コロナ禍の自粛がもたらした「あいまいな東京の風景」クールに写し撮る

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、発せられた緊急事態宣言。日本に暮らす人々の大半が「自粛生活」を強いられました。そのとき、人口1000万人のメガロポリス・東京はどんな光景となったのか。そんなテーマの写真集『東京自粛 SELF-RESTRAINT, TOKYO』が11月1日に発売されました。
撮影したのは、フォトグラファーの時津剛さん。自宅のある新宿を中心に、渋谷や銀座、浅草など、コロナ禍の東京を歩き、街の様子を「スキャンするように」カメラで記録していきました。
「感染症が大都市に与えた影響をどうやって可視化するのか? 困難な問いに写真家が出した答えは言葉と音が失われた都市風景を私的なまなざしで記録することだった」
写真集の帯には、写真評論家のタカザワケンジさんのこんな言葉が並んでいます。ここに記録された「コロナ時代の無防備都市」の情景から、私たちは何を感じとることができるでしょうか。

「最初は外へ出て撮影することに迷いがあった」
写真集『東京自粛』の最初のカットは、緊急事態宣言が出た4月7日の写真。テーブル上に置かれた新聞夕刊の一面に「緊急事態宣言」という文字が大きく刷り込まれています。
この日から、私たちの生活は大きく変わりました。前例のない自粛生活に突入したのです。
ただ、写真集で、東京の「街の風景」が登場するのは、4月26日から。約3週間、あいています。なぜかといえば、撮影者の時津さんに「本格的に外に出ていって写真を撮るべきかどうか」という迷いがあったからです。
「新型コロナウイルスは未知のウイルスで、どういうものか分からない。これまでにないことが起きているので、フォトグラファーとして何か記録しないといけないと思いつつも、外に出ていくことにためらいがあったんですよね」

しばらくは自宅周辺を歩きながら、メモ程度に撮影するだけでした。しかし、自粛生活が長引く中で「今の東京の風景をきちんと記録すべきだ」と思うようになります。
「いろんな写真家が『ステイホーム』というキーワードで写真を撮っていて、ネットで写真展が開かれたりしていました。ただ、どうしても視点が内向きになってしまう。将来的に、街の風景がまとまった形で残らなくなってしまうのは良くないのではないかと考えたんですね」
そして、時津さんは、コロナ禍の街の風景を「クールな視点」で写真に記録していくことを決意したのです。