「ひとり大喜利」で仕事に全力集中 若きビストロオーナーの逆張り経営術

オーナーの中尾太一さん(27)(撮影・萩原美寛)

東京の表参道駅(港区)から徒歩10分ほど。骨董通りの少し奥まった半地下にある「Bistro plein」は、料理の美味しさと、コスパの良さが人気の秘訣。オーナーの中尾太一さん(27歳)が弱冠25歳の時、貯金500万円と1000万円の融資を得てオープンしました。

中尾さんは服部栄養専門学校を卒業後、新卒で星野リゾートに入社し「軽井沢ブレストンコート」においてフランス料理を研鑽後、当時最年少22歳でグループ統括アドバイザリーメンバーに抜擢されたのち、「Soup Stock Tokyo」などで知られるスマイルズで新規事業を担当。25歳で株式会社PLEINを設立し開業した「Bistro plein」は、ランチ営業なし、週休2日制と従業員にも優しいお店です。

決して地価の安くない表参道で、コスパ良く、従業員にも優しいビストロをどう経営しているのでしょうか。そこには中尾さんが考え抜いた“逆張り”の経営術がありました。

「週2日は店を閉める、ランチ営業はしないと最初から決めていた」

――「Bistro plein」を25歳の時にオープンして2年。これまで大変だったことを教えてください。

中尾: 政策金融公庫から融資を得るのは、実はそこまで苦労しなかったんです。事業計画書をきっちり作って、担当の方に「これまで20年間見てきたなかで一番いい計画書だ」と言っていただきました。

表参道にたたずむ「Bistro plein」(撮影・萩原美寛)

ただ、そこからが大変でした。「若すぎる」ということで、大家さんが店舗物件を貸してくれないんです。

この物件は運よくコンペで勝てたのですが、実は「半年以上店が続かない場所」として有名だったようです。オープンから2年経ったので、店舗の賃貸契約を更新したのですが、大家さんが「契約更新は10年ぶりくらいだ」と喜んでいました(笑)

――確かに半地下ですし、駅からも少し離れていますね。なぜここを選んだのでしょうか。

中尾:当初から探していた条件に、ぴったり合致したからです。

お店は階段を下った地下にある(撮影・萩原美寛)

もともと週に2日はお店を閉めて、ランチ営業もやらないと決めていました。それに耐えられる立地、つまりは応援してくれる人たちがいるようなエリア。「1円でも安く」ではなく、少しはお金を払ってもいいものが食べたいというお客様がいて、かつ駅から遠い物件。家賃は高くても、駅近よりは抑えられるからです。表参道駅から10分程度の、この物件はまさにドンピシャでした。

――当初、集客は苦労しませんでしたか?

中尾:苦労しました。独立後3カ月くらいはまったくお客さんが来なかったですね(笑)。

でも、シンプルに決めたことをやり続けました。お客さんが来ないからランチをやる、店を開く日数を増やす、値段を下げるといったことはしない。従業員の士気が下がるとサービスの質も下がるし、値段を下げれば料理の質が下がるからです。

落ち着いた店内(撮影・萩原美寛)
カウンターは一人飲みにもぴったりだ(撮影・萩原美寛)

星野リゾートやスマイルズで学んだことを愚直に実践して、一組一組おもてなしをしました。極論、今もそうですが、来店されたお客様が「ここは美味しくない」「もう来たくない」と思うことなく、リピートしてくださればいつかは繁盛店になる。曲げないぶれない、ということですね。おかげさまで今は、平日でもご予約で埋まってしまい、お客様をお待たせしてしまう日も出てくるようになりました。

「楽しい」と「楽をする」は違う

――中尾さんは調理師専門学校を出て、星野リゾートでは22歳で統括職にも就任されていますよね。もともと、飲食店経営に興味があったのでしょうか。

中尾:もともと、自宅に友人を招いて手作りの料理をふるまったり、人が喜んでいる様子を見たり、そういう空間を作ることが好きでした。あとは、ベタですが高校時代のマクドナルドのアルバイト(笑)。初めてのアルバイトだったのですが、店舗のオペレーションの改善策などを提案して、3カ月で店長代理にしていただきました。やればやれるだけ評価される。フードビジネスっておもしろいなと思ったんです。

親父も経営者なのですが「料理は専門性が高い。トップに立った時に、料理が作れない奴に人はついてこないぞ」と言われて、それもそうだなと思い、自分もまず調理師としての経験は積むことにしました。

店を支えるスタッフたち。中には星野リゾート・スマイルズ時代の同僚も。左から中尾さん、成田純也さん(サービス)、金子裕樹さん(料理長)、石井啓章さん(マネージャー)、伊藤康紘さん(副料理長)(撮影・萩原美寛)

――中尾さんのお店は「週休2日」「利益はみんなで山分け」ということですが、どうやってこの体制を可能にしているのでしょうか。

中尾:僕たちは「Bistro plein」という店舗運営のほかに、会社として外食産業に特化したコンサルティング事業も展開しています。クライアントは、ホテルやカフェ、食品メーカー、ミシュランの星付きレストランまで様々です。

外食産業は現場の専門性が高いので、経営とのミスマッチが起こりがちです。僕達が経営と、現場の間に入ることによって、シェフや店長とも経営者とも話せる。採用支援や人材開発、商品開発のノウハウを提供する事で食のプロジェクトを円滑に運営することができるんです。

オーナーの私の飲食店からの取分が固定で、売上・コストはマネージャー・料理長が管理し全員に公開してるので、売上が増えたりコスト改善が出来た場合はフラットに皆に還元できます。

私自身はレストランを経営しているノウハウを他の事業に活かし、収益を上げる仕組みを作る事で自身の報酬を上げる工夫をしています。

――創業から3年目で、正社員が8人とのことですが。

中尾:はい。社員のうち4人はコンサルティング事業を中心に働いています。「Bistro plein」という現場があるから、そこで有効な施策をクライアントに還元できるんです。

でも、もちろん辞めた人もいます。僕の能力不足ですね。

――どんな理由で辞めていかれたのでしょうか。

中尾:経営者として未熟でVisionや考えている事を伝える事が出来なかった。ということだと思います。「楽しい」ことと「楽をする」ことは違うと僕は思う。「労働環境がいいから楽なんだ」という入り口で来る人もいる。でもそれは違う。そもそも、3人でやっていたものを2人でやるから、還元できるよ、という発想なんです。なのでメリハリが大切です。

ただ直近1年半では離職者は有難い事に0になりました。まだまだ課題は山積みですが、働く皆のお陰で少しずつ楽しい環境が作れていると思います。今働いている仲間ともずっと働きたいと思っていますが、不満のあるネガティブな離職ではなく、独立やチャンスを掴むためのポジティブな転職であればどんどん推奨していきたいと思っています。

「楽しい」と「楽をする」ことは違う、と話す(撮影・萩原美寛)

飲食産業の平均休日が年間60日間としたら、うちは110日の休みがある。うちがクローズしている時間帯、他のお店はランチ営業をしているわけです。だから、僕たちは頑張り方を変えて、他社のコンサルティングなど、知識やノウハウの部分もビジネスとして提供しているんです。朝から晩まで働くのが楽しければそれでもいい。でも、僕の考える「楽しさ」に共感してくれる人に来てほしいですね。

お店というのはどれだけ流行ったとしても、席数と営業時間で売り上げが決まってしまいます。また、メニューの売値も、基本的には変えません。となると、原価と人件費のところを変える工夫をするしかない。

アライアンス事業の利益を元に、お店ではよりやりたいことをやっていく。2周年を期に、9月からメニューをフルリニューアルしました。飛んだり跳ねたりしているような、純粋な楽しさをお皿の上で表現したいと思っています。

フォアグラと白レバーのマカロン ※コースのみ(撮影・萩原美寛)
溢れる有機ヤサイのパフェ・1300円(撮影・萩原美寛)
厳選肉3種食べ比べ 2人前 2900円 (写真は1人前)(撮影・萩原美寛)

机の上を片付けて繰り広げる“ひとり大喜利”

――「ひとりの時間」はどのように過ごしていますか。

中尾:ひとりで過ごすのは大好きです。決めていることがあって、オンに振り切るか、オフにするかどちらか。中間は作りません。

オンの時は、机の上を全部フラットにして、隣りに椅子を置いて、やることを全部ひとつずつ紙に書いて積む。ほかのすべてを遮断して、椅子の上から紙を1枚ずつばっと取って「売上について」だったら、ひたすらそれについて考える。次「A社の案件について」だったら、またそれに没頭。“ひとり”大喜利ですね。気が付くと7時間くらい経っています。

できれば1週間に1回、難しくても2週間に1回。その時間があるから今の自分が成立している、生命線だと思います。

逆にオフは、自分を誘惑するものだけを身の周りに置きます(笑)。漫画が好きなので『ワンピース』とか『キングダム』とか『彼岸島』とかを大人買いして一気読み、とか。コンビニの総集編を端から端まで買ってみるとか。好きなパティスリーのケーキやお菓子で少し贅沢をしたり。代々木上原の「アステリスク」(東京都渋谷区)や、用賀「RYORA」(東京都世田谷区)などが好きです。

音楽をかけて、部屋を暗くして、自分を甘やかす以外の情報を遮断する(笑)。音楽はAmazonのプライムミュージックで適当に選んだり、いとこがプロのミュージシャンなので彼の曲をかけることもあります。

オフは2週間に一度、1回4~5時間程度ですね。(何をするかは)流行っているからとか、マーケティングに有効だ、とかではなく純粋に好きなものをチョイスします。オンラインだとメールが来たり、仕事の情報が入ってきてしまうのでそれもやめています。

――今後、実現したいことはありますか?

中尾:外食を憧れられる産業にしたいと思っています。専門学校の友達と会ったり、飲み会などに行ったりするとどうしても「給料が安い」「でもこれだけがんばっている」といった話題になることが多いんです。

事実、外食産業は勉強すればするほど難しいところがあります。むしろ負ける要素しかないかもしれない。利益率は低いし、東京五輪前で家賃も上がる、人件費も上がる……。

独立前も、開業資金を貯められるだけのお給料はいただいていました。でも、ほかの産業の人と話していると「でも外食(産業)でしょ?」と言われてしまったり。

「好きなもんはしょうがない」(撮影・萩原美寛)

結論はやっぱり、僕はこの仕事が好き。恋愛と同じで「あの女の子と付き合うのやめなよ」と言われたとしても「でも好きなもんはしょうがない」となるじゃないですか(笑)。好きなものをダサいと言われているのが、嫌なんですよ。だから人生を賭けて食の仕事をしたいと思っています。

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富谷瑠美 (とみや・るみ)

MediaVista代表取締役 兼 ライター/コンテンツディレクター。アクセンチュア、日経新聞、リクルートを経て独立。2019年7月からは香港に移住し、深圳・東京を行き来しながらスタートアップや経営者を取材。報道・PR・広告・オウンドメディアとネットメディアの全領域を経験した活字コンテンツオタク。

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