美学を貫くフラワーデザイナー・元山力さん(花と暮らす 1)

(撮影・時津剛)
(撮影・時津剛)

記念日や特別なシチュエーションだけでなく、気軽にセンスよく花を楽しみたい。そんな人が増えています。食卓に、玄関に、洗面台に、トイレに、さりげなく飾られているだけで、花は暮らしを明るく彩って豊かにしてくれます。ひとりの時間を満ち足りた、上質なひとときにするために、花とどう暮らしたらよいのか──。花や緑を愛するプロフェッショナルたち。その極意を聞き花と生きる彼らの人生にも迫ります。(取材・志賀佳織)

花屋で迷う男性の方へ

THOM BROWNE.の、犬のジャカード生地ジャケットにおそろいの柄のネクタイ、そしてカンカン帽といういでたちの紳士。第一園芸チーフデザイナーの元山力さん。「ファッション誌からそのまま抜け出てきたような」おしゃれなスタイルに、目が釘づけになりました。

元山さんが働く日本橋は、場所柄、社用や年配のお客さんが多い。ところが、最近は勤め帰りの20~30代の独身男性がよく訪れるようになったといいます。

「最初はネットで検索していらしてくださるんだと思います。おそらくお花屋さんにはあまり入ったことがないという方々なのでしょうね。お店にいらっしゃっても、最初はどうしてよいかわからず戸惑ってらっしゃる方が多いです」

女性のお客さまの場合、花屋さんに入ることに抵抗はありませんが、男性のお客さまの場合は、まだ、なかなかそうはいかないようです

「男性のお客さまの場合、目的なくお店に入ってこられることはありません。そこは、一番気をつけているところです。ですので、入っていらしたら、お客さまに迷う時間を与えないように、すぐにお声がけします」

入社以来、店頭でのお客さま対応から、ウエディングや大きな宴会のフラワーデザインまで幅広く手がけてきた元山さん。お客さまが何を探しているのか、どんな用途なのか、丁寧に聞くように心がけているといいます。「ピンクを加えたい」というお客さまに、淡いピンクを提案するのか、深い色を勧めるのか、長年のキャリアと審美眼で、サッと瞬時に判断。上質なおしゃれを愛し、書道や茶道、万葉集など「和」の世界を楽しむ趣味人としての奥行きも、それを支える大事な要素になっています。

(撮影・時津剛)

お店に入ることにとまどいやためらいがあっても、花を選ぼう、贈ろうと思った時点でお客さまの思いは深い。特に独身男性のお客さんの場合、注文の仕方も用途もドラマティックであることが多いといいます。

「当店がある日本橋三越本店の隣には、マンダリンホテルがございます。『これからプロポーズに行くので、バラの花束を100本届けてほしい』というオーダーもございましたね。そのお客さまは後日、女性とお二人でそのバラを持っていらして『これを押し花ブーケにしてほしい』とリクエストされました」

花を贈るとき、もっとも大切にしたいのは、相手が喜んでくれるかどうか。その花を通じてこちらの思いが伝わる、そんな理想の花束作りをするための第一歩は、店員にできるだけ具体的な用途や希望を伝えること。

「たとえば『結婚記念日に妻に花を贈りたいんです』となったら、お好きな色とかバラがお好みとか、奥様の好みが何かしらあると思うんです。以前、結婚1周年の記念日に花を贈りたいというお客さまが、結婚式のブーケの写真をお持ちになって『こういうイメージで』というのもありました」

花束はオーダーメイドで贈るもの。店員が受け取る人をイメージできるよう、どんな小さな情報でも伝えることが、花選びのポイントのようです。

自分の生活スタイルに合わせて花を愛でる

実際にカメラマンが花束を作ってもらうことにしました。注文は「11月の結婚記念日に妻に贈る花束」。

「奥様のお好きなお色は?」「ふだん、どんな色のお洋服をお召しになりますか?」。気さくに問いかける元山さんの話術に、「日頃、花など贈ったことがない」と緊張気味のカメラマンも、顔をほころばせ、あれこれ思い出しながら答えていきます。

それを聞きながら、元山さんの右手があちこちの花材に伸びて、ひとまず仮でまとめられた、左手の花束の中に加えられていきます。「淡い色が好き」という言葉から、シルクのドレスを思わせるようなアイボリーのバラや淡いピンクのあじさいなど、珍しい品種の花をそろえました。

(撮影・時津剛)

「11月ということで、秋の花、ホトトギスも加えてみました。こういう月の花、思い出の花をひとつ入れるのも、ポイントですよね。このバラとアジサイはドライフラワーになるんです。ですから1年ぐらいは楽しんでいただけます。来年の結婚記念日には違うお花をプレゼントしてさしあげると、奥様もよろこばれるのではないでしょうか」

誰かに花を贈るのも楽しいですが、気軽に自分で楽しむことも覚えると、ひとりで過ごす時間や空間も、より充実した心浮き立つものになりそうです。

「まずはそのお花のメンテナンスに、どのくらいの時間をかけられるのか。たとえば2~3日に1回、水を換えることができる方であれば、お店で切り花などを買ってくることは可能だと思います。『いや、自分は週末にしか手入れはできないよ』という方であれば、葉っぱものや枝もので季節感が出る素敵な品種を飾ってはいかがでしょう。観葉植物の小さな鉢植えでもいいかもしれません」

「お花を飾るということに身構える必要は全くなくて、飾る器だって、花瓶でなくても、家にある蕎麦猪口でも、ウイスキーグラスでも、徳利でも、なんでもいいんです。特に男性には、そういった創意工夫が得意な方が多かったりしますよね」

幼少時から自分の花壇で花を育てて

元山さんが花に親しむようになったのは、まだ小学校に上がる前。とにかく植物や花が好きで、いつも植物図鑑を見ている子どもでした。

「祖父が植物の好きな人で、庭にあらゆる木が植わっていたんです。ビワも梅も庭でなりましたし、池も藤棚もありました。この祖父の庭に自分用の花壇を作ってもらいまして、パンジーやチューリップの球根を植えたり、好きにさせてもらっていました」

高校生になると数学に夢中になり、大学は数学科ばかりを受験したといいます。
「数学はひとつ理論を覚えれば、自分なりのひらめきで糸口を見つけて発展させていくことができる。今思えばフラワーデザインにも通じるところがあるのかもしれません。ところが全部落ちてしまって、唯一、合格したのが、得意な分野ということで受験した千葉大学の園芸学部だったんです。これはもう神様の思し召しなんだろうなと(笑)」

当時の千葉大学園芸学部は、植物の細胞ひとつを分析するなど、学術的なアプローチの研究が主流。元山さんの興味を必ずしも満たすものではなかったそうですが、「今考えると、『この植物の原産はどこで、どういうところに生えているからこういった使い方をするのにふさわしいんだよ』といったことを社内のレッスンなどで伝えられるので、基礎的な力にはなっているなと感謝しています」

競技会で優勝した作品だけでなく、ファッションも雑誌で取り上げられた(撮影・時津剛)

1986年に大学を卒業後、新卒で第一園芸株式会社に入社。以来、持ち前のセンスと才能で、フラワーデザインの分野でめきめき頭角を現し、2000年には、ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会で4位入賞を果たしました。

「花の仕事は大きく分けて、ホテルの仕事と店舗の仕事、あとは本社でデザインを考える仕事の3つがあるのですが、私の場合、そのすべてをさせていただけて、全部ができるようになりました。店頭でお花をお売りすることから、ウエディングや大きな宴会、祭壇作りまで、ひととおり学ぶことができました」

ピアノを弾いて気分転換

一旦仕事を離れたら、ピアノや書道が明日の活力の源。得意の曲はショパンのエチュード。書道は、大きな展覧会があるときには、2~3カ月かけて作品完成に挑むこともあるそうです。

「私は割とひきずるタイプなんですけれども、仕事を離れたら、なるべくほかのことをやって切り替えるようにしています。体を動かすといいみたいなので、スポーツをやらない私は、ピアノを弾いて気分転換をしてから次のことを進めたりしています」

10年愛用の花ばさみ(撮影・時津剛)

そして、ファッションも大事な趣味のひとつ。新しいものを次々に買いそろえるということはせず、今日履いている靴は、20年間大事に履いている一足。今もピカピカに磨き上げられています。上質な暮らしとは、流行や華やかさばかりを追い求めるのではなく、自身の美の基準や価値観に沿った形で身のまわりのものを大切にし、愛すること。お客さま一人ひとりのリクエストに沿いながらオーダーメイドの花束を作る元山さんの姿からも、そのことを教えられるようです。

「仕事以外にもプロフェッショナルに近い何かをひとつ持っていると、意外と仕事とリンクして相乗効果が得られたりもしますし、もちろんプライベートな時間もすごく輝く。そんな何かを見つけていただけるといいですね」

【元山さんプロフィール】
もとやま・つとむ 1961年神奈川県生まれ。千葉大学園芸学部在学中よりフラワーデザインを学び、86年に第一園芸入社。以来、首都圏のラグジュアリーホテルなどでフラワーデザインに従事。2000年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会で4位入賞。趣味は書道とファッション、ピアノ。毎日書道会会友。和の文化に造詣が深い。

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