コロナ感染「1人暮らしは自宅を病床に」小池発言に見えた「行政の本音」を忘れてはならない

東京五輪まっただなかの7月28日。東京都の小池百合子都知事は、新型コロナウイルスの新規感染者が約3000人と急増したことを踏まえ、報道陣の取材に応じた。

小池都知事はコロナ感染者の自宅療養に触れ、「特に1人暮らしの方々などは、自宅も、ある種、病床のような形でやっていただくことが、病床の確保にもつながるし、その方の健康の維持にもつながる」と発言した。

新型コロナの新規感染者が増えている状況で「病状の軽い人は自宅療養で」と考えるのはわからなくもない。もちろん病床を用意するのが行政の責任であるが、仕方のない部分もあるだろう。

しかし、僕が思ったのは「なぜ1人暮らしの人なのだろうか?」ということである。どうして、1人暮らしなら自宅療養で大丈夫と思ったのだろうか?

1人暮らしの自宅療養は「食事」が大変

同居している親や子供がいない「2人暮らし」の若い夫婦に自宅療養を勧めるというのであれば、話はわかる。感染の危険があるが、健康な1人が相方の食事や洗濯の世話をすることができるだろう。

しかし、1人暮らしの人はどうやって自宅療養をするのだろうか?

政府はどうやら本音では、軽症だけでなく中等症の患者まで自宅療養させたいようだ。新型コロナは軽症でも、高熱で身体を動かすこともままならないことがある。さらに中等症は呼吸困難や肺炎が起きている状態だから、自宅療養しろと言われても無理がある。

病院であれば点滴を使うなどして栄養状態を保てるが、自宅では点滴もままならない。入院していれば病院食が出るし、ホテル療養でもすぐに食べられる状態の弁当は出る。しかし、自宅療養では自分で料理を用意しなければならない。

コロナに感染して自宅療養になると、カップ麺などが送られてくるらしいが、病気のときはお湯を沸かすのだって大変である。しかも今は真夏だ。病人が真夏に暑い台所でお湯を沸かす。その苦労を想像できないのだろうか?

まぁ、行政の上のほうの皆さんは「蛇口をひねればお湯が出る家」に住んでいて、食事も自分で作らなくてすんでいるので、台所で暑い思いをすることを想像できないのかもしれない。なんとも便利で羨ましいことだ。

今の世の中にはUber Eatsなどの食事の宅配サービスがある。それを使えばいいと思う人もいるかもしれない。だが、配達員を仕事として選ぶ若い人の中には、ワクチンを接種したくてもできない人も多いだろう。それによる感染リスクを無視することはできない。

日本のワクチン接種は、医療従事者と高齢者を優先し、若者の接種は後回しになった。本来ならば、Uber Eatsの配達員のように人と接する回数が多いエッセンシャルワーカーを次に優先すべきだが゙、そうではなく、職域接種という「大きな会社に所属している人からワクチンを打つ」方式を選んだ。

そのため、Uber Eatsの配達員のような非正規労働の若者がワクチン接種を受けられない事態が生じているとみられる。

ワクチン接種が進んでいない日本で、自宅療養の場にUber Eatsなどの配達員を呼ぶことは、新型コロナを相手に感染させてしまうリスクとなるのである。

自宅療養の推進は「医療放棄」と同じ

入院療養であれば、深夜に急な体調変化があったとき、ナースコールをすることもできる。だが、自宅療養をしている1人暮らしの家に夜中、看護師が駆けつけるなど現実的ではない。それどころか、1日1回の訪問だってできるとは思えない。

そもそも自宅療養で入院患者を減らすことができても、患者が遠く分散することによって医者や看護師の手間はかえって増えるのである。

医療リソースの逼迫が問題になっているときに、軽症や中等症の患者を1つのところに集めて医療リソースを削減するのではなく、患者を分散させて医者や看護師の手間を増やしてどうするのか。

結局、自宅療養は実質的に「医療放棄」と同じなのである。

僕は1人暮らしで40代半ばだが゙、幸い大きな病気をしたことがない。せいぜいインフルエンザにかかって、数日間、自宅に籠もっていたことがあるくらいだ。

ただ、それでも「1人暮らしの自宅療養」は楽ではなかった。起きていても辛いし、横になっていても辛い。トイレに行くだけでも辛くて嫌だった。病気になって高熱が出れば、人は基本的に何もできないのである。

小池都知事だって、高熱を出したことくらいはあるだろう。その高熱のときに自分ひとりで何ができたかを考えれば、1人暮らしの自宅療養など不可能に近いことはわかるだろう。ましてや「その方の健康の維持につながる」ことなどあり得ない。

むしろ僕には「1人暮らしは貧しい人が多いから、新型コロナのついでに数を減らしたい」と考えているとしか、思えないのである。

これを書いている時点で、東京都の新型コロナ新規感染者数は一時的に5000人を突破した。

今後どうなるかはわからないが、少なくとも楽観的ではいられない。僕も自身の健康はもちろん、社会のためにも、少しでも早く新型コロナの蔓延が収束してほしいと思っている。

だからこそ、行政の長が間違ったことを言ったときは厳しく批判しなければならない。

また、混乱に乗じて「1人暮らしを減らしてやろう」という行政の本音がチラリと見えたことを、決して忘れてはならないのである。

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赤木智弘 (あかぎ・ともひろ)

フリーライター。1975年生まれ。就職氷河期世代としての問題意識を中心にいろいろと発信中。最近は、スーパー銭湯などのサウナ施設を回ったり、辛い料理を食べることがマイブーム。一人暮らしなので、すこしでも生活に潤いを生み出して行きたい。

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