岐阜にある「茶所」を歩いてみたら、激安の烏龍茶が手に入った!(地味町ひとり散歩 8)

今年は本当にどうなるかわからないですよね。年明けから入っていたライブの仕事は軒並みコロナで中止になりました。

ライブハウスは飲食店に含まれるということで多少の休業補償があるみたいですが、そこに出演するミュージシャンに関しては、現在のところ何も補償が発表されていません。

それどころか、事前に会場費の予約金を払っていたホールなどから「返金不可」と言われて、赤字状態。「一体どうすべい」と思っていた矢先、名古屋でYouTubeラジオが何本か入り、今年初めての仕事となりました。

その仕事先で出会った人の子供(小学校低学年の女の子)が最近、何の前触れもなく「あ゛ーーーっ!」と叫ぶようになったそうです。

「すわ、何かの病気か!」と思ったら、親が教えたわけでもないのにYouTubeで30年も前のたまの動画を見つけて、そこで僕が意味不明の雄叫びをあげているのを真似しているとのこと。人は誰に何の影響を与えているか、わかりませんね。

みなさんもまわりで突如、理由なく叫んでいる人を見たら、それは僕のモノマネかもしれません。でも、とりあえずその場から一刻も早く、立ち去ることを強くお薦めしておきます。

旧中山道の古い街並みを歩いてみる

さて、仕事も一息ついたので、お茶でも飲めるところはないかなと地図を見ていたところ、名古屋からそう遠くない岐阜市内に「茶所」という駅を見つけました。茶どころならお茶もうまいだろうと、さっそく名鉄に乗って向かいました。

到着すると、そこは無人駅でした。駅名の茶所は「ちゃどころ」ではなくて「ちゃじょ」と読むのでした。

駅前にはかなり昭和初期テイストの学校の建物もあり、当時の雰囲気がよく出ています。

歩いてみると立派なお屋敷が目につきます。車避けなのでしょうか、大きな石が塀の前に置かれている家も多かったです。車はこの石に激突したら、かなりのダメージを受けるでしょうね。

どうやらここは旧中山道の宿場町だったようです。

旧中山道と言えば、かつてどこかのテレビ局のアナウンサーが生放送で「いちにちじゅうやまみち」と読んでしまったというハプニングを思い出します。さらに、それを紹介しようとした別の局のアナウンサーが「きゅうちゅうさんどうですよね」と言ってしまいました。

もちろん正解は「きゅうなかせんどう」ですね。プロのアナウンサーでも、漢字の読み方は難しいですね。

さて、ここは無人駅ですから駅前には雑貨屋の一軒もありません。お茶は飲めるのだろうかと心配になったころ、ありがたいことに喫茶店が現れました。

と、ショーウィンドーの左下に、見たことのない「焼とうふ定食」というメニューを見つけてしまいました。

本当はハンバーグ定食が食べたかったのですが、このコラムのために少しは珍しいものを頼むべきだろうと思って、さっそく注文しました。

ご覧のように、鉄板の上でジュウジュウ焼かれた豆腐に味噌ダレがかかっているものでした。さすが名古屋のご近所さんなので、味噌文化なのですね。

まぁ、味噌汁と被っていますが、なかなかヘルシーです。お茶もちゃんとお盆にのっていたので、当初の目的であるお茶もおいしく頂きました。

本当はこういう散歩企画では、地元の人との交流などがあると面白いと思うのですが、そもそも人が歩いていません。みな車でさっと通り過ぎていってしまうのです。

少し前に群馬県の友達のところに行ったとき、車に乗せてもらいました。そのとき「僕は車どころか、免許も持ってないんだよね~」という話をしたところ、友達に大いに驚かれました。

「えっ! 車がなくてどうやって生活しているの!?」と。

僕は埼玉県に住んでいますが、東京と隣接しているので鉄道やバスでどこにでも行けます。近所の移動は自転車があれば特に不自由することはありません。でも、地方では交通手段と言ったら車で、車がない生活というのは考えられないそうです。

もっとも僕も18歳のころ、バイクに乗っていた時期があります。1年間だけ茨城県に住んでいたのですが、自宅近辺に交通機関がほとんどなくて、しょうがなく原付の免許を取ったのです。

しかし、自分はガンガンスピードを出してしまう性格なのであまり運転に向いていないと思い、翌年上京することになったときにその免許はポーンと捨ててしまったのです。なので、それ以来免許は持っていません。

誰もいない細道をひとりで歩く

 

 

茶所駅近くの誰もいない細道をひとりで歩いていると、誰かに見られている気がします。「誰!?」と聞いても、返事はありません。でも、確かに視線を感じるのです…。

と、今度は、キングの缶コーヒーをかなり推している自動販売機を見つけました。でも、キングのコーヒーは以前、三重県の長太ノ浦(なごのうら)を散歩したときに見つけて、もう手に入れてしまっています。

「今回は缶ドリンクの収穫は無しかぁ」と思ったそのとき、目の前にスーパーが現れました。聞いたことのないスーパー名です。

もしかしたら、見たことのない缶ドリンクがあるかもしれません。チェックのために入ってみます。

どうやらここは、岐阜県を中心に展開しているスーパーマーケットチェーンで、なんとPB(プライベートブランド)商品があるではないですか!

そして、ジャーン。

こんなにいっぺんに、新たな缶ドリンクが見つかってしまいました。

PB商品は中間業者を通さないので、格安のことが多いのです。これだけ買って、税込で844円!

基本的にソフトドリンクは30円、アルコールは88円。烏龍茶にいたっては、なんと18円! 僕の長い缶ドリンク購入人生の中でも、1、2を争う激安価格ですね。

そんなわけで、僕はヒャアと悲鳴をあげました。もちろんコレクターとして嬉しい悲鳴ではあるのですが、同時に悲しい悲鳴でもあります。

なぜ悲しいかと言うと、荷物が一気に4キロ近くも増えてしまったので「気軽に散歩」という感じではなくなってしまったのです。

重い荷物をウンウン背負って「もうボチボチ散歩を終わりにしていいですか?」とひとりつぶやきました。すると、誰もいないはずなのに、どこからか返事が聞こえてきました。

僕は、安心して家路につきました、とさ。

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石川浩司 (いしかわ・こうじ)

1961年東京生まれ。和光大学文学部中退。84年バンド「たま」を結成。パーカッションとボーカルを担当。90年『さよなら人類』でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞を受賞し、紅白にも出場した。「たま」は2003年に解散。現在はソロで「出前ライブ」などを行う傍ら、バンド「パスカルズ」などで音楽活動を続ける。旅行記やエッセイなどの著作も多数あり、2019年には『懐かしの空き缶大図鑑』(かもめの本棚)を出版。旧DANROでは、自身の「初めての体験」を書きつづった。

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