会社を辞めシェア型書店を立ち上げた男性の「個の想い」〜ひとりでやる第2回〜

(撮影:萩原美寛)
(撮影:萩原美寛)

東京・三鷹でまったく人がいない24時間営業の無人古本屋「BOOK LORD」を作ろうと思い立ち、弟(中西健さん)と共同制作し注目された中西功さん。今度は、それまで副業でやっていたのを、会社を辞めて本格的に挑戦したのが、吉祥寺にあるシェア型本屋「ブックマンション」です。

「ブックマンション」は、お客さんに棚を貸して、小さな本屋さんになってもらい、本屋さんの集合体を作ろうというシステムの本屋さん。どちらも中西さんのひとりの思いから始まりました。ひとりでやることに対して、中西さんはどう思っているのでしょうか。

「ひとりの思いを具現化することはたやすくなっている」

中西:もともとは、誰かひとりの気持ちでスタートしたほうがいいかなと思ったんですよ。じゃないと数人関わって、その合意形成をとって、それからスタートしよう! となると、やっぱり誰かしらの意見を尊重したりしないといけないんで、突拍子もないことって絶対できないと思うんですよ。

――マイルドになっちゃいますもんね。

中西:ひとりの思いを具現化するっていうことはけっこうたやすくなってると思うんですよね。で、今回僕が作ります、ただやっぱりお金も知識も人手も足りない、だけど思いも強かったし、多くの人に協力していただきながら作り上げたかったので、クラウドファンディングに取り組みました。結果的に改装資金の一部を集められたのと、興味を持って多くの方にお店のリノベーションの作業を手伝って頂きました。
僕が「本屋さんを増やしたい」というめちゃくちゃ強い想いを持っていたから、たぶんそれに対して共感してくれたり、その場を楽しんでくれたり、というのはあるんですよね。単純に言ってそこかなと思っています。

――なるほど。

中西:ひとりでやって……たぶん全部はできなくて、でもひとりでやる一番の根本はその「個の想い」の部分ですよね。99%は協力してもらうんだけど、ぶれない1%のことです。

(撮影:萩原美寛)

――では、ひとりでやる「コツ」みたいなのってありますか?

中西:そうですね。なるべく自分を消していくことじゃないですかね。僕は全体の中のひとつの歯車でしかないと思っています。お客さんや棚を借りてくれている方に主役になってもらう。毎回毎回、自分で考えてコンテンツをなんか作ろうと思っていくと、けっこうきついし偏るなと思うんですよ。関わる人に「取り組みたい!」と思ってもらえるほうがいいじゃないですか。

僕の場合はツイッターで、自分の考えを言ったときとかって全然反応ないんですよ。それよりかは、無人古本屋でいうと、こういう本が置かれてましたとか、お客さんがここにお金を置いてくれてました、っていうほうがすごく「いいね」がつくんですよ。たぶんお客さんって、実は店主の意向とかをずっと聞き続けたいわけじゃなくて、お店で起こっている事象に興味があるのかな、ってそう思ったんですよ。

――なるほど。

中西:お客さんは、僕に対してよりもお店の仕組みや関わってくれている人に興味があると思っています。そして、僕自身もそれを望んでいます。

僕は全体の中でのひとつの歯車でしかなく、主役はあくまでお店の仕組みや関わっている人なのです。なので、お店で起きていることを解像度高く伝えてあげる方が、実際はお客さんが、あ! そうなんだというので反応してくれる。

で、それでお客さんが汲み取ってくれるような気がして。なのでなるべく今ある「事象」。例えばブックマンションに台湾からお客さんが来てくれて、「台湾でも同じような形で取り組めたらいいなといってくれました!」っていう事実を伝えることにしています。

(撮影:萩原美寛)

――ひとりになってから会話は増えました?

中西:ひとりでやるときの、あの立ち位置。店主、お客さんという二項対立にしないで、対人で考えると、会う人っていうのがすごい増えると思うんですよ。お客さんである人と話してるというよりは、人として話してるので、日に20人、30人と話してるわけです。たぶん会社員のときって、特定の10人以下の人と話してたと思うんですよね。特定の組織のなかで、決められた人材のなかで。それに比べたらはるかに多様な人と話をしていると思いますし、偶然の出会いはありますね。

――あれに似てますね。「旅」に似てますね。旅ってひとり旅のほうが、人とのふれあいが逆に増えますから。

中西:それはありますね。僕も基本的にひとり旅が多かったですし。ひとりで現地で会った人と一緒に行動して、でまた別れて、現地の人と会って。だから、本屋さんのカウンターに座っていても、孤独になったりすることはまったくないですね。

(撮影:萩原美寛)

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