古美術店主が勧める、生ける器の選び方とは(花と暮らす 7)

佃達雄さん(撮影・時津剛)
佃達雄さん(撮影・時津剛)

記念日や特別なシチュエーションだけでなく、気軽にセンスよく花を楽しみたい。そんな人が増えています。食卓に、玄関に、洗面台に、トイレに、さりげなく飾られているだけで、花は暮らしを明るく彩って豊かにしてくれます。ひとりの時間を満ち足りた、上質なひとときにするために、花とどう暮らしたらよいのか──。花や緑を愛するプロフェッショナルたちに、その極意を聞き、花と生きる彼らの人生にも迫ります。(取材・志賀佳織)

買ってきた花を「さあ、生けよう」となったときに、やはり問われるのはセンス。大事になってくるのが「器」の選び方です。いつもどおりのガラスの花瓶もいいけれども、例えば骨董(こっとう)を使ってみるなど少し工夫すると、味わい深さも違ってくるかもしれません。

今回は、その古い器に飾ってみるときに、どのようなことに気をつければよいのか、花とともに味わう骨董の魅力とは何なのか、京都市内で「古美術佃」を営む佃達雄さんにお話を伺いました。

予算とほしいものを具体的に伝える

(撮影・時津剛)

「僕はいつも口癖のように言うてますねんけどね、骨董いうのは1万円でも楽しいものもあれば、100万円出してもつまらないものもある。1万円が大金やと思う人もいれば、100万円が大金でない言う人もおる。そやから、こういうものを買うときには、自分の予算を決めるほうがええんです」

骨董店に足を踏み入れたこともない初心者にとって、まず心得ておくべきことは何か。そう尋ねたところ、佃さんからはこんな言葉が返ってきました。

「『自分の部屋にこんなん飾りたいのやけど、3万円までで江戸時代のものないやろか?』あるいは『5000円で江戸時代のご飯茶わんがほしいけどないやろか?』、そうやって自分のほしいものと値段を具体的に決めて探す。それがいいと思います」

全く知識がないのに、いきなりこちらのリクエストをぶつけるのは失礼なのではないかと思ってしまいがちですが、きちんと目的を持って、それをお店に伝えることが、まずは第一歩のようです。

「お客さんの希望を聞いて『それやったら、こんなんどうですか』と言うお店もあれば、『うちはそんな安いもん扱わへん』というお店もある。巡り合って気に入ったら買えばよし、気に入らなかったら買わなくてよし、それまでのことです」

逆に言えば、なんだかわからないけれども中途半端に知ったかぶりをしたり「価値があるものがほしい」というだけの理由で向き合ったりしては、骨董を楽しむ道からは外れてしまうということでしょう。

「知らんことは聞いたらええねん。何も恥ずかしがることあらへん。知ったかぶりはせんことや。まあ、心に思うてることは素直に言うたらええけど、絶対口にしてはならないのは『偽物ですか』『本物ですか』という言葉。偽物や思うたら買わんかったらええだけの話やし。『これ古いものですか』とか、そういうことも言わんほうがええ。それから、手に取って見たいときは『触ってもいいですか』と断るとか、最低限のマナーは守ることやね」

自身の探しているものの希望は、たとえ予算が安くても、ひるまずにきちんと伝えたほうがいいけれども、真贋(しんがん)を問うなど相手を疑うような質問や、古いか新しいかなどといった、あまりに雑駁(ざっぱく)で無粋な質問はマナー違反。そこはあらかじめ心得ておきたいところです。

飾るときは「寸法」を大事に

(撮影・時津剛)

佃さんがこの道に入ったのは40年ほど前。7~8回転職を経てのことでした。

「この仕事は、学歴や年齢、性別、国籍、みな問わへん。そういう仕事やからええなあ思ったんです。金はないし、学歴はないしね(笑)。それと僕は写真が好きやって自分でもよう撮ってたから、美しいもんを見出すこととか、寸法のバランスを見るとか、そんなんも、骨董屋になったときにプラスになったんやね」

北野の天神市の露天商から始めて、1974年に京都に「巴里慧亭(ばりえてい)」を開業、93年に店舗を改装、屋号を「古美術佃」に改めて現在に至ります。お店の外観は、いわゆる骨董商というイメージからは程遠く、現代的なコンクリート打ちっぱなし。その玄関ドアを開けると、土間の奥にすっきりと美しい和室があります。明るすぎない室内に、奥の窓越しに見える緑が映えて、そのまま佃さんの美意識を表しているようです。

「花について言えば、どんな器を使ってええか分からんようになったら、花屋さんよりは骨董屋さんに聞くほうがええやろね。まあ結局はセンスの問題なんやけどね(笑)」

忘れがちですが、意外に大事なのは器の寸法。置く場所のバランスを見て選ぶことが大事だと言います。

「自分とこの床がどれくらいの大きさか、それをよく見て、大き過ぎず、小さ過ぎず頃合いのものを選ぶ。そのときに黒っぽいほうがいいのか、白っぽいほうがいいのか、丸いほうがいいのか、あとは好みやね。『実は砂糖入れにしようと思ってたんや』と作家の人が言うものを『花生けのほうが面白いんちゃうか』とこちらが思って使うとか、それぐらいの柔らかい頭で考えてもいい。そこが面白いわな」

地板を敷いて、山野草を飾って

(撮影・時津剛)

最近は和室も床の間もない家も増えています。マンションのように現代的な住環境で骨董を飾るには、どうしたらよいのでしょうか。

「例えば、周りにどれぐらいの余白があるかにもよるけれども、下に一尺ぐらいの地板を敷いて、その上に軸を掛けるとか、それでも十分や。あとは季節感は大事にしたほうがええな。そしてあしらう花は、どっちか言うたら、山野草に近いもののほうがええやろね。バラやチューリップがあかんいうことはないんやけど、できたら茶花のような和花がやっぱり合うと思うね」

別にことさら凝った花でなくてもよい、と佃さん。庭先や近くに林や山があれば、そこに咲いているシュウカイドウ、ムラサキシキブ、ホトトギス、ホタルブクロ……。そんなさりげない花を1、2輪飾ってみると、なんとも言えない風情が醸し出されます。

「骨董は使わなあかん。箱にしまっておくよりは、生活の中で使ったほうがいい。江戸時代のお皿にトースト乗せて、江戸時代のそばちょこでコーヒー飲んだら、そら楽しいもんやで。ワクワクするやん。そういうことや」

そんな「ワクワクする」骨董に出合うためにどのようなことを大事にしたらよいのか、佃さんの「見立ての美学」とはどのようなものなのでしょうか。

「これはもう、利休の本やなんかにもよう書いてあることやけど『不足の哲学』やろね。ちょっと足らん、ちょっと物足りんけど完成されている。足らんけど満点いうもの。華美なものよりかは、わびたもの、さびたものがいい。器の口とか耳とか、何かが欠けてるんやけどそのことによって別の味わいが生まれたり、パーンと割れていることで、よりようなったり。そこを大事に見極めるといい出合いがあると思います」

【佃達雄さんプロフィール】
1947年京都府生まれ。30歳のときに古美術商に。74年京都で「巴里慧亭」を開業。93年に屋号を「古美術佃」に改め現在に至る。店では日本、中国、朝鮮の陶磁器を中心に扱っている。

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