冷たい視線を浴びても「住宅見学」では床に座るべき

(イラスト・古本有美)

家を見学するときは遠慮しないで座りたい

住宅メディアの編集者という職業柄、実際の住宅を見学することがよくあります。ハウスメーカーのモデルハウスから新築マンションのモデルルーム、建築家のオープンハウスからリノベーション会社のショールーム、賃貸住宅、実際に住んでいる方のお宅訪問まで、あらゆるタイプの住宅を見学してきました。

こうした住宅を見学する時のコツやセオリーのようなものはいくつかあるのですが、特に意識しているのは、シンプルに「腰を下ろすこと」だったりします。

実はこれが意外と難しいのです。特にマスコミ・メディア向けの見学会だと、たくさんの記者や編集者たちと共にぞろぞろと部屋をまわりながら、説明を聞いたり撮影をしたりするので案外余裕がないのです。

次から次へとベルトコンベヤーのように見学隊が複数の居室を巡っていくこともしばしばなので、のんびりと腰を下ろしている暇なんてありません。それどころか、ソファに座り半ば体をくねらせてリラックスモードになったならば、「こいつは何をやっているんだ?」という冷ややかな目を向けられることさえあります。

家は見るためじゃない、住むためにある

しかし、ここで断固主張したいのですが、住宅を見学するときには必ず腰を下ろすべきです。なにせ住むための家なのです。ショッピングに来ているわけでは毛頭ないわけです。

ソファどころか、本当であれば床に腰を下ろすべきだと思っています。だって、ソファがあったとしても、そのソファを背もたれにして床にすわったりするではないですか。さらに言えば、リビングでごろ寝もしてみるべきなのです。

同じ意味で、バスルームであれば湯船に入るべきだし、トイレなら便座に腰を下ろすべきなのです。あと、普段スリッパを履かない方は、スリッパを脱いで歩き回ってみるのもおすすめです。

床に座ることで見えてくるもの

腰を下ろすことで、窓から見える景色も変わる(イラスト・古本有美)

腰を下ろすことで空間の見え方、感じ方は大きく異なってきます。降り注ぐ光も変わるし、窓から見える景色も変わります。座ってみたら、隣の建物からまる見えだったことに気づいた、なんてこともあります。

優れた住宅の設計者ならば、暮らしたときの住み心地・居心地を追求した家をつくるわけですから、座ったときの空間も体感しなければその家の真価はわからないのです。

そう私は信じ込み、冷たい視線や「とっとと移動しろよ」というプレッシャーに耐えながら、住宅見学のさなか、今日も腰を下ろすのです。本当は床にごろ寝もしたいところなのですが、さすがにそこまでやると二度と呼んでもらえない恐れがあるので、そこはなんとか我慢するようにしています。

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松本宰 (まつもと・おさむ)

編集者。住まいのマッチングサイト「SUVACO(スバコ)」とリノベーション専門サイト「リノベりす」の編集長。住宅に限らず、己が心地良い居場所を探し求めてさまよう日々。好きなものはお酒と生肉とラーメン。

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