30代も半ばになり、海外移住は最後のチャンスかもしれないと思う反面、このまま日本にいれば安定した将来が見込めます。貯金を移住で使い切ってしまう怖さに加え、老いが見え始めた親への心配もありました。夏美さんは、気持ちは海外に惹かれながらも、決断できない日々を過ごします。

「東京で住む場所の下見までしましたが、『やっぱり無理です』と断りました。今の仕事を続けていれば安心ですが、なにか違うと思って。日本独特の意見がはっきり言えない空気や、出る杭は打たれる雰囲気がずっとしんどかったから」

そして、たどり着いたのがカナダ。大学で建築が学べて、卒業後もビザがもらえる制度があったのです。夏美さんはこれが最後のチャンスとカナダに渡りました。

しかし、35歳での再出発は予想以上に大変でした。「二度と失敗できない」と肩に力が入すぎて、クラスメイトが全員ライバルに見える孤独な毎日。ストレスで食欲がなくなり、体重もかなり減りました。

ガチガチに凝り固まった心をほどいてくれたのが、新しい恋人との出会いです。彼はカナダに住む韓国系移民の2世。「がんばりすぎなくていいんだよって、いつも寄り添ってくれることに救われました」

夏美さんが住む町の空。多様性がありアジア人だからと目立つことはない

彼の家族は韓国文化に詳しい夏美さんを大歓迎してくれました。「色々つらいことがあったけど、すべて今につながっている。彼の家族の優しさを身にしみて感じます」

今年大学を卒業し、カナダで就職活動を始める夏美さん。今後のことを聞きました。

「このままカナダに住み続けたいですね。唯一心配なのは、日本の家族のこと。何かあったときにすぐ駆けつけられない不安があります。でも、私の人生も大切。今が本当に幸せです」

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ヒトミ・クバーナ (ひとみ・くばーな)

メキシコ帰りの関西人ライター。夫はメキシコ人。大学で演劇を学んだ後、劇団活動をしながらバーテンダーなどのアルバイトを転々とする。27歳でキューバにスペイン語留学し、30歳でメキシコに移住。結婚を機に帰国後、フリーのライターとなる。趣味はひとり旅、ひとり飲み、ひとりお笑いライブなど。

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