東京と大阪の銭湯の違い 大阪の電気風呂は気持ちいい

「このピリピリ感がたまらんですわ」。銭湯のご主人自ら「電気風呂」をPRしてくれた=大阪市浪速区の「新世界ラジウム温泉」
「このピリピリ感がたまらんですわ」。銭湯のご主人自ら「電気風呂」をPRしてくれた=大阪市浪速区の「新世界ラジウム温泉」

「東京東京東京東京……」。「東京」という字を何十回も重ね、「書けば書くほど悲しくなる」と結んだのは青森出身の寺山修司だった。東京的価値観が全国を包みこんでいる時代。たしかに「東京東京」とオセロの駒のようにすべてが同じ色に染まっていいのだろうか。そんなことを心配してしまう。

その点、大阪はうれしい。東京に同調しないものがある。たとえばエスカレーターの「右乗り」。諸説あるが、1970年の大阪万博のとき、急ぐ人のために左側を空けるよう鉄道会社が呼びかけたのがきっかけとか。京都や滋賀では東京と同じ「左乗り」も最近見かけるが、大阪(なぜか神戸、奈良、和歌山も)は変わりそうもない。「東京がおかしいんや。右乗りが正しい」と大阪に住む友人は言う。

居酒屋でも違うものがある。瓶ビールの呼称。大瓶は「おおびん」ではなく「だいびん」。中瓶は「ちゅうびん」だが、小瓶は「こびん」ではなく「しょうびん」である。「『しょんべん』と間違えられないだろうか」。またまた勝手な心配もするが、歯切れがいい言い方を意識する東京とは明らかに違う。喫茶店ではアイスコーヒーを「レー(冷)コー」と縮めて言う人もいる。本当かどうかはわからないが、クリームソーダを「クーソー」と呼ぶ人もいるそうだ。

さて、銭湯。北海道の稚内から鹿児島の奄美大島まで年間延べ80~100軒の銭湯に通っている「銭湯記者」としてはここでも、東京と大阪の違いを発見した。「電気風呂」がほとんどの銭湯にあるのだ。お湯に微弱な電気を流し、ビリビリの刺激を楽しむ風呂である。

「たしかに、東京より圧倒的に多い。電気風呂の発祥の地、と言っていいかもしれませんね。出力電圧も大阪のほうが高いんですわ。アトラクション的な意味合いもあり、新奇なものを好む大阪人気質にもぴったりだったんでしょうね」

通天閣の真下にある老舗銭湯「新世界ラジウム温泉」の主人、田前博巳さんが教えてくれた。氏は大阪府公衆浴場業生活衛生同業組合の理事でもある。

すべてが東京流ではおもしろくない

ここの浴槽は広く、深い。湯船につかる。やはり東京よりビリビリくる。効き目がありそう。とはいえ、「1回につき3分以内。1日3回まで」の注意書き。心臓病の人や飲酒後の入浴は禁物である。

仕組みを伺うと、浴槽に設置した電極板から電気を流していた。電源装置は銭湯の裏手の釜場に置かれ、出力電圧は0~10ボルトで調整できるようになっている。調べると、すでに69年前の1949年、大阪市にあった「大阪物療学校」(当時)の初代校長、田中金造博士が電気風呂に言及していた。「電流に依り治療する場合は安全無害にして顕著なる効果を有する……」。神経痛やリウマチ、不眠症などに効き目があるというのである。さすが、電気風呂。アンタは偉い!

とはいえ、苦手な人もいるだろう。そんな人には刺激の弱い電子マッサージ風呂「揉兵衛(じゅうべえ)」がおすすめ。関西方面の銭湯や健康ランドで楽しむことができる。大阪市内の健康ランドは腰掛けタイプの電気風呂である。ビリビリくるだけの従来型の電気風呂と違い、押したり、もんだり、たたいたり。刺激がさまざまに変化する。腰痛持ちの身には、ことのほかありがたい。

ああ極楽、極楽。すべてが東京流になったら、たしかに世の中、おもしろくない。湯船に浸かりながらそんなことを考えた。たかが銭湯、されど銭湯である。

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小泉信一 (こいずみ・しんいち)

1961年生まれ。朝日新聞編集委員(大衆文化担当)。演歌・昭和歌謡、旅芝居、酒場、社会風俗、怪異伝承、哲学、文学、鉄道旅行、寅さんなど扱うテーマは森羅万象にわたる。著書に『東京下町』『東京スケッチブック』『寅さんの伝言』など。

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