渋谷の地下で堪能する、八丈島の美味と人の縁(大人のひとり美食)
フリーのバイヤーとして、雑貨のバイイングやメーカーのブランディングなどに携わる木田真由美さん(47歳)。アパレルの仕事は夜遅くなることが多いので、夕食はお酒を飲みに行くというスタイルが自然とできあがったのだそうです。そんな木田さんのひとり美食スタイルを教えていただきました。
大好きな店になると確信した
いるだけでパッと周囲を明るくする雰囲気の持ち主である木田さん。米国発の高級衣料・雑貨店を日本で運営する「バーニーズ・ジャパン」を経て、日本の伝統技術や美しさに魅せられ、メイドインジャパン商材のみで展開する「藤巻商店」の雑貨バイヤーに転身しました。現在はフリーランスとして、ECセレクトショップのバイイングやブランディングなどに携わっています。
木田さんにとって、ひとりでご飯を食べるのは、飲みに行くことと同じ意味だといいます。なかでも日本酒や焼酎が飲める、小料理屋や居酒屋に行くのがホッとするのだそうです。
「その日の疲れを家に持ち帰りたくなくて。お店の方や常連さんと飲みながら他愛のない話をしていると、帰りにはしっかり充電されて元気になってるんです」
渋谷駅から明治通りをしばらく恵比寿方面に歩いた、並木橋交差点手前のビルの地下1階。木田さんが特にお気に入りの店はここにあります。もともと、近くにあるバーに、かつての上司によく連れて行ってもらっていたのですが、そこで、店長の鶴岡洋平さんに出会ったのがきっかけです。
「この店はもともと、1968年に創業したお寿司屋さんでした。店主が亡くなり、奥様である女将が『わたら瀬』を切り盛りされていましたが、後継者もなく『もう畳む』と言ったのを聞いて、鶴岡さんが『それなら自分が跡を引き取って店をやるから』と言ったんだそうです。そういう男気に感激しちゃって、まだお店に行く前から、大好きな店になると確信してたんです」(木田さん)
旅を続けるうちに好きになった八丈島
当時、開店のために物件を探していた時に女将を紹介され、個人的に飲みに来ていたという鶴岡さん。閉店予定と聞いて、だんだん40年もの老舗のお店がなくなることはもったいないという気持ちが募り、「わたら瀬」という看板を継ぎたい思いを伝えました。
「女将は快諾してくれ、本当の息子のように応援してくれたおかげで、2009年に『四季料理居酒屋わたら瀬』としてリニューアルできました」(鶴岡さん)
鶴岡さんがお店を始めて10年。常連さんも多く通うようになりました。「また再訪して頂けるように、努めるのみです」。言葉数は少ないですが、何事にも真摯に向き合う鶴岡さんの姿勢が、料理から伝わってきます。
四季折々の素材のよさをシンプルに生かした料理がメニューに並ぶ中、目を引くのが八丈島から直送されるという、旬の魚を使った料理。
なぜ八丈島? と聞くと「もともと旅が好きでいろんな島に行っていたのですが、なかでも八丈島が大好きになって、何度も通っていたんです。今、その時のつながりを生かして、魚を取り寄せています」と鶴岡さん。船の上から漁師が直接連絡をくれて送る手配をしてくれるという、これ以上ない鮮度で魚が届きます。
今回、木田さんが選んだのも八丈島ゆかりの料理が中心で「梅わさび」「ニラのお浸し」「明日葉の天ぷら」「島寿司」でした。
「これはもう、私の中での定番中の定番。合わせるお酒もおいしく、食が進みます」(木田さん)
地元の祭りにも神輿を担いで参加
鶴岡さんは、町内会を盛り上げようという気持ちも強く、毎年秋に行われる渋谷金王八幡宮の例大祭で、着替えの場所を貸し出し、その後の打ち上げ会場として店を提供しています。
地域社会に貢献しようという鶴岡さんの姿勢に、木田さんも共感し、祭りに参加するようになったそうです。
「この店に集合して、法被に着替えて、神輿をかつぐ。お祭りが終わったらみんなでここで打ち上げするんです。楽しいんですよ」(木田さん)
鶴岡さんの男気ある思いに惚れて人々が集まり、祭りに一緒に参加し、お客とお店の縁が深まっていくのも、お店のもう一つの魅力だといいます。
「それから、この店の雰囲気。ちょっと古めかしくて、いいでしょう。昔のお寿司屋さんだった頃のたたずまいをそのまま残しているんですって。お洒落な店より、私にはここが落ち着けるんですよね」(木田さん)
今日も、カウンターには、常連さんに混じって木田さんが座っているかもしれません。
〈店名〉
わたら瀬〈住所〉
東京都渋谷区渋谷3-15-2 住銀ビルB1〈営業時間〉
11:30〜14:00/17:00〜24:00
店休日・日曜、祝日(他不定休あり)〈ご予約・お問い合わせ〉
☎03-3409-1702