僕の中国語は本場で通じるか? 台湾に行ってみたら…(僕の中国語独学記 3)

(イラスト・芥川 奈於)

タピオカミルクティ屋さんで中国語を話せたことに気を良くした僕は、まだろくに基礎もできていないのに、次のステップに進もうとしていた。今度は、本丸・台湾で、自分の語学力を試してみようというのだ。

あまりにも無謀な挑戦にも見えたが、本人はいたって平気な顔をして、やってみないとわからないわけだし、と内心ワクワクしていた。僕は、台湾での取材の段取りをつけて(当時、僕は台湾に関する本を出すために台湾人を取材して回っていた)、台湾に取材に行くという体で、自分の中国語の能力を試す旅に出たのだった。

自分に課した条件はただひとつ。なるべく中国語しか使わないこと!

台北の桃園国際空港に着くと、中国語しか使ってはいけないという制約があるからだろうか、いつもと違って景色が新鮮に見える。妙な緊張感もある。これだよ、これ。僕が待っていたワクワクはこれなんだよ。とひとりごちてただの気持ち悪い中年日本人である。

到着ロビーに出るとさっそく日本円を台湾ドルに両替しないといけない。ここで、「両替」や「exchange」は使ってはいけないのだ。

中国語で両替は「換錢(huan4qian2)」と言うので、丁寧にすると「我想換錢」とでも言うのだろうか。僕は窓口で、とりあえず、2万円を取り出して、「換錢」と言ってみた。すると、みごと通じた。まあ、これくらいは通じて当たり前だろう。

次に、台北駅に向かうリムジンバスの切符売場に向かい、切符を買う。いつもは英語でやり取りしているが、中国語で話しかけたらどうなるのだろう。

僕は、窓口に行って、適当な中国語で、「到台北車站、一個(台北駅まで、一枚)」と言ってみた。すると通じたのだが、何か中国語でまくしたてられ、まったく聞き取れない。僕は、とりあえず聞き取れたふりをして、「是的(はい)」と言って、バス乗り場に向かった。

すると今度は、バス乗り場にいる係員さんに中国語でまくしたてられる。まったく聞き取れない。どのバスに乗ればいいのかわからないので、必死に切符を見せて、教えてもらう。なんとか台北駅行きのバスを見つけ、乗り込んだが、座席に座る頃には疲れ果てていた。

行きのバスの中で「答え」がわかってしまう

バスのなかで僕は分析した。僕の中国語は、自分から発信することはできる。しかし、会話になるとつまずく。いや、向こうから話しかけられても聞き取れない。第一に、リスニング力がない。会話の文脈から、出てくる単語を推測して聞き取る能力もないし、少々わからない単語が出てきたときに「こういうことを言っているんだろうな」と推察する能力もない。

つまり、今の中国語力では、僕は台湾で永遠に、何かを主張し続けなければならないことになる。それは、みなまで言うなの文化で育った日本人には苦痛であるぞ、たぶん。

行きのバスのなかで答えがわかってしまった僕は、意気消沈してしまい、もう日本に帰りたくなっていた。できれば中国語を話したくない……。そんな弱気な僕も顔を出していた。疲れがたまっているのかな。少し寝よう。空港から台北駅までは、1時間近くかかる。僕は仮眠することにした。

台北駅に着いた。午後の飛行機だったので、もう日はとっぷりと暮れていた。ホテルまで歩いていける距離だったので、歩いた。途中、コンビニに寄った。普段、僕はお酒が飲めないのだけど、なんとなく飲みたい気分だったので、台湾名物マンゴービールを1缶買うことにした。その他にも軽く、おにぎりとお菓子を買うことにした。レジへ向かう。

台湾では、レジ袋は有料である。言わないとくれない。僕は、「我要袋子(袋ください)」と言ったら、また中国語でまくしたてられた。もちろん、何を言っているのかわからない。でも、僕に何か回答を要求している。文脈から推察しようとしたが、レジ袋に種類があるとも思えない。「え、レジ袋ってひとつだよね?他に何があるっていうの?」。もう泣きそうだった。

ホテルにチェックインすると、マンゴービールに手を付けた。プハー。普段お酒を飲まない僕だが、疲れていると身にしみる。おいしい。ちょっと早いけど、もう寝よう。

翌日の夜は、取材が入っていた。「秋刀魚」という日本を紹介する台湾のカルチャー誌の編集部のみんなとご飯を食べながら、話を聴くことになっていた。僕は、誰に言うこともなく、「晚安」(おやすみ)と言って目を閉じた。

翌日。午前中と午後、通訳の友人と一緒に取材をこなす。夜、秋刀魚の面々と洒落た台湾料理屋で会うことになっていた。料理屋まで行くと、編集部のみんな(3人)がもう先に来ていた。

編集長に「好久不見(久しぶり!)」と挨拶する。「神田さん、中国語できるの?」と編集長。「実は今勉強してて……」。向こうは日本語がペラペラなので、会話は自然と日本語に。最初にビールを注文することになったので、ここはひとつかまさないと、と思い、「僕が注文する!」と立候補した。

店員さんを呼ぶと「要兩瓶啤酒四個杯子!(瓶ビール2本とコップ4つお願い!)」と威勢よく注文した。編集長から「そんなことばっかり覚えてるの?(笑)」と言われたが、僕の今回の旅のハイライトだった。

課題はわかった。帰ってやることは見えた。あとはこなすだけ。台湾に来てよかった。そう思う僕だった。

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