「いい歳をした独身」は信用できないか? ツイート炎上騒動が示す社会の現状

イメージ(Photo by Getty Images)
イメージ(Photo by Getty Images)

ある大阪のソフトウェア開発会社が、会社のTwitterアカウントに「いい歳していつまでも独身の人は信用しない」という旨のツイートを投稿して、批判をされているようだ。

僕自身も見た瞬間、なんて言い草だと腹も立ったが、いろいろ考えてみるに、腹を立てるだけで済む問題じゃないということに気がついた。

騒動の発端となったツイート(Twitterより)

「男は家族を養って一人前」という時代

かつて、高度経済成長時代において、男は一人で稼いで家族を養うことが「当たり前」だった。社会的に「当たり前」と思われる存在であるということは、そのまま社会的信用を得ていることと等しい。

そのような時代においては、妻と共働きであることすら「当たり前ではないこと」とされた。一人の稼ぎでは家族を養えない甲斐性のない男として、信用の低い存在と見下された。

結婚してても見下されるのだから、当然「いい歳をした独身」など、奇人変人扱いであった。統計を見ても1950年代までの生涯未婚率(50歳までに一度も結婚したことがない人の割合)は男女ともに1%台。大半の人が結婚していたのである。

今でもごく稀に、古い価値観を持った男性が結婚した途端に、女性に対して「女性は家に入るべきだ」などと言い出して問題を引き起こすことがあるが、「男性は家族を養って一人前」そんな価値観が社会的信用として扱われていた時期もあったのである。

結婚はコミュニケーション能力を測る指標

それから時代は流れて現在。男女雇用機会均等法の成果か、それとも長引く不況の影響か、男一人が大黒柱として家族を養うようなことはごく一握りの階層でしか実現できなくなり、大半の家庭では男女共働きが当たり前となった。

生涯未婚率も、2015年時点で男性が23.4%、女性で14.1%になり、「いい歳をして独身の人」は身近な存在になった。

生涯未婚率(五十歳時未婚率)とは、調査年に50歳の男女のうち、結婚歴のない人の割合を指すものであり、国勢調査によって調べられている。国勢調査は5年に1度、次は2020年でバブル末期世代の調査。さらにその次は2025年で、いよいよ就職氷河期世代の調査になる。生涯未婚率の数値はこれまで以上に跳ね上がるだろう。

そんな独身であることがめずらしくない今の時代では、「独身の人は信用しない」という価値観は過去のものになったかと言えば、そうではない。端的に言って結婚はコミュニケーション能力の象徴となった。

結婚している人というのは、結婚という関係性を作り上げることができるほど、他者に深くアプローチできる人である。そのようなコミュニケーション能力は、会社が欲しがるものである。

毎年のように就職シーズンになると「会社は就活生に何を求めているか」という内容の記事が出てくるが、コミュニケーション能力は必ず筆頭に上がる。そうした意味で、会社がある程度の年齢の人に対して、コミュニケーション能力を示す「履歴」の1つとして結婚しているか否かを見ることは、むしろ合理的な判断であると言えるだろう。

既婚と未婚の格差問題

さて、以上を踏まえた上で「いい歳していつまでも独身の人は信用しない」と公言する会社は、叩かれて当然なのだろうか?

残念ながら、会社が誰を信用するかしないかは、会社自身の自由である。それを他人が批判しても何ら意味がないのである。とはいえ、そのような考え方の会社が増え、結婚していることが就業の条件になってしまうと、独身者は極めて不利な状況に置かれてしまう。

特に男性の場合、年収の高さと結婚率が比例を示していることから、結婚をしている人は年収が高く、転職などで信頼され有利な条件を得られやすい一方で、結婚をしていない人は年収が低く、条件も不利になってしまう。そして、不利な条件で働かざるを得ないから、結婚からも遠のくという、「不利のスパイラル」に陥ってしまう可能性があるのだ。

「いい歳をした独身は信用できない」という認識が示す問題は、単純に結婚していないというだけではなく、同時に格差問題でもあるのだ。

一見理不尽のようにも思えるが、履歴書に記載された職歴が良いものであればあるほど有利であるのと同様に、結婚もまた「履歴」であるとすれば、「いい歳をした独身は信用できないとする会社」の方針も受け入れざるを得ないのである。

なかなか実際に口にする人はいないが「いい歳していつまでも独身の人は信用しない」と考え、結婚している人を重用することには一定の合理性が存在する。

もはや会社は「いい歳をした独身者」を必要としていない。若手と結婚をして家庭をもつベテランだけでいい。残念ながらそれが日本の現状である。

このことをしっかり認識しなければ、「いい歳をした独身者」に対する、いかなる施策や支援活動も失敗に終わるだろう。

「いい歳していつまでも独身の人は信用しない」とハッキリと口に出した会社に対し、感情的に反発をしても虚しいだけなのである。

この記事をシェアする

「独身の結婚観」の記事

DANROクラブ

DANROのオーサーやファン、サポーターが集まる
オンラインのコミュニティです。

もっと見る